【IR映画ガイド】韓国でのIR開業とそのプロモーションについて学ぶ「リアル」 (1/2)

二上葉子

 統合型リゾート(IR)を学ぶ映画連載の第17回目となる今回は、韓国のカジノを舞台に、ダークな犯罪ミステリーとアクションが繰り広げられる映画「リアル」を取り上げる。韓国のカジノ最大手パラダイス・グループの全面協力により、パラダイス・シティ、パラダイス・ウォーカーヒルが舞台として登場。この映画を通して、カジノ開業に合わせた映画開発やプロモーションについて考察してみたい。*ネタばれあり

「リアル」(2017年 韓国)
https://movie.walkerplus.com/mv64244/


 

世界を席巻する韓国映画とドラマ

 今年は、韓国映画・ドラマの世界的なヒットが続いている。巨匠ポン・ジュノ監督の「パラサイト 半地下の家族」が、アカデミー賞の作品賞・監督賞・脚本賞・国際長編映画賞という4冠に輝き、韓国映画の底力を証明した。ドラマでは、新型コロナウイルスによる外出自粛の中、ネットフリックスでのドラマ「愛の不時着」「梨泰院(イテウォン)クラス」が大ヒット。この2つのドラマはそれぞれ全くテイストが異なる話ながら、練り込まれた脚本と俳優陣の熱演によって引き込まれる人が続出した。このドラマが日本での「第4次韓流ブーム」に火をつけたとも言われている。

 このように話題続きの韓国映画・ドラマ界であるが、今回取り上げるのは、韓国のカジノが舞台となった映画「リアル」だ。2017年公開の本作は、ドラマ「星から来たあなた」 や「太陽を抱く月」で知られる、キム・スヒョンが主演したことで、日本でも話題になった。

 最初にお断りしておくと、本作は、主人公が多重人格者という設定で、夢と現実の境目が曖昧なまま話が進むので、とても難解な作品だ。公開当時、韓国国内では賛否両論が巻き起こった。主演のキム・スヒョンも「理解するためには6回見る必要がある」と発言。謎解き系の物語が好きな筆者も、本作は一度見ただけでは理解しきれなかったクチだ。物語の細部を追うのは難しいのだが、舞台となった韓国のカジノの様子がよくわかるので、JaIR読者にご紹介したいと思う。

 

「パラサイト 半地下の家族」でカンヌ国際映画祭のパルム・ドール(最高賞)を獲得したポン・ジュノ監督
 

映画「リアル」は主演の熱演と豪華なカメオ出演陣で話題に

 映画「リアル」の物語は、新しくオープンしたラグジュアリーなカジノ「シエスタ」のオーナーである主人公が、医師から解離性障害(多重人格)の疑いを告げられるところから始まる。カジノを開業した矢先、ギャングから利益の半分をよこせと脅され、窮地に立たされた主人公の前にカジノへの出資を申し出る謎の仮面をした投資家が現れる。主人公と投資家の利害が一致し、ギャングの排除を図ろうとするのだが、投資家が仮面を外すと主人公と全く同じ容貌であることが判明。主人公は投資家の存在そのものに疑念を抱き始める。そして、自身の多重人格は蔓延するドラッグの影響であると知り、次第に夢と現実の区別がままならなくなっていく…というもの。

 映画の見所は、何と言ってもキム・スヒョンの多重人格の演じ分けとアクションだ。多重人格によるサスペンス、ギャングとの抗争でのアクションが陰影のある映像表現で映し出される。

 この作品は豪華なカメオ出演でも話題になった。「梨泰院クラス」の主人公パク・セロイを演じて大人気のパク・ソジュンは、映画冒頭、主人公たちを襲撃する役で登場する。顔が映るのはほんの一瞬で、しかもほぼ影になっている(もったいない!)。シルエットだけでわかった人は相当なファンだろう。

 それ以外にも冒頭に紹介したネットフリックスドラマ2作に登場する脇役たちも本作に出演しているので、最近、両ドラマを制覇した人であれば、試しにどこまで気が付くか見てもらいたい。「愛の不時着」で主人公ユン・セリが経営する会社の右腕、広報チーム長を演じたコ・ギュピルはギャング役で登場、「梨泰院クラス」の主人公の心優しき父親役のソン・ヒョンジュ、その父親の事故を担当した刑事役ユン・ギョンホの二人はそれぞれカメオ出演している。「リアル」は主要キャスト以外にも、韓国映画・ドラマ界の実力派をこれでもかと贅沢に配した作品だとも言える。

 さらに余談だが、「リアル」の主演キム・スヒョンは、「愛の不時着」にサプライズ出演して、大きな話題となった。ドラマシリーズの後半、韓国で出くわす、コミカルな北朝鮮スパイとして登場するが、この役はキム・スヒョンが過去に演じた、映画「シークレット・ミッション」の主人公であり、物語のクロスオーバーにファンたちが沸き立った。こういった遊び心は、皆が知る人気ドラマ、人気映画があってこそだと思わされる。最新の韓国映画やドラマの紹介がすっかり長くなってしまったが、ここからは「リアル」が製作された背景を掘り下げたい。

 

ネオノワールの世界観にぴったりな韓国・インチョンの高層ビル群