【IR映画ガイド】実はIRやカジノが登場する映画「コンテイジョン」「夜に生きる」「マイ・ブルーベリー・ナイツ」「LOGAN/ローガン」 (1/2)

二上葉子

 統合型リゾート(IR)を学ぶ映画連載の第23回目となる今回は「実はIRやカジノが登場する映画」をまとめてご紹介。新型コロナウィルス感染症の危機を彷彿とさせる「コンテイジョン」、禁酒法時代のフロリダのカジノ計画が登場する「夜に生きる」、趣のあるアメリカの小規模カジノが印象的な「マイ・ブルーベリー・ナイツ」、逃避行の途中にカジノホテルへ立ち寄るシーンのある「LOGAN/ローガン」。それぞれの「カジノ」の場面を順番に見ていくことにしよう。各映画を通して、IRでの新型コロナウィルス対策や、アメリカの先住民カジノについても触れる。*ネタばれあり



「コンテイジョン」(2011年 アメリカ)
https://movie.walkerplus.com/mv48601/

「夜に生きる」(2017年 アメリカ)
https://movie.walkerplus.com/mv62099/

「マイ・ブルーベリー・ナイツ」(2007年 フランス・香港)
https://movie.walkerplus.com/mv36979/

「LOGAN/ローガン」(2017年 アメリカ) ※R15+指定

https://movie.walkerplus.com/mv61748/

 

新型コロナ感染症を予言した映画!?

 JaIR流ステイ・ホームの過ごし方として、今年5月末から始まった「JaIR特選 IR映画ガイド」連載。感染症が全世界共通の話題となり、もはやウィズ・コロナの生活が日常となっているが、1年前には思いもよらなかった事態だ。世界から観光客を集めることで成立していたIR産業においても激動の1年だったと言える。

 では、この状況を誰も予想していなかったのか、と言えばそうではない。9年前に公開されたスティーブン・ソダーバーグ監督の映画「コンテイジョン」では、かなりリアリティのある形で、感染症による世界の危機が描かれた。新型コロナウィルスの流行が始まったばかりの今年春頃は、そもそもどんなウィルスで、この先、感染がどう拡大して、世界がどのように変化していくのか見当もつかない状況だったが、「コンテイジョン」を見れば、パンデミックの経過がよくわかると話題になった。感染症の予言の映画として口コミで広がり、公開当時は大ヒットした作品ではなかったが、新型コロナで映画配信での視聴数が急上昇した。前置きが長くなったが、実はこの映画には、マカオのIRが登場している。

 ここからは、完全にネタばれになってしまうので、以下は注意の上お読みいただきたい。物語は、仕事で香港・マカオを訪れたグウィネス・パルトロウが演じるアメリカ人女性が、帰国後、原因不明の症状を発症して死亡するところから始まる。パルトロウの夫役のマット・デイモンが娘を抱え、感染拡大する不安な状況の中、右往左往する姿が描かれ、他にも世界保健機関(WHO)職員役のマリオン・コティヤール、最前線で奮闘する疫学者を演じるケイト・ウィンスレットなど豪華俳優陣が登場する。ウィルス専門家による会議、手探りの対処法、WHOの調査、病床不足、略奪や暴動、デマの蔓延、ワクチン開発から接種まで、すべてが現実と符合していて、今見ると驚くばかりだ。

 劇中では、この感染症の発生地が、マカオのIRという設定になっている。IRホテルにて、ウィルスの宿主である豚を調理したシェフと握手をしたことでパルトロウが感染。その彼女がカジノへ繰り出し、ディーラーやカジノ客に感染拡大。カジノで彼女が飲んだカクテルを下げたウェイターも感染。カジノ客が帰国することで、各国にウィルスが持ち込まれ、各地で蔓延していく。

 発生地での出来事がよりドラマチックに映るように、ロケ先としてIRを選んだと思われるが、それこそ「オーシャンズ11」で有名なソダーバーグ監督らしい。映画ではIRが発生地として設定されてしまったが、公開当時はこのような事態が現実になると思われていなかったので、それほど問題ではなかった。今年に入り、新型コロナでIRが閉鎖、IRオペレーターの業績に大きな影響を与えているだけに、この映画の設定が皮肉に思えてしまう。現在はウィズコロナの中、ラスベガスやマカオ等ではIRが再開されており、各事業者はガイドラインに従い、消毒やマスク着用、ソーシャルディスタンシングの確保など徹底した衛生安全対策をとって運営している。日本型IRでも新たな課題として感染症への対応策を考える必要があるだろう。

 ちなみに、本作で感染者第1号の夫役を演じたマット・デイモンは、ソダーバーグ監督作の常連だ。ソダーバーグ監督作でIRが登場する「オーシャンズ11」「コンテイジョン」「恋するリベラーチェ」に出演している。彼はラスベガスでの派手なカーチェイスが記憶に残る「ジェイソン・ボーン」にも出演。ロバート・デニーロ、アル・パチーノ、ニコラス・ケイジのようにド直球のIR・カジノ映画に主演しているイメージはないが、JaIR的には、マット・デイモンは、隠れ”IR&カジノ”俳優と言えるだろう。


再開後のラスベガスのカジノでは、マスク着用が義務付けられている


 次は、マット・デイモンの盟友ベン・アフレックが監督・製作・脚本・主演を務め、カジノが登場する作品があるのでご紹介したい。映画「夜に生きる」(2016年)だ。原作は、デニス・ルヘインの犯罪ミステリー小説で、2012年に出版、2013年のエドガー賞長編賞(アメリカ探偵作家クラブが授与する)を受賞した話題作。ベン・アフレックが原作に惚れ込んで映画化した。

 物語は禁酒法時代のボストンから始まる。アフレック演じる主人公ジョーは、アイリッシュ・ギャングの大ボス・ホワイトの愛人エマに恋をしたことをきっかけに、そこから罠にはめられ収監。出所したジョーは、ホワイト一味への復讐を誓い、ホワイトと敵対するペスカトーレに取り入り、その後フロリダ州タンパで酒の密造を始める。フロリダとは地理的に近い、キューバ産のさとうきびを原料としたラム酒などの密造酒ビジネスは軌道に乗る。しかし、警察によるビジネスへの妨害があり、ジョーが次の事業として選んだのが「カジノ」であった。

 フロリダに豪華なカジノホテルを計画し、建設中の現場でギャングに売り込むジョーはこう語る。「カジノを合法化する。うちの独占ビジネスだ」と。当時フロリダではカジノは合法化されておらず、法案通過のため奔走するが、結局カジノ法案は反対もあり、実現せずに終わる。

 JaIRのIR映画ガイドの連載では、「バグジー」「カジノ」「ゴッドファーザー」などの映画を通じて、カジノがギャングのビジネスだった時代から、どのように清浄化したのかをご紹介してきた。ラスベガスが舞台の話が多いが、今回の「夜に生きる」のカジノ建設の舞台はフロリダ。フィクションではあるが、ラスベガスとはまた異なったストーリーが味わえる。

 現在、フロリダ州では、ネバダ州のラスベガスのような商業カジノはなく、アメリカ先住民特区や領海外(クルーズ船)など、州の条例に抵触しない区域でのみカジノが設けられている。先住民カジノは、1979年にフロリダ州内のハリウッド保留地(先住民特区)でセミノール族によって開設されたのが始まりで、1988年の連邦議会によるインディアン賭博規制法(IGRA)により先住民特区内でのカジノが正式に規定された。

 今では先住民カジノは、フロリダ州内に7か所(2ブランド)、全米では29州247部族、520施設ある(全米は2018年データ)。先住民カジノの先駆者であるセミノール族は2007年にハードロックのブランドを買収し、フロリダ州タンパをはじめ、世界各地でカジノを展開している。2019年10月には、フロリダ州ハリウッドに世界初のギター型ホテルを有したIR施設をリニューアルオープンして話題になった。ハードロックのブランドは、日本ではアメリカンレストランの「ハードロック・カフェ」で知られ、また日本IRにおいては北海道に関心を寄せていたこともあるので、その名前に馴染みがある方も多いだろう。

 ちなみに、まったくの余談なのだが、「夜に生きる」で主役を演じたベン・アフレック自身、非常に熱心なポーカープレイヤーという一面がある。それも単なる好きを超えていて、2004年のカリフォルニア州ポーカー選手権では賞金を獲得、テキサス・ホールデムのワールドポーカーツアーの決勝トーナメント出場資格を得るほど。映画では監督・製作・脚本・主演と才能を発揮しているうえ、ポーカーの腕前もプロ並みなのだ。コロナ禍においては、彼はマット・デイモンと一緒にポーカーのチャリティトーナメントを開催。集まった175万ドル(約1.9億円)は感染症で経済的に打撃を受けた家族を支援する団体に寄付された。


フロリダ州ハリウッドのIR施設「セミノール ハードロック ホテル&カジノ ハリウッド」