【IR映画ガイド】ラスベガスらしさ全開の大ヒットコメディ「ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い」

二上葉子

 統合型リゾート(IR)の舞台をめぐる映画連載第3回目は、ラスベガスが舞台のコメディ映画「ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い」を紹介する。*ネタばれあり

「ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い」(2009年 アメリカ)※R15+
https://movie.walkerplus.com/mv46220/

 本作は、結婚式を2日後に控えた花婿ダグ、親友フィルとステュ、義弟アランという4人組が、独身最後を同性の仲間と過ごす「バチェラー・パーティー」で泥酔して巻き起こす大騒動。ラスベガスを舞台にしたコメディ映画といえばコレという作品だ。ラスベガスの名所やトリビアを織り交ぜながら、旅行者目線でおもしろおかしくテンポよく描き切り、低予算ながら興行収入約4.7億ドル(約515億円)の大ヒットとなった。

 

ラスベガスは悪徳の都、豪華シーザーズ・パレスは必見

 映画の冒頭、義弟アランが意味深に発する言葉にラスベガスの典型的イメージが集約されている。「ベガスは悪徳の都(It's sin city.)」。「悪徳」で想像するのは、ギャンブル、アルコール、ストリップ、はたまた薬物やギャングというダークなものまで。アメリカ国内ではカジノがある州は全50州のうち23州にすぎず、楽しみたければ合法な場所に遊びに行く。カジノ代表都市であるラスベガスでは、ネバダ州法の厳格なルールのもとでカジノ運営がおこなわれ、人々は守られた環境の中で楽しむこととなる。「悪徳」とは大袈裟かもしれないが、ラスベガスの旅行者の多くは、この4人組と同じく、日常生活にない刺激を求めに訪れると言っていい。

劇中のセリフ、「ベガスのことはベガスに置いてこい(What happens in Vegas stays in Vegas.)」は、ラスベガス市の掲げるキャッチコピーでもある

 映画の主要な舞台となるのは、ラスベガスのストリップ大通りの中心に位置する「シーザーズ・パレス」だ。古代ローマ帝国の政治家カエサル(英語読みはシーザー)の宮殿という名前の通り、古代ローマ風の建築装飾が特徴のラスベガスを代表する統合型リゾート(IR)で、シーザーズ・エンターテインメントが運営している。

 4人組はもともと宿泊予定のスイートルームから、最上フロアの4人で泊まれるヴィラにアップグレード(1部屋1泊4200ドルとのセリフあり。公開時のレートで約40万円)する。花婿を盛大に祝うため気合十分だ。ヴィラは複数のベッドルームとバスルームがあるゴージャスな造りで、大きな窓からはこれぞラスベガスというまばゆい夜景が見える。劇中の部屋は架空の場所とのことだが、IRの最上級の部屋の雰囲気がよくわかる。素敵なホテル、気の置けない仲間、最高のパーティーになる予感。観客が憧れる設定のすべてがコメディの壮大な前振りとして機能している。

シーザーズ・パレスの施設内にはローマ風の彫像が並び、訪れる人を圧倒する
 

ラスベガスは路上での飲酒OKというアメリカでは珍しい場所

 タイトルの「ハングオーバー(hangover)」は「二日酔い」の意味。アメリカでは一般的に公共の屋外で泥酔するのは厳しく規制されているが、ラスベガスは路上の飲酒も認められているアルコールに寛容な土地だ。映画の4人組は立ち入り禁止の屋上に侵入し、パーティードリンクの定番リキュール酒を酌み交わし、意気揚々とカジノに繰り出す。そして、悪夢のような夜明けを迎えるのである…。

 翌朝、目が覚めると、豪華な部屋は空き巣に入られたかのような惨状に。4人のうち花婿は消え、最悪なことに残された3人には前夜の記憶がない。行方不明の花婿を探すため、3人は小さな手掛かりから失われた記憶を取り戻そうと、街の様々な場所を訪れる。プールサイドで朝食をとりながら3人が作戦会議をするシーンはいかにもラスベガスのIRという感じだ。主人公たちは吐き気とひどい頭痛で雰囲気を楽しむどころではないのだが。

 その後の花婿探しのハチャメチャな展開はぜひ映画を見ていただきたいが、ストリッパーとの超スピード婚、ボクシング王者マイク・タイソンと虎、パトカー窃盗での逮捕、ギャング登場、カジノで一獲千金といった「ラスベガス的な体験」が満載だ。彼らのハメの外し方はとにかく半端ない。しかし、非日常が日常のラスベガスなら、もしかして!?と思えるのが不思議。実際に本作は、エグゼクティブプロデューサーの友人が、ラスベガスでのバチェラー・パーティー後に行方不明になったという話に着想を得ている。

 シーザーズ・パレス以外にも、ラスベガスのIRやカジノホテルが登場。カジノのシーンは老舗のリビエラホテルで撮影され、古き良き雰囲気が味わい深い。また、ポケットに入っていたレシートから、隣の敷地にあるベラージオのATMで現金を引き出したことがわかる場面もある(ベラージオ自体は登場しない)。その他、ピラミッド型のルクソール・ホテル向かいの広大な更地でのシーンがあり、別角度ではマンダレイ・ベイ、MGMグランド、エクスカリバーなどの周辺のIRも画面に映る。
 

ラスベガスのホテルの窓は開かない!?

 映画後半、「ラスベガスのホテルの窓は開かない」ことが、花婿探しの重要なヒントとなる場面がある。映画の通り、実際にラスベガスのホテルの窓は開かず、バルコニーもない。一説にはギャンブルで負けた客が飛び降りないようにするためとも言われるが、実際にはセキュリティや窓掃除のやりやすさのためようだ。ラスベガスのIRの特徴を生かした展開に唸らされる。本編はもちろんのこと、エンドロールの隅々まで凝らされた工夫にも注目してほしい。
 
 この1作目の大ヒットによりシリーズ化し、ラストとなる3作目「ハングオーバー!!! 最後の反省会」でもラスベガスが再び舞台となった。

「ハングオーバー!!! 最後の反省会」(2013年 アメリカ)
https://movie.walkerplus.com/mv51688/

 3作目の見せ場の一つに、シーザーズ・パレス最上階の部屋のバルコニーに、屋上からひも状のシーツをつたって侵入するというアクションシーンがある。1作目をきっかけに人気俳優となったブラッドリー・クーパーがラスベガスの街を背景に宙ぶらりんになる姿はハラハラもの。しかし、1作目を覚えている人は気が付くかもしれない。あれ、ラスベガスのホテルの窓は開かないはずなのに、どうしてバルコニーがあるのかと。

 それもそのはず、実は、3作目のシーザーズ・パレスのシーンは巨大セットで撮影されていて、本物ではない。侵入する部屋のある建物は3DCGによる合成で、実際の最上階の部屋には映画のようなバルコニーはないのだ。実物と映画を見比べると、「シーザーズ」という電飾ロゴの位置も違っているのがわかる。映画では電飾ロゴが絶妙な位置に配置されており、その後の場面で笑いをアシストしている。

 これは人気シリーズとして予算が増したことで可能となった映画的な嘘なのだが、バルコニーがある設定にしたからこそ、次の展開として欄干からのダイブ、ラスベガスの空撮というダイナミックなシーンが実現している。こういった具合に実際のIRと映画のシーンを見比べると、制作者の創作の秘密が感じられておもしろい。

 本作のトッド・フィリップス監督は、「ハングオーバー!」シリーズを撮り切った後、ブラッドリー・クーパー監督・主演の「アリー/スター誕生」では製作に名を連ねている。そして、フィリップス自身が監督・脚本・製作を務めた「ジョーカー」(2019)では現代社会の歪みを描き、ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞した。おバカなコメディ映画から一転、ダークな社会派アメコミ映画でもその手腕を遺憾なく発揮している。
 
Image from Amazon.co.jp
ハングオーバー! 消えた花婿と史上最悪の二日酔い (字幕版)

【JaIR特選!IRを実感できる映画ガイド】は毎週金曜日にアップします。次回、6月19日は「クレイジーリッチ!」です。


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