【IR映画ガイド】爆破解体! 最後の瞬間までショーアップするラスベガス魂の研究 (1/2)

塚田正晃(KADOKAWA)

 統合型リゾート(IR)を学ぶ映画連載。今回は「コン・エアー」に見る、営業終了後もその施設を最後までとことん活用するラスベガス魂の研究だ。映画のストーリー自体はIRともカジノとも直接的な関係はないものの、終盤の派手なアクション・シーンにラスベガスが登場。どうせCGに違いないと高を括ったあのシーンがまさかの実写映像だった…という話と、閉館した施設の解体までもをエンタメにしてしまう企画力の話。*ネタばれあり

「コン・エアー」(1997年 アメリカ)
https://movie.walkerplus.com/mv29924/

 

ラスベガスのメインストリートに飛行機が不時着! 

 最初に宣言しておくと、今回はネタバレどころか、この映画のエンディングについて書くことになる。通常の映画紹介であればあり得ないことだが、映画を観た上でそれを起点にIRに関するいろいろな知識を学んでいこうという連載なのでどうかご容赦いただきたい。「コン・エアー」も北米での興行収入が1億ドルを突破した大ヒット作品なので、できれば一度映画をご覧になってからこの先をお読みいただければと思う。ただ、ご覧になる時間がない方のためにざっと映画の内容をご紹介しておこう。なお、今回はラスベガスのホテルがたくさん出てくるので、正式名を略し、全て【ホテル名】に統一表記させていただく。

 ニコラス・ケイジが演じる主人公のキャメロン・ポーは、元陸軍レンジャー部隊員。「リービング・ラスベガス」でアルコール依存症を演じたあとに、筋骨隆々の真逆の身体に作り替えて演じている。「ザ・ロック」の化学研究員役を挟んでいるとはいえ、さすがはオスカー俳優というところだろう。陸軍を退役し、久しぶりに妻の元へ戻ってきた日に暴漢に絡まれ、勢いで殺人を犯してしまうところから話は始まる。状況的には正当防衛だが、鍛え上げられた元軍人の身体は凶器扱いとされ、有罪判決を受ける。妻とお腹の中のまだ見ぬ娘のために10年の刑を受け入れ収監されるが、模範囚として務め上げ、8年後に仮釈放を勝ち取る。

 釈放に向けて家族の待つアラバマに戻るため、空路での囚人移送システム「コン・エアー」に乗せられることになるのだが、運悪く当日のフライトは、完成したばかりの厳重管理刑務所に集められる超凶悪犯たちで溢れ返っていた。そんな彼らがおとなしく乗っているはずもなく、綿密に練られていた脱獄計画によりまんまと移送機は乗っ取られてしまう。その後の詳細は省くが、いろいろあってコントロールを失った移送機は、ラスベガスのど真ん中を南北に貫く大通り、ラスベガス・ストリップ(ザ・ストリップ)に墜落同然の不時着をすることになる。着陸後は街に飛び出し、多くの映画でお馴染みのフレモント・ストリートなどを舞台に、お約束のカーチェイスが繰り広げられる。

 「コン・エアー」が公開された1997年は「タイタニック」の大ヒットの年で、映画の中でも違和感なく自然にCGを使えるようになってきたタイミングだった。しかし、監督のサイモン・ウエストは極力CGを使わず実写のリアリティを追求する手法を選択した。

 

老舗カジノ・ホテル【サンズ】のロビーにリアルに突っ込む 

 映画の終盤、エンジン・トラブルでコントロールを失った移送機は街の北側からアプローチし、南端に位置するマッカラン空港への着陸を目指すが、無事の着陸はほぼ絶望的な状況。北端に位置する【ストラトスフィア(現在はザ・ストラット)】のタワーをかすめ、【ハードロック】のギターのネオンサインのネックをへし折る。ブランドの命とも言えるギターのネックを破壊することを許可する懐の深さはさすがアメリカ。ちなみに実は【ハードロック】は少し離れた場所にあったので、航路上無理のある設定なのだがそこは大人の事情ということにしておこう…。

 飛行機はどんどん高度を下げ、【リビエラ】と【サーカス・サーカス】を両脇に見ながらついに目抜き通りのザ・ストリップにハード・ランディングしてしまう。そのままさまざまなものをなぎ倒しながら猛スピードで道路を進んでいく。ここまではさすがにCG合成やミニチュアの力を借りているが、ここから先は可能な限り実写で撮影されている。

 勢いが止まらない飛行機は通り沿いのカジノホテルに突っ込んでしまうのだが、このシーンは実際に機体をホテルに突っ込ませて撮影されている。突っ込まれるホテルは、営業を終了して解体されることになっていた【サンズ】。閉館したと言ってもつい数ヶ月前まで営業されていたので、エントランスの照明や電飾も点灯可能な状態できらびやかさはそのままだ。機体は廃棄された同型のものを調達し、外観に影響しない装備を全て取り除き、可能な限りの軽量化を施したものが使われた。ホテルの玄関まで250フィート(約76メートル)の走路を特設し、大型のトラックで牽引してホテルロビーまで突っ込ませている。

飛行機は【サンズ】のこのエントランスに突っ込んだ(Christian Schmitt from Lohr, Deutschland/CC BY 2.0)

 飛行機に突っ込まれた【サンズ】は、1952年にザ・ストリップに面した7番目のホテルとしてオープンし、マフィアの大物やフランク・シナトラがオーナーとして名を連ねた。シナトラが仲間たちと出演し「オーシャンズ11」のオリジナル作品となった「オーシャンと十一人の仲間」の撮影地としても知られる。1967年には「アビエイター」のハワード・ヒューズに買収されるなど、ラスベガスの歴史の中で数々の話題を提供して来た老舗名門ホテルだ。1989年にシェルドン・アデルソンが買収し、現在もそのブランドを継承している。ホテル自体は1996年6月30日に営業を終了、解体され【ベネチアン】として生まれ変わっている。ちょうど解体される年の10月から撮影をすることになっていた「コン・エアー」の製作チームにとってはまさに渡りに船のタイミングだった。解体スケジュールを調整してもらって、なんとか撮影場所として使うことに成功したようだ。

 

生まれ変わったラスベガスを象徴する大イベント

 映画の撮影の数日後1996年の11月26日、【サンズ】の建物は爆破解体された。実はこの作業自体もショー・アップされ多くの観客を集めている。当時はビルの爆破解体イベントがラスベガスのちょっとしたブームになっていたのだ。

 ブームの火付け役となる最初の建物の爆破解体イベントが行われたのは【サンズ】の3年前、1993年の10月27日のことだ。思いついたのは火山の噴火で人気の【ミラージュ】を作り、ラスベガスをテーマパーク化した男として知られるスティーブ・ウィン。本連載第10回の「グランド・イリュージョン」の中でも紹介したジークフリード&ロイのショーを人気コンテンツに育て上げるなど、ベガス1のアイデア・マンと称された男だ。テーマパーク型リゾートの第2弾として作った海賊をテーマにしたホテル、【トレジャー・アイランド】のオープニングセレモニーに、当時彼が所有していた老舗【デューンズ】の爆破解体を組み込んだのだ。深夜に多数の花火を打ち上げ、ウィンの「FIRE!」の掛け声とともに、新しいホテルの目玉としてホテル前の池に浮かんでいた海賊船から大砲が放たれ、【デューンズ】を爆破するという派手な演出だった。

 このイベントを見るために集まった20万人の観衆がザ・ストリップを埋め尽くし、テレビでも生中継され全米の注目を集めた。ウィンが爆破した【デューンズ】は映画「カジノ」のモデルとされる【スターダスト】と同様に、マフィアに支配された悪しきラスベガスを象徴するようなホテルだった。【デューンズ】のネオンと満室のサインが煌々と輝き、まさに営業中であるかのような状態を作り、これをテーマ・パークから飛び出して来たような海賊船が爆破するという演出は、ラスベガスの生まれ変わりを暗示し、単なる爆破ショーにとどまらない強烈なメッセージをアメリカ中に伝えた。同時に【トレジャー・アイランド】の知名度を一気に高めることにも成功している。

新設ホテルの海賊船の大砲で古いラスベガスを爆破した