アメリカのロードムービーに見るカジノ
フロリダの先住民カジノについて触れたが、アメリカ全体では、最も有名なラスベガス以外にも多くの場所にカジノがある。アメリカのカジノは大別すると、米国ゲーミング協会(AGA)が管理する「商業カジノ」と、連邦政府下の先住民ゲーミング委員会(NIGC)が管理する「先住民カジノ」の2種があり、2020年現在、25州で商業カジノが合法化され、先住民カジノも含めて40州約1,000施設があるというカジノ大国なのだ。世界から観光客を集める、ラスベガスに代表されるような「ディスティネーション型」のIRが注目されがちだが、アメリカの地元客中心のカジノはまた独特の雰囲気がある。この地元密着型のカジノは、ロードムービーの一場面として登場しているのでご紹介しよう。
歌手のノラ・ジョーンズが初主演した映画「マイ・ブルーベリー・ナイツ」(2007年)ではアリゾナ州のカジノが登場する。この映画は、失恋した主人公がニューヨークから出発して、テネシー州メンフィス、アリゾナ(都市はフェニックスだと思われる)、ラスベガスと巡る中で自分を取り戻していき、最後に戻るべき場所が見つかるという恋愛映画+ロードムービーだ。アリゾナの場面では、旅の資金を作るためカジノで一時的に働く主人公が、ナタリー・ポートマン演じるギャンブル狂のレスリーと知り合い、二人でラスベガスに向かうことになる。
本作は、香港映画のウォン・カーウァイ監督による初の英語作品なのだが、アメリカで撮影しても、ウォン・カーウァイ独特の色味が発揮されているのが興味深い。小規模のカジノはいかにもアメリカらしい場所として、そこで織り成される人間ドラマを含めて、雰囲気たっぷりに描かれていて、ファンタジーを感じる。
続いてもう1作取り上げたいのは、アメコミ映画の「LOGAN/ローガン」(2017年)。この映画は、マーベル・コミック「X-メン」の人気キャラクター「ウルヴァリン」を主人公としたスピンオフ映画シリーズの3作目で、俳優ヒュー・ジャックマンがウルヴァリン役を演じる、現時点で最後の作品として知られる。舞台となる2049年のアメリカでは、超人的能力を持つミュータントは絶滅寸前。ウルヴァリンと少女ローラ、プロフェッサーXはミュータントとしての素性を隠し、テキサスからカナダへと車で逃避行を続ける途中、オクラホマ州の州都オクラホマシティのカジノホテルに立ち寄る。
ひとときの休息をとる場所として選んだのは「ハラーズ・ホテル&カジノ」。このカジノホテルでの場面は、3人の凸凹な組み合わせが重要な意味を持つので、何気ない会話にも注目したい。ちなみに実際の撮影はオクラホマシティではなく、ルイジアナ州とニューメキシコ州で行われ、カジノフロアはニューオーリンズのハラーズ・ホテル&カジノで撮影されたという。2049年という未来を描きながら、最先端テクノロジーによるカジノが出てくるわけでは無く、スロットマシンが並ぶフロアや競馬での賭けを楽しむ人々の姿には懐かしさすらあり、一種のディストピアのようだ。映画全体に荒野の埃っぽいザラザラした雰囲気が漂い、その中のオアシスのような存在としてカジノが登場することも含め、アメリカらしさを感じる。
日本型IRは海外からの集客を目指しており、上記のロードムービーで登場するような地域密着型のカジノとは方向性が違うが、様々なタイプのカジノのあり方を知ることは大事だ。コロナ禍により世界中から観光客を集めていた巨大IRが渡航規制でダメージを受けている中で、地元客中心で運営していた中小規模の施設の回復は早いという結果が出ており、両者を比較することで理解が深まる。
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