【IR映画ガイド】爆破解体! 最後の瞬間までショーアップするラスベガス魂の研究 (2/2)

塚田正晃(KADOKAWA)

爆破解体ショーはラスベガスの人気コンテンツになっていく

 このイベントの大成功以降、爆破解体ショーは人気コンテンツとなり、営業を終了して解体されるホテルは派手な花火や演出でショーアップされ、爆破解体されるのがお約束となっていく。

 1995年にはこれもまた一時期ハワード・ヒューズが所有していた、【ランドマーク】が爆破される。1960年代の建築当時はラスベガスでいちばんの高さを誇っていた、高層ビルの上にバブル・ドームと呼ばれる展望台を乗せた31階建てのタワー型のホテルだ。斬新なデザインが注目を集め、「ラスベガス万才」の中でも最先端の近未来的なイメージでプレスリーのバックに映り込んでいる。爆破解体時の映像は翌1996年に公開されたティム・バートン監督のSFコメディ映画「マーズ・アタック!」の中で使用されている。一人二役をこなすジャック・ニコルソンがオーナーを演じるラスベガスのホテルとして登場。火星人の乗ったUFOに襲撃され爆破されるシーンに使われている。このホテルを気に入っていたバートン監督が解体を嘆き、作品の中に残しておきたいと考えたとも伝えられる。映画の演出として計算されたわけではないだろうが、タワーが縦に半分に割れ片側から崩れていく様子は映像的にも美しい。

建設当時は近未来的だったバブルドームを備えた【ランドマーク】(Larry D. Moore/CC BY-SA 3.0.)

 翌1996年11月には「コン・エアー」に登場したサンズの爆破解体があり、同年の大晦日にはFOXテレビの年越し番組の目玉企画としてニューイヤー・カウントダウンとともに【ハシエンダ】が爆破され視聴率を稼いだ。1998年には【アラジン】、2000年には【エル・ランチョ】と続いたが、2001年の同時多発テロにより爆破解体ブームはいったん収束する。貿易センタービルの崩壊シーンの衝撃と、この事件で大きな問題になったアスベスト被害のWパンチに見舞われたのだ。

 アスベストに関してはすでに90年代には厳しい管理下に置かれていたため、完全に取り除かれた状態でなければ爆破解体が許可されることはなかった。このため爆破を実施するまでに1年近くの歳月をかけて全てのアスベストの除去作業を行い、爆破される段階ではほとんど骨格だけの状態になっている。テロのような何の準備もない状態での爆破とは状況が違い、実際にはアスベストが飛散することはないものの、多くの犠牲者を出した一大事件の衝撃と巻き上がる粉塵に対する恐怖感や嫌悪感が、エンタメとして成立し得ない空気を作ってしまった。

 しかし、月日とともにそんな状況を乗り越え、2006年には【バーボンストリート】や【ボードウォーク】、といった比較的小規模なホテルの爆破解体が再開された。特に大きな批判が無かったためか、翌2007年3月には【スターダスト】が大量の花火を打ち上げ、爆破されるビルにカウントダウンの電飾をつけた大掛かりなショーを開催。11月には【フロンティア】が続き、歴史的なホテルが大歓声とともに爆破されている。

【スターダスト】の解体イベント。屋上から花火が打ち上げられ炎に包まれる(Andrew Ferguson/CC BY-SA 4.0)

 日本では火薬規制等々が厳しいため、ほとんど実施されていないが、おおらかな国アメリカや中国では爆破解体は普通の光景になっている。爆破解体を意味する「Implosion」という単語で検索すれば多くの動画がヒットする。ただ、基本的には単なる解体作業のためほとんどは昼間の映像だ。深夜に花火を上げてライトアップして、派手にカウントダウンをして大観衆を集めてのお祭り騒ぎという映像はラスベガスに集中している。「Lasvegas  Implosion」に絞って動画を検索してみると、逆にほぼ全てが夜間に行われており、爆破解体作業を完全にショーの一つとして位置付けていることがわかり、ラスベガスならではの商魂のたくましさが感じられる。

 最近の爆破ショーは2016年6月まで遡る。ここで爆破解体されたのが、「カジノ」の撮影場所としても有名な【リビエラ】で、爆破解体直前に映画「ジェイソン・ボーン」の中でホテルに車が突っ込むシーン等が撮影されている。爆破イベントに関しては、打ち上げられたカウントダウンの花火が夜空に5、4、3、2、1の数字を作るといったド派手の演出とともに行われている。

 ここ数年は破壊できる物件が無かったためか、ラスベガスでの爆破解体イベントは行われていないが、その形状から維持費がかさみ、建て直しが検討されているピラミッド型のホテル【ルクソール】が爆破解体されるのではないかと噂されている。あれだけ存在感のある建物なので実施されれば大きな注目を集めることは間違いないが、一方でエジプトを代表する世界遺産を模したものを、エンタメ・イベントとしてショーアップして爆破するということに関して否定的な意見も多い。どのような着地を見るのか注目していきたい。
 
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