IRとは?

Integrated Resort」の略。一般的には「(カジノを含む)統合型リゾート」と訳される。日本では世界的にも遅れをとりつつある大型の会議場や展示場、世界水準の宿泊施設等のMICEと呼ばれる施設を拡充し、国際的競争力を回復させていくことが求められている。MICE施設とともに美術館、劇場、遊園地、競技場、商業施設等々を同時に設置することで、魅力的なリゾート施設を完成させインバウンド客(海外からの訪日観光客)を呼び込み税収増と共に地域振興に寄与することを目指す。これらを実現するために国と自治体の管理下、国内初の「カジノ」の運営を限定的に許可する。その利益を原資に単体では収支の取りにくい施設に対してもその規模と質を維持し、単一の事業者により統合的に開発運営されることを目指すものが日本型のIRである。IRはカジノそのものや、単にカジノのある施設というニュアンスとはやや異なる。


IR設置にあたっての国のルール

現行法では違法な賭博行為であるカジノの運営を解禁することが大前提となるため、緻密なルール作りが求められる。2016年に公布されたIR推進法および、2018年のIR整備法に基づき、IR設置に向けての準備が進められ、これらの法律にはIRが設置される特定複合観光施設区域の定義や認可に必要な施設の種類や規模等々が明記されている。IRの原動力として特例的に設置が許されるカジノに関しても総面積に関する規定、カジノ施設への入場規制入場料カジノの総売上に対する納付金の規定等が盛り込まれている。これらのカジノ関連の規制についてはカジノ管理委員会により管理監督され、厳しい条件をクリアした事業者に対してカジノライセンスが付与される。特定複合観光施設区域は最大3か所とされ(将来的な見直し条項あり)、それぞれに単一の事業者(コンソーシアムJVを含む)がIR開発を行うこととされている。認定申請期間はコロナ禍の影響で当初の予定から9か月後倒しされ、2021年10月1日〜2022年4月28日までとなっている。これを受け、区域認定は22年度中、IRの開業は2026年以降とみられている。


自治体の選定プロセス(候補地と候補事業者)

最大3か所とされる特定複合観光施設区域に指定されるためには、都道府県または政令指定都市が政府の基本方針に即した形で実施方針を定め、単一の事業者を選定し共同でIRの詳細を固め政府に申請していく。2021年2月現在、大阪府・市横浜市和歌山県長崎県の4か所が正式に候補地として手を挙げ、2022年4月までの応募期間に向けてRFCRFPといった事業者選定のプロセスに取り掛かっている。このほか東京都愛知県(名古屋市)も可能性の残る自治体とみられている。IRの事業者になるためには各地域の実施方針に従い、実施プランを提出し、まず自治体に選ばれ、続いて自治体と共同で国に選ばれるという二段階のハードルを越える必要がある。各地の選定プロセスに参加している事業者は海外のカジノオペレーターを中心に、地元および国内の複数の企業によるコンソーシアムでの参加が大半を占めている。

JaIRでは毎週IRに関する国内の最新情報まとめとして自治体やオペレーター関連の動きをお届けしている。


海外のIR事情

国内では初のIR設置だが、世界的に見れば日本は完全なIR後進国だ。シンガポールでIRの概念が形成され、2011年に開業した施設で具体的な形が示されたのをはじめ、潤沢なチャイナ・マネーを巡る形で、マレーシアカンボジアフィリピン韓国ベトナムといったアジアの国々でのIR開発が盛んに行われ稼働し始めている。中国の特別行政区・マカオも古い鉄火場のイメージを一新する最新の高級志向や家族志向のIRが続々と誕生している。中国の富裕層が押し寄せ、ゲーミングの市場規模でラスベガスを超えるほどの急激な成長を見せている。

アジアに限らずアメリカでも代表格のラスベガスには常に最新の施設が誕生し、ボストン、フロリダ等々にも新型のIRが開業している。このほかオーストラリアロシア、イギリス等世界中でIRの開発が活発化している。

JaIRでは毎週海外IRに関する最新情報をお届けしているほか、現地に視察に行けないなか、海外IRの状況を学べる映画もまとめて紹介している。


日本型IR開業のメリット

IR構想のベースにあるものは、人口減〜税収減に備え、海外からの訪日観光客増を軸とした経済施策。巨額の税金を投入することなく最新の大型MICE施設、最高級の国際基準を満たした宿泊施設の設置が可能。さらには日本の伝統文化や最新技術を投入した魅力的なエンタメ施設を内包し、海外からの観光客の有力な目的地となりうる巨大リゾート施設の設置を目指す。IRを起点として日本各地への送客システムも盛り込まれ、施設内だけでなく、近隣の地域、および日本全土に好影響をもたらしたいとしている。試算によると設置時の初期投資額は大規模な都市型であれば1施設あたり最大1兆円近い規模になり、売上規模は年間4,000億円、1万人の直接雇用、3万人の間接雇用を生み、大幅な観光収入の増加と税収の増加が期待される。コロナ後を見据えて若干の軌道修正が必要になる可能性はあるが、数多くのハードルを乗り越え、計画通りに実現すれば経済的なメリットは計り知れないだろう。


IR開業にあたっての懸念材料

「治安の悪化」、「ギャンブル依存症」、「マネーロンダリング」、といった基本的な問題が真っ先に挙げられる。この点に関しては数多くの議論が進められ、様々な対応策が練られている。暴力団等の反社会的勢力の排除に向けた対策も、長年マフィアと闘ってきたラスベガスで培われてきた通称「ネバダ法」をベースにかなり厳しいルールが適用される。一方でIRの誘致が巨大な利権と目され、すでにIR関連の汚職事件も発生しており、より一層の政治的な透明性が求められている。運営的な面に視点を移せば、コロナ禍以前に構想され、巨大な国際的リアルイベントとインバウンドありきで規模が設定されているが、果たしてこれで計画通りに進むのだろうかという不安が残る。

仮にコロナ以前の状態に戻るにせよ、健全な運営を最優先にするための法規制や課税率が海外に比べて厳しいと言われる日本で、国際競争の中にいる海外の事業者が前向きに取り組めるのか。さらに、言葉の壁が大きく立ちはだかり、超富裕層への対応に不慣れな日本にハイローラーと呼ばれるカジノ・ヘビーユーザーたちを世界中から呼び寄せることができるのだろうか。彼らにとっては一般的なジャンケットコンプデポジットといった日本的にはグレーゾーンになりそうなサービスにどう対応するのか。勝ち金に対する課税といったクリアすべき難題は山積している。


コロナ禍の影響

2020年2月のマカオIRの閉鎖を皮切りに、春から夏にかけて世界中のカジノ関連施設の閉鎖が続いた。その後も世界各地のカジノIR施設が一時的、または部分的に再開、閉鎖を繰り返すことになり、昨年対比で大幅な落ち込みを示す数字を発表するオペレーターもあり、地球規模でカジノオペレーターの経営状態が悪化している。カジノやIRと密接な関係にあるエンタメ業界にも深刻な影を落とし、近年のラスベガスで最も成功していたシルク・ド・ソレイユも経営破綻している。MICE関連も毎年恒例の国際的な見本市等々が中止、あるいはWEB上でのバーチャル開催となっている。多くの人を集めることを競う形で成立してきたIRに関連するビジネスモデル自体を見直す必要に迫られている。

一方で自宅に居ながらギャンブルが楽しめるオンラインカジノ(日本国内では違法)の成長が著しく、オペレーターの中にもリアルから軸足を移そうとする動きも出始めている。いずれにしてもカジノオペレーターを中心とする関連企業は選択と集中の動きを強め、今後連携や合併等の業界再編も進んでいきそうだ。

日本におけるインバウンド客という視点で見れば、2020年にオリンピック・パラリンピックが開催されることを前提に4000万人、さらには大阪・関西万博(2025年)、IR開業などをテコに2030年までに6000万人を目指してきた。2018年には3000万人を超え、コロナ前までは順調に推移してきたが、2020年には3月以降の事実上の観光鎖国状態を受けて400万人まで大きく落ち込んでしまっている。