【IR映画ガイド】ポーカーの華、テキサス・ホールデムを極める「007 カジノ・ロワイヤル」 (1/2)

JaIR編集委員・玉置泰紀

 統合型リゾート(IR)を学ぶ映画連載の第15回目となる今回は、カジノと切っても切れない超人気映画シリーズ007の中でも、純粋にポーカーの面白さに集中した傑作、シリーズ第21作「007 カジノ・ロワイヤル」を紹介する。舞台は旧ユーゴスラビア、バルカン半島にあるモンテネグロ。ジェームズ・ボンドはゲームの達人でもあるわけだが、ファッションやカクテルなど、ヨーロッパならではのシックなゲーミングの魅力を教えてくれる。*ネタバレあり

「007 カジノ・ロワイヤル」(2006年 アメリカ・イギリス・チェコ・ドイツ)
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テキサス・ホールデムがラスベガスのポーカーを変えた

 ポーカーの一種であるテキサス・ホールデムがいつ考案されたかは定説がないが、テキサス州立法府には、1900年代初頭、同州ロブスタウンにて、テキサス・ホールデムの最初のプレイが行われたと記録されている。ディーラーが、全プレイヤー共通のコミュニティカード(最大5枚)を持ち、各プレイヤーには2枚の手札が配られる。アメリカのカジノではもっともポピュラーなゲームの一つであり、日本でディーラーを養成する学校である日本カジノ学院でも、授業で教える基本のゲームルールは、テキサス・ホールデムとバカラ、ブラックジャック、そしてルーレットの4種類だという。

 映画の中でも、これが1作目のダニエル・クレイグ扮するジェームズ・ボンドと敵役のル・シッフル(デンマークの個性派俳優、マッツ・ミケルセンが演じる。北欧の至宝と呼ばれる)のテキサス・ホールデムの対決場面に全体の3分の1強が使われていて、序盤にもバハマのカジノで、中ボスのディミトリアスとのテキサス・ホールデムの対決がある。この作品が、イアン・フレミングの原作小説にかなり忠実で、これまでの荒唐無稽な007シリーズ自体をリブートした1作目という事もあって、従来の派手なアクションと一線を画す頭脳戦の要素をしっかり見せる材料にもなっている。毎回凝ったオープニングのクレジットタイトル映像も、ダニー・クラインマン(今年公開の新作を入れて8作を担当)はトランプの柄やマークを活かした作りで、最初から映画の大きな主人公がゲームであることが示される。ただし、小説では舞台はパリで、架空のカジノ「ロワイヤル・レゾー」で、バカラを戦う。現在のカジノでは、バカラはマカオシンガポールなどアジアで人気だが、アメリカではあまり見られず、テキサス・ホールデムが人気なので、映画ビジネスの主戦場のゲームに変更されたのだろう。

 ラスベガスにテキサス・ホールデムが紹介されたのは1967年。最初はゴールデン・ナゲット・カジノのみでプレイされていたが、1969年にデューンズ・カジノに導入されてから一気に広まり、最も人気の高いポーカー・ゲームになった。

 アメリカのカジノではポーカーは根強い人気があり、トーナメントが開かれることが多い。ルーレットなどと違って、プレイヤー対胴元ではなく、プレイヤー同士の戦いになるためだ。1949年に初めて開催されたワールド・シリーズ・オブ・ポーカー(WSOP)が1970年に、当時の主宰者だったベニー・ビニオン(人気カジノだったビニオンズ・ホースシューのオーナー)によって復活してからは、参加者の数は、1970年が7人だったのが、1982年には104人、2000年には512人、2019年には、世界中から集まったポーカー・プレイヤー8,569人に達した。主な競技はテキサス・ホールデムのほかに、オマハ・ホールデム、セブンカード・スタッドなど。2004年からは、シーザーズ・エンターテインメントが運営している。

 2019年のWSOPの賞金額は1,000万ドル(10億8,000万円)に達し、大会の様子は全米にテレビ中継された。今年は、新型コロナウイルス感染症のため、リアルの開催をあきらめ、オンラインに場を移したが、オンラインポーカーの記録を次々と塗り替えている。7月~9月まで実施された今回のシリーズは、2,755万9,500ドル(約29億2,483万円)という過去最高のオンラインポーカーのトーナメント賞金プール、そして参加者数が4万4,576人という最多エントリー数を叩き出した。

 さて、テキサス・ホールデムのルールは、基本的に普通のポーカーと同じで、アメリカ式の役の強さは、ロイヤルストレートフラッシュ>ストレートフラッシュ>フォーカード>フルハウス>フラッシュ>ストレート>スリーカード>ツーペア>ワンペアの順番になる。ゲームの進行に妙があり、まず、プレイヤーに2枚ずつ手札が配られる。この段階(ラウンド)をプリプロップと言い、最初のベット(賭け)が行われる。ここで降りる(フォールド)ことをしなかったプレイヤーが2人以上いたら、ディーラーは3枚のカード(コミュニティカード)を表向きに出す。この段階をフロップと言う。ここでまた一巡のベットが行われ、2人以上が残った場合、さらに1枚のカードを表向きに出す。この段階がターン。同様のベットの後、最後の1枚、5枚目をディーラーがやはり、表を向けて出す。この段階がリバー。

 この最終局面で2人以上のプレイヤーが残っていれば、伏せていた2枚の手札を見せる。これをショー・ダウンと言う。ディーラーが出した5枚のコミュニティカードと、プレイヤーの手札2枚の合計7枚の中で、ポーカーの役を作る。手札は何枚使っても使わなくても構わない。これで勝ったものがポット(全員の賭け金を集めたもの)を総取りできる。

 先にも触れたが、このゲーム場面が全体の3分の1強を占める、ある意味地味な映画が、興行収入では、全世界で5億9,420万ドル(695億2,140万円)に達し、2002年の「007 ダイ・アナザー・デイ」の記録を破りシリーズ最高記録を樹立、記録を更新したのは2012年の「007 スカイフォール」だった。映画としての評価も、これまでは娯楽作という位置づけが多かった007シリーズが、アメリカの映画評論家サイトのロッテン・トマトでも高い評価を受け支持率は95%になった。かなり原作に忠実に描かれた緊張感のあるリアルなテキサス・ホールデムの心理戦が観客に受け入れられたのである。
テキサス・ホールデムでプレイヤーが2枚の手札を見せるショー・ダウン
 
1974年のワールド・シリーズ・オブ・ポーカーより、左からジョニー・モス、ベッキー・ビニオン・ベーネン、ウォルター”プギー”ピアソン。ベッキーは大会を復活させたベニーの末娘で後継者、モスは3回優勝、プギーも1回優勝のレジェンド。ネヴァダ州立大学の所蔵写真。CC