統合型リゾート(IR)を学ぶ映画連載第24回は、コロナ禍のため、延期に次ぐ延期の中ついに公開された007の第25作「ノー・タイム・トゥ・ダイ」とともに、カジノと切っても切れない「007」映画シリーズを振り返る。特にダニエル・クレイグのボンド第一作「カジノ・ロワイヤル」はシリーズ中、最も深くポーカーゲーム、テキサス・ホールデムをフィーチャーした異色作で、全体の3分の1強がカジノ・シーンという映画で、リブートに成功した。その後のダニエル・ボンドとカジノの関わりを見ていきたい。*ネタバレあり
「007 ノー・タイム・トゥ・ダイ」(2021年 アメリカ・イギリス)
https://moviewalker.jp/mv63552/
■ダニエル・クレイグ主演のボンド映画
「007 カジノ・ロワイヤル」(2006年)
「007 慰めの報酬」(2008年)
「007 スカイフォール」(2012年)
「007 スペクター」(2015年)
「007 ノー・タイム・トゥ・ダイ」(2021年)
ダニエル・クレイグは、15年間で、5本の作品でジェームズ・ボンドを演じた。「カジノ・ロワイヤル」は元々、原作のイアン・フレミングの小説の第一作で、ボンドは殺しのライセンス00(ダブルオー)を取ったばかりで、ボンドがボンドになるところからスタートする。ダニエル・クレイグの演じた5作はひとつながりの作品ともいえるもので、彼の成長や迷い、悩みなど、これまでの007ではあえて踏み込まなかった内面(特に愛。異色作の「女王陛下の007」は結婚と別れが描かれていて、「ノー・タイム・トゥ・ダイ」の下敷きにもなっている。何よりも、第6作「女王陛下の007」の挿入歌として知られるルイ・アームストロングの「愛はすべてを越えて」がエンディングに援用されている)、さらには、007に登場するおなじみのキャラクターたち、MやQ、マネーペニー、CIAのフィリックス・ライターなど、仕事仲間や上司とのかかわり、そして、敵組織や首領のバックボーンまで、時系列的に物語られている。
ところで実は、「ノー・タイム・トゥ・ダイ」にはカジノは出てこない。前作の「スペクター」で007を引退してマドレーヌ・スワンと暮らしていたボンドは、今回の物語は仕事ではなく巻き込まれた形なので、いつも敵地への潜入などで訪れるカジノが出てこないのは仕方がない。さらに言えば、ダニエル・ボンドの第2作「慰めの報酬」、「スペクター」にも出てこない。カジノが「カジノ・ロワイヤル」以降、大々的に出るのは、シリーズ最大の興収、約11億ドル(公開の2012年のレートで約902億円)を記録した第3作「スカイフォール」だ。
「スカイフォール」では、まず、ボンドの上司であるM(ジュディ・デンチ。その後、Mは別の人物に変わる)への脅迫メールがジャックポットになっていて印象深い。その後、上海で激しいバトルで倒した敵パトリスの残したケースに、マカオと刻印されたカジノのチップがあり、これを持ってマカオに乗り込む。カジノは架空の超エキゾチックな中国の宮殿風の建物で、ボンドは、提灯がかかった船に乗ってカジノに入る。チップは特別なもので換金所で巨額の紙幣と交換するが、パトリスを殺した人間がやって来ると待っていた敵側のセブリンに出会い、その手下3名と戦い、倒す。
実際に、このようなカジノは存在していない。IR的な現実のマカオとはかけ離れた、これまでの007シリーズに出てくる架空の舞台としてのカジノだ。イメージ的には香港の水上レストランに近い。マカオのカジノと言うと、過去作では、ロジャー・ムーア版の「黄金銃を持つ男」に、実際にかつてあったフローティング・カジノこと、皇宮娯楽場(カジノ・マカオ・パレス)が出てくる。これのイメージに近い。殺したパトリスの代わりに手に入れた大金を、一緒に潜入したマネーペニーに渡したボンドは「赤に賭けろ」と言い残すところも楽しい。「カジノ・ロワイヤル」では、ポーカー・ゲーム自体が重要な役割を果たしていて、ボンドやヴェスパー、敵のル・シッフルの性格や人生を表していたが、結局、ダニエル・クレイグの5作の中では、どんどん、影を薄くしていったことが分かる。カジノも、昔ながらのボンド・ガールも払拭していった対象だったのだろう。
シリアスでリアルなボンドに仕切りなおしたダニエルの一作目「カジノ・ロワイヤル」は、あえて、イアン・フレミングの小説の第一作を取り上げ、原作にかなり忠実なストーリーに徹したことにより、これまでは、スパイ映画の華麗な道具立てに過ぎなかったカジノを、初めて真剣勝負で取り上げ、頭脳戦が重要なファクターになった新機軸だった。その後、5作続いていく人間ドラマの中で、次第に出番が無くなっていったカジノだが、大ヒットの3作目では、あえて、ボンドお得意のヨーロッパのシックなカジノではなく、リアル世界でラスベガスを凌駕したマカオを舞台に、過去の007王道な破天荒さを思いださせる形で(何せ、カジノの中にコモドドラゴンの庭があり、そこで戦う!)組み込みんでいる。オールド・ファンも楽しめる場面だったが、映画後半は驚きのMの物語へと、スカイフォールしていき、次の「スペクター」、最後の「ノー・タイム・トゥ・ダイ」へと、カジノは復活することなく、重厚な人間ドラマに収束していく。
空前の成功を収めた「スカイフォール」の直前には、2012年ロンドンオリンピックの開会式内で流されたショートフィルム、幸福と栄光(Happy and Glorious)の中で、ダニエル・クレイグが、ジェームズ・ボンドとして、本物の(!)エリザベス女王をバッキンガム宮殿から開会式会場までエスコートするという、まさに”女王陛下の007”という一幕もあった。
因みに、「カジノ・ロワイヤル」は1967年に、コロムビア映画(現ソニー)が、パロディ的な作品として先に映画化していたため、MGMとイオン・プロダクショングループで映画化できなかったのだが、ソニーがMGMを買収したために可能になったという経緯もある。そして「ノー・タイム・トゥ・ダイ」は、そのソニー・ピクチャーズが契約満了し、国際配給権を獲得したユニバーサル・ピクチャーズが配給する初のボンド映画となる。
「カジノ・ロワイヤル」のポーカーの舞台は、ヨーロッパ東部のモンテネグロ。アドリア海に面した海岸線にはカジノも多くある。実際はチェコの温泉保養地、カルロヴィ・ヴァリのグランドホテル・パップで撮影されたのだが、アメリカやマカオ、シンガポールとは大きく趣を異にしている。日本のIR候補地は大阪、長崎、和歌山が手を挙げて、事業者も選定され、詳しい提案内容も徐々に明らかになっているが、この007が繰り広げてきた蝶ネクタイのタキシードにドレスというバリバリのドレスコードが活きるヨーロッパ型のカジノは、長崎のカジノ・オーストリアの提案が近いだろうか。カジノ・オーストリアのカジノ施設は約12,000㎡で、ヨーロッパ本場のオーストリア風のデザインを採用し、アジアでは珍しい、格式高い大人の社交場を目指す、と言う。
「ノータイム・トゥ・ダイ」は当初、2020年2月14日に全世界公開予定とアナウンスされていた。ところが、新型コロナ感染症の影響で、イギリスで同年4月3日、アメリカで4月8日、日本で4月10日の公開となった上に、さらに3回の延期が発表されて、ようやく公開された。
興行成績だが、イギリスで2021年9月30日、日本で10月1日、アメリカでは10月8日公開だが、日本では、10月2日、3日の土日で28万1,676人を動員し、興収4億3,073万6,220円、スタート3日間の金・土・日ので累計42万1,995人を動員、6億1,090万2,320 円を稼いだ。国内週末興行ランキングNO.1はもちろん、2015年に公開され国内で29.5億円を稼いだ前作「007 スペクター」の金・土・日3日間の129.5%を記録し(先行上映を除く)、ダニエル・ボンドとしては、シリーズ最高の興行収入30億円を超える勢いだ。
海外でも、イギリスが初日(木)・金・土・日の4日間、約3,600館で公開し累計3480万ドル(約38億6280万円)、アイルランド、ドイツ、スイス、ノルウェー、メキシコ、韓国を含む54地域のオープニングで累計約1億1900万ドル(約132億円)を叩き出し、日本、香港、ドイツ、スペインなどの24か国では、007シリーズ史上最高のオープニング興収を記録している。新型コロナウィルス感染症の拡大以降、米国外での興行収入が中国以外では初めて1億ドル(約111億円)を超えた。10月7日木曜日の全米プレビュー上映でも、約630万ドル(約6億9,930万円)を記録。「スカイフォール」の約460万ドル(約5億1,060万円)、「スペクター」の約530万ドル(約5億8,830万円)を上回っており、最終的な全世界の興行収入は、ダニエル・クレイグの最後のボンド映画を飾る素晴らしい成績を収めそうだ。
■007を取り上げた連載
第12回「クレージー黄金作戦」「007/ダイヤモンドは永遠に」 ーラスベガスのど真ん中でロケを敢行!
https://jair.report/article/429/
第15回「007 カジノ・ロワイヤル」ーポーカーの華、テキサス・ホールデムを極める
https://jair.report/article/454/
■他の連載バックナンバー
第1回「バグジー」ーラスベガスを作った男の華麗で危険な香りいっぱいのロマンスを描く
https://jair.report/article/323/
第2回「オーシャンズ11」ークールでイケイケの”ラスベガス像”を作った大ヒット映画
https://jair.report/article/321/
第3回「ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い」ーラスベガスらしさ全開の大ヒットコメディ
https://jair.report/article/335/
第4回「クレイジー・リッチ!」ーIRで急成長した「シンガポール」と、IRを支える「超富裕層」を2時間で理解する
https://jair.report/article/341/
第5回「ラストベガス」ーラスベガスの新旧の魅力を存分に味わえる映画
https://jair.report/article/351/
第6回「ゴッドファーザー」ー映画史に残る傑作はIR映画だった!?
https://jair.report/article/361/
第7回「カジノ」ーその危うさをきちんと理解しておくことが、健全なIR作りの土台となる
https://jair.report/article/371/
第8回「ロッキー」シリーズ ーボクシングの聖地ラスベガスの変遷がよくわかる
https://jair.report/article/380/
第9回「カジノタイクーン」「ゴッド・ギャンブラー」ースタンレー・ホーとマカオ、香港の歴史が分かる
https://jair.report/article/390/
第10回「グランド・イリュージョン」シリーズ ーラスベガスと深い関係のイリュージョンを学ぶ
https://jair.report/article/396/
番外編 真夏のIR映画座談会 連載担当3人がIR映画の魅力を語る
https://jair.report/article/416/
第11回「エルヴィス・オン・ステージ」 ーラスベガスでの伝説的な常設公演を体感する
https://jair.report/article/419/
第13回「アビエイター」ーラスベガスを浄化したとされている、謎の大富豪ハワード・ヒューズの真実に迫る
https://jair.report/article/434/
第14回「ラスベガスをぶっつぶせ」ーカジノのゲームとセキュリティの裏側を知る
https://jair.report/article/448/
第16回「ロケットマン」ーエルトン・ジョンを通してラスベガスのレジデンシー・ショーを学ぶきっかけとなる
https://jair.report/article/461/
第17回「リアル」ー韓国でのIR開業とそのプロモーションについて学ぶ
https://jair.report/article/466/
第18回「ジェイソン・ボーン」ー”テック系のMICEと言えばラスベガス”を学ぶ
https://jair.report/article/470/
第19回「名探偵コナン ゼロの執行人」「名探偵コナン 紺青の拳」ー日本アニメの影響力をきちんと認識しておこう
https://jair.report/article/473/
第20回「ベガスの恋に勝つルール」ー恋愛映画からラスベガスの結婚ビジネスを考える
https://jair.report/article/476/
第21回「ラスベガスをやっつけろ」「リービング・ラスベガス」ー超変わり種映画でラスベガスの奥深さを知る
https://jair.report/article/486/
第22回「コン・エアー」ー爆破解体! 最後の瞬間までショーアップするラスベガス魂の研究
https://jair.report/article/493/
第23回「コンテイジョン」「夜に生きる」「マイ・ブルーベリー・ナイツ」「LOGAN/ローガン」ー実はIRやカジノが登場する映画
https://jair.report/article/500/
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ダニエル・クレイグの007に出てくるカジノは非常に偏っている!?
最新作「007 ノー・タイム・トゥ・ダイ」の監督は、当初は、ダニー・ボイルの予定だったが、方向性の違いで彼が降板し、日系のキャリー・ジョージ・フクナガに変わった。交代によって内容に変更があったのか、最新作の敵役のラミ・マレック演じるリューツィファー・サフィンが被る能面に始まり、敵の基地が旧日本軍の基地からソ連軍の潜水艦基地に転用された島だったり、その中に畳が敷かれた和室空間があるなど、全編に日本がちりばめられた作品となった。ダニエル・クレイグは、前作の「スペクター」撮影後、引退を決意していたという。しかし、翻意して続投した理由を「『カジノ・ロワイヤル』に始まった何かを終わらせるため」と語っており、カジノ・ロワイヤルで愛しながら死別したヴェスパー・リンド(エヴァ・グリーン)への想いに決着をつける、ダニエル・ボンド5作を総決算した映画になっている。■ダニエル・クレイグ主演のボンド映画
「007 カジノ・ロワイヤル」(2006年)
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「007 慰めの報酬」(2008年)
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「007 スカイフォール」(2012年)
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「007 スペクター」(2015年)
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「007 ノー・タイム・トゥ・ダイ」(2021年)
ダニエル・クレイグは、15年間で、5本の作品でジェームズ・ボンドを演じた。「カジノ・ロワイヤル」は元々、原作のイアン・フレミングの小説の第一作で、ボンドは殺しのライセンス00(ダブルオー)を取ったばかりで、ボンドがボンドになるところからスタートする。ダニエル・クレイグの演じた5作はひとつながりの作品ともいえるもので、彼の成長や迷い、悩みなど、これまでの007ではあえて踏み込まなかった内面(特に愛。異色作の「女王陛下の007」は結婚と別れが描かれていて、「ノー・タイム・トゥ・ダイ」の下敷きにもなっている。何よりも、第6作「女王陛下の007」の挿入歌として知られるルイ・アームストロングの「愛はすべてを越えて」がエンディングに援用されている)、さらには、007に登場するおなじみのキャラクターたち、MやQ、マネーペニー、CIAのフィリックス・ライターなど、仕事仲間や上司とのかかわり、そして、敵組織や首領のバックボーンまで、時系列的に物語られている。
ところで実は、「ノー・タイム・トゥ・ダイ」にはカジノは出てこない。前作の「スペクター」で007を引退してマドレーヌ・スワンと暮らしていたボンドは、今回の物語は仕事ではなく巻き込まれた形なので、いつも敵地への潜入などで訪れるカジノが出てこないのは仕方がない。さらに言えば、ダニエル・ボンドの第2作「慰めの報酬」、「スペクター」にも出てこない。カジノが「カジノ・ロワイヤル」以降、大々的に出るのは、シリーズ最大の興収、約11億ドル(公開の2012年のレートで約902億円)を記録した第3作「スカイフォール」だ。
「スカイフォール」では、まず、ボンドの上司であるM(ジュディ・デンチ。その後、Mは別の人物に変わる)への脅迫メールがジャックポットになっていて印象深い。その後、上海で激しいバトルで倒した敵パトリスの残したケースに、マカオと刻印されたカジノのチップがあり、これを持ってマカオに乗り込む。カジノは架空の超エキゾチックな中国の宮殿風の建物で、ボンドは、提灯がかかった船に乗ってカジノに入る。チップは特別なもので換金所で巨額の紙幣と交換するが、パトリスを殺した人間がやって来ると待っていた敵側のセブリンに出会い、その手下3名と戦い、倒す。
実際に、このようなカジノは存在していない。IR的な現実のマカオとはかけ離れた、これまでの007シリーズに出てくる架空の舞台としてのカジノだ。イメージ的には香港の水上レストランに近い。マカオのカジノと言うと、過去作では、ロジャー・ムーア版の「黄金銃を持つ男」に、実際にかつてあったフローティング・カジノこと、皇宮娯楽場(カジノ・マカオ・パレス)が出てくる。これのイメージに近い。殺したパトリスの代わりに手に入れた大金を、一緒に潜入したマネーペニーに渡したボンドは「赤に賭けろ」と言い残すところも楽しい。「カジノ・ロワイヤル」では、ポーカー・ゲーム自体が重要な役割を果たしていて、ボンドやヴェスパー、敵のル・シッフルの性格や人生を表していたが、結局、ダニエル・クレイグの5作の中では、どんどん、影を薄くしていったことが分かる。カジノも、昔ながらのボンド・ガールも払拭していった対象だったのだろう。
シリアスでリアルなボンドに仕切りなおしたダニエルの一作目「カジノ・ロワイヤル」は、あえて、イアン・フレミングの小説の第一作を取り上げ、原作にかなり忠実なストーリーに徹したことにより、これまでは、スパイ映画の華麗な道具立てに過ぎなかったカジノを、初めて真剣勝負で取り上げ、頭脳戦が重要なファクターになった新機軸だった。その後、5作続いていく人間ドラマの中で、次第に出番が無くなっていったカジノだが、大ヒットの3作目では、あえて、ボンドお得意のヨーロッパのシックなカジノではなく、リアル世界でラスベガスを凌駕したマカオを舞台に、過去の007王道な破天荒さを思いださせる形で(何せ、カジノの中にコモドドラゴンの庭があり、そこで戦う!)組み込みんでいる。オールド・ファンも楽しめる場面だったが、映画後半は驚きのMの物語へと、スカイフォールしていき、次の「スペクター」、最後の「ノー・タイム・トゥ・ダイ」へと、カジノは復活することなく、重厚な人間ドラマに収束していく。
空前の成功を収めた「スカイフォール」の直前には、2012年ロンドンオリンピックの開会式内で流されたショートフィルム、幸福と栄光(Happy and Glorious)の中で、ダニエル・クレイグが、ジェームズ・ボンドとして、本物の(!)エリザベス女王をバッキンガム宮殿から開会式会場までエスコートするという、まさに”女王陛下の007”という一幕もあった。
因みに、「カジノ・ロワイヤル」は1967年に、コロムビア映画(現ソニー)が、パロディ的な作品として先に映画化していたため、MGMとイオン・プロダクショングループで映画化できなかったのだが、ソニーがMGMを買収したために可能になったという経緯もある。そして「ノー・タイム・トゥ・ダイ」は、そのソニー・ピクチャーズが契約満了し、国際配給権を獲得したユニバーサル・ピクチャーズが配給する初のボンド映画となる。
「カジノ・ロワイヤル」のポーカーの舞台は、ヨーロッパ東部のモンテネグロ。アドリア海に面した海岸線にはカジノも多くある。実際はチェコの温泉保養地、カルロヴィ・ヴァリのグランドホテル・パップで撮影されたのだが、アメリカやマカオ、シンガポールとは大きく趣を異にしている。日本のIR候補地は大阪、長崎、和歌山が手を挙げて、事業者も選定され、詳しい提案内容も徐々に明らかになっているが、この007が繰り広げてきた蝶ネクタイのタキシードにドレスというバリバリのドレスコードが活きるヨーロッパ型のカジノは、長崎のカジノ・オーストリアの提案が近いだろうか。カジノ・オーストリアのカジノ施設は約12,000㎡で、ヨーロッパ本場のオーストリア風のデザインを採用し、アジアでは珍しい、格式高い大人の社交場を目指す、と言う。
「ノータイム・トゥ・ダイ」は当初、2020年2月14日に全世界公開予定とアナウンスされていた。ところが、新型コロナ感染症の影響で、イギリスで同年4月3日、アメリカで4月8日、日本で4月10日の公開となった上に、さらに3回の延期が発表されて、ようやく公開された。
興行成績だが、イギリスで2021年9月30日、日本で10月1日、アメリカでは10月8日公開だが、日本では、10月2日、3日の土日で28万1,676人を動員し、興収4億3,073万6,220円、スタート3日間の金・土・日ので累計42万1,995人を動員、6億1,090万2,320 円を稼いだ。国内週末興行ランキングNO.1はもちろん、2015年に公開され国内で29.5億円を稼いだ前作「007 スペクター」の金・土・日3日間の129.5%を記録し(先行上映を除く)、ダニエル・ボンドとしては、シリーズ最高の興行収入30億円を超える勢いだ。
海外でも、イギリスが初日(木)・金・土・日の4日間、約3,600館で公開し累計3480万ドル(約38億6280万円)、アイルランド、ドイツ、スイス、ノルウェー、メキシコ、韓国を含む54地域のオープニングで累計約1億1900万ドル(約132億円)を叩き出し、日本、香港、ドイツ、スペインなどの24か国では、007シリーズ史上最高のオープニング興収を記録している。新型コロナウィルス感染症の拡大以降、米国外での興行収入が中国以外では初めて1億ドル(約111億円)を超えた。10月7日木曜日の全米プレビュー上映でも、約630万ドル(約6億9,930万円)を記録。「スカイフォール」の約460万ドル(約5億1,060万円)、「スペクター」の約530万ドル(約5億8,830万円)を上回っており、最終的な全世界の興行収入は、ダニエル・クレイグの最後のボンド映画を飾る素晴らしい成績を収めそうだ。
■007を取り上げた連載
第12回「クレージー黄金作戦」「007/ダイヤモンドは永遠に」 ーラスベガスのど真ん中でロケを敢行!
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第15回「007 カジノ・ロワイヤル」ーポーカーの華、テキサス・ホールデムを極める
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https://jair.report/article/396/
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