【IR映画ガイド】ラスベガスを浄化したとされている、謎の大富豪ハワード・ヒューズの真実に迫る「アビエイター」 (1/2)

塚田正晃(KADOKAWA)

 今週はレオナルド・ディカプリオ主演の「アビエイター」。直接的にIRやカジノに関わりのない作品ながら、実はこの物語の主人公こそが、マフィアに支配されたラスベガスを浄化し、現在のビッグビジネスであるIRへと向かう道を拓いたとされる男なのだ。*ネタバレあり

「アビエイター」(2004年 アメリカ)
https://movie.walkerplus.com/mv34438/

 

ラスベガスの歴史の中で重要な役割を果たしたハワード・ヒューズ

 現在のラスベガスの成立に強い影響を及ぼした人物は誰か? この問いに対しては様々な名前が挙がるだろう。まずは勝手なベスト5を年代順に並べてみる。

①1946年、最初の複合的カジノリゾートであるフラミンゴを作ったベンジャミン“バグジー”シーゲル(映画「バグジー」の主人公)。
②1966年、シーザーズ ・パレスを作って夢のパラダイスを現実のものとし、豪華絢爛路線を築いたジェイ・サルノ。
③1967年、デザート・インを買収したところから街を浄化し、ラスベガスをマフィアの資金源からビッグ・ビジネスへ変えたハワード・ヒューズ。
④1969年、インターナショナル・ホテルを皮切りに次々に世界一大きなホテルを作り、施設の大型化を推進したカーク・カーコリアン。
⑤1989年、ミラージュで老若男女誰でも楽しめるテーマパーク路線を打ち出したスティーブ・ウィン。

ほかにも重要な役割を果たした実業家、政治家、マフィアなど、枚挙にいとまがないので、ベスト5選出に関しては異論反論多数あるとは思う。が、ラスベガスをよく知る人ほど、③のヒューズを推す声が多いようだ。

 これだけそうそうたるメンバーの中で、強烈な印象を残しているのが今回ご紹介する映画「アビエイター」に描かれている男、ハワード・ヒューズだ。JaIR的にはマフィアを排除して街を浄化したとされるヒューズがラスベガスで何をしたのか? そこが一番気になる部分なのだが、残念ながらこの映画の中では全く描かれていない。なぜならばヒューズの生涯において、その事自体は大した出来事ではないからだ。彼がラスベガスに深く関わるのは1966年、還暦を過ぎ、晩年に差し掛かった頃だったからで、映画はその20年前の1947年で終わっている。


32歳のハワード・ヒューズ。長身でイケメンで大金持ちで頭脳明晰!

 気になるラスベガス時代は後ほど詳しくご紹介するとして、まずはこの映画に描かれているヒューズの半生をざっくりまとめておこう。最初に断っておくと、今回は映画のネタバレ満載になってしまう。ヒューズの半生を語るということは、そのままこの映画のあらすじを書くということになってしまうのでご容赦いただきたい。ゆっくり映画を楽しみたいという方は、先にご覧になってからこの先をお読みいただければと思う。

 

未成年のうちに大富豪となり、映画業界、航空業界に大きな足跡を残す

 ハワード・ヒューズは1905年のクリスマス・イブにテキサス州ヒューストンで借家暮らしをするごく普通の若夫婦の元に生まれる。が、彼が幼い頃に父親が石油採掘用のドリルを製造・販売する会社を興し、これが大成功する。この会社が開発したドリル・ビット(先端の刃の部分)が画期的な性能を発揮し、好景気に沸くテキサスを始めとした多くの掘削機に採用されたのだ。それに伴いヒューズ家の環境は一変し、程なくして大豪邸に住むようになる。ところが彼が成人する前に両親が相次いで他界。孤独と引き換えに、莫大な利益を生み出す超優良企業の株と、数々の画期的な特許を相続する。こうして圧倒的な資産を持つ大富豪としての人生が始まる。彼は「世界一の映画を作る」、「世界一速い飛行機を飛ばす」、そして「世界一の金持ちになる」という夢に向かって、莫大な遺産を注ぎ込む。

 壮大な夢の実現のために放蕩息子が親の遺産を湯水のように使い、全てを失い破綻する…というのがよくある話だが、ヒューズはそうはならなかった。この3つの夢を全て実現した挙句、人生の終盤にはラスベガスのかなりの部分を買い占め、街に大きな影響を与える存在になったのだ。

 1930年前後、20代のヒューズはカリフォルニアに移住して映画製作に没頭する。ハリウッドのルールを学んでいない部外者だからこその感覚で、それまでの常識を次々に覆していく。いくつかの習作映画を作成してノウハウを吸収した後、1930年の「地獄の天使」で勝負に出る。金に糸目をつけない製作姿勢でこだわりの画作りを追求していく。第一次大戦中の空軍パイロットたちの恋物語は、ストーリー的には平凡で退屈という見方もある中で、空中戦の躍動感あるカメラアングルや斬新なカット割りが批評家たちに「先進的」と評価され大成功を収める。こうしてヒューズは1つ目の夢をクリアし、その後有力映画会社のRKOを買収し制作環境を整え、多くの作品を生み出していく。


地獄の天使の公開時、大々的なディスプレイを施す映画館
credit/Dominic Alves from Brighton, England - Regent Cinema Facade
Facade of the Regent Cinema formerly located on the corner at 133 Queen's Road/133 North Street, Brighton. Showing "Hells Angels - The Greatest of all motion pictures - starring Ben Lyon and Jean Harlow". The facade includes a Biplane.

 1940年前後、30代になると映画づくりと並行して飛行機の世界にのめり込んでいく。まずは飛行機製造会社を立ち上げ、高速飛行機H−1を作り上げる。自ら操縦桿を握ったテスト飛行で当時の世界最速記録を樹立。こうして2つ目の目標も達成する。アビエイターというのは飛行家を意味する言葉で、映画のタイトルはこの辺りのイメージから付けられている。その後空軍からの受注を受け、偵察機や巨大な輸送機の開発に取り組む。一方で国内線航空会社大手のT&WA(のちのTWA/トランスワールド航空)を買収。路線開発に必要な要素を兼ね備えた機種の開発に自ら参画。国際線への参入も果たし、本格的な航空産業の幕開けの時期に先進的な経営システムを導入して大企業に育てていく。