【IR映画ガイド】クールでイケイケの”ラスベガス像”を作った大ヒット映画「オーシャンズ11」

JaIR編集委員・玉置泰紀

 昔のラスベガスを代表するフランク・シナトラ主演の「オーシャンと十一人の仲間」を元ネタに、思いっきりスタイリッシュにアップデートした痛快娯楽作「オーシャンズ11」を観てみよう!
*ネタばれあり

「オーシャンズ11」(2001年 アメリカ)
https://movie.walkerplus.com/mv32242/

 19年前の映画だが、今のクールでイケイケなラスベガスの姿が真空パックされている。「ベラージオ」「ザ・ミラージュ」「MGMグランド・ラスベガス」というMGMリゾーツ・インターナショナルを代表する三大ホテルが舞台になっていて、最後にクレジットも出てくる。最近のラスベガスに行ったことのある人なら、非常に楽しめること請け合いだ。シーザーズ・パレスなど、他の有名な統合型リゾート(IR)も出てきて、観光映画という趣も充分だ。

 演出のスティーブン・ソダーバーグ監督は、最近では感染症の恐怖を予言していた「コンテイジョン」(2011年)や「エリン・ブロコビッチ」(2000年)など社会派から娯楽作品まで幅広いが、「オーシャンズ11」では、音楽や編集、撮影などを駆使して、リアルで活気に満ち、ヤバいがかっこいいラスベガスをスタイリッシュにとらえることに成功している。
 

意外にリアルなIRセキュリティの表現にしびれる


 「オーシャンズ13」(2007年)では、今やIRではおなじみの顔認証が重要なポイントで出てくるが、「オーシャンズ11」もセキュリティが大きなテーマ。映画自体は昔懐かしい「金庫破り」ものなのだが、そもそもダニー・オーシャン(ジョージ・クルーニー)がでかい山に挑戦したきっかけは、三大ホテルのカジノの収益金がベラージオの地下金庫に集められていて、ネバダ賭博委員会の定めでチップと同額の現金がそこにあることから。そして決行の日は、ラスベガス名物のボクシング大会の日で、普段より倍近い1億5千万ドル(公開時のレートで約187億円)が金庫に唸っている。

 突破が不可能に見えるハイテクの超セキュリティは現代型IRならではだが、警備システムの説明など、実在するベラージオなどをふんだんに使った映像は説得力がある。カジノ(ゲーミング)ゾーンの監視システムなどは、ラスベガスやマカオで取材したこともあるが、おそらく本物も使いつつ、深みを出している。実際、多くの監視カメラを監視センターで集中してチェックしている。今は顔認証システムを使っているが、「オーシャンズ13」では、人工知能(AI)を使った「グレコ」というシステムが出てくる。
 
主要な舞台、ベラージオ

 ダニーがメンバーを集めて説明するシーンで、3つのカジノディーラーの勤務形態から現金カートの経路、セキュリティパスを持つもの全員の出身地、あだ名、コーヒーの趣味まで調べろと言うのは重要。映画に出てくる監視室は実際より少し豪勢な感じだが、それほど違ってはいない。

 敵役は、この3つのカジノのオーナーで大富豪のテリー・ベネディクト。演じるのは「ゴッドファーザーPARTⅢ」(1990年)で、最終的にコルレオーネ・ファミリーのドンとなるドン・ヴィンセント・コルレオーネを演じたアンディ・ガルシア。彼が毎日午後2時に同じ車、運転手でベラージオにやってきて役員室へ行き、午後7時にカジノにおりてきてハイローラー(映画の字幕では上客だが、英語ではハイローラーと言っている)に挨拶をして回る。英語のほかに、スペイン語、ドイツ語、イタリア語が堪能で、日本語も上達中という設定で、全従業員の名前も把握しているというあたりが実にIRのオーナーらしい。

 ベネディクトの愛人、テスを演じるのがジュリア・ロバーツだが、彼女はダニーの元女房で、実はこれがこの金庫破りのもうひとつの動機。彼女はベラージオの美術館館長で、IRと言えばアートという事で、このあたりも、なるほど!と思わせる。美術館の中でテスがベネディクトにキスをしようとすると、「ここでは、いつも誰かが見ている」と監視カメラを意識しながらテスを制するのだが、これは最後の伏線になっている。ちなみに、「オーシャンズ13」の敵役は、またまた、「ゴッドファーザー」で、ヴィンセントことアンディをドンに指名したマイケル・コルレオーネことアル・パチーノという配役も捻りが効いている。
 

イケてるラスベガスが詰まった映像美


 いよいよ、金庫破り当日のメインイベント、ボクシングの世界ヘビー級タイトルマッチが行われるのはMGMグランド・アリーナ。映画は全編ベラージオの内と外が出てくるが、要所要所でさまざまなラスベガスの名所、風景が切り取られていて、行ったことがない人にはキラキラした風景、行ったことがある人には思い切り頷けるシーン続出だ。夜景が事のほか美しく、クライマックスのラスベガス全体が停電するシーンは、マンダレイ・ベイから町の全景をなめて消えていく。

ボクシングが開催されるMGMグランド・ラスベガス

ザ・ミラージュも登場する

 そして、なんといっても仕事を終えた連中(ダニーを除く)が、ベラージオの代名詞、噴水前に集まるシーンに流れるドビュッシーの「月の光」(ベルガマスク組曲)。この最高のシーンを最後に持ってきた。一人去り二人去りしていく抒情的な映像は公開時から頭を離れない。ここにクラシックを持ってくるセンス。選曲&作曲はテクノの鬼才、デヴィッド・ホルムズ。エルビス・プレスリーの「おしゃべりはやめて」やパーシー・フェイス、クインシー・ジョーンズも効果的だった。
  
ラスベガスと言えばベラージオの噴水

 役者もこのほか、副官役のブラッド・ピット、駆け出し役のマット・デイモンなどオールスター映画の楽しみが詰まっている。ポップに振り切ったこの作品が今のラスベガスのイメージを作ったのは間違いない。

 
Image from Amazon.co.jp
オーシャンズ11 (字幕版)

【JaIR特選!IRを実感できる映画ガイド】は毎週金曜日にアップします。次回、6月12日は「ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い」です。

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