【IR映画ガイド】恋愛映画からラスベガスの結婚ビジネスを考える「ベガスの恋に勝つルール」 (2/2)

二上葉子


 「ベガスの恋に勝つルール」のコメディの肝となるのが、ラスベガスでの二人のスピード結婚だ。ラスベガスには結婚式場が数多くあり、ドライブインの結婚式場から、IRの豪華なホテルでの結婚式場までが一つの街にまとまって存在する。

 アメリカでの結婚は、役所の発行する「マリッジライセンス(結婚許可書)」の入手がマストで(日本のような戸籍制度がないため)、このライセンスを元に式を挙げて、牧師等の署名をもらい、役所に提出して初めて婚姻が認められるという仕組みだ。ラスベガスの役所での受付は昔は年中無休の24時間営業、現在は8時~24時の営業で(その他オンライン受付もある)、手続き後、すぐにライセンス発行となる。州によってライセンス発行に待機期間を設けているところもある中で、ラスベガスではお手軽にマリッジ・ライセンスを入手でき、結婚式場も真夜中まで開いていて、予約なしでも挙式できることから、ギャンブルで勝った勢いで結婚!?なんてことも、本当にあり得るのだ。

 こんなわけで、ラスベガスでの結婚ビジネスは世界一を誇っている。アメリカでは、役所でのマリッジライセンス発行には費用がかかり、ラスベガスでは申請費用は77ドル(約8,140円)で、クラーク郡では1年で約10万組を受理するというので、莫大な収入となる。期間内に式を挙げる必要があるので、挙式ビジネスも盛んになるのだ。手続きの煩雑な他州からカップルが訪れて結婚するケースはよくあるという。

 ラスベガスではセレブの結婚式も多く執り行われてきた。古くは、街にゆかりの深いエルヴィス・プレスリー、フランク・シナトラがホテルで挙式。ラスベガスでのスピード結婚で思い出すのは、歌手ブリトニー・スピアーズ。彼女は幼馴染と電撃結婚して、55時間後には無効を申請した。2019年にはニコラス・ケイジも日本人女性とラスベガスで4度目婚となったが、わずか4日後に取り消しを申請。歌手の浜崎あゆみも現地でスピード婚をしている(後に破局)。最近では、お騒がせ歌手リリー・アレンとドラマ「ストレンジャー・シングス」で知られる俳優デヴィッド・ハーバーがラスベガスでエルヴィスのそっくりさんの立ち会いのもと結婚式を挙げて、ニュースになった。

 ラスベガスの最新IRのホテルでの豪華結婚式は、連載第5回で取り上げた映画「ラストベガス」に登場するので参考になる。映画ではラスベガスのアリアが舞台になったが、チャペルもプールサイドの結婚式場も品のある華やかさで、大人なムードが漂っていた。招待客はホテル滞在を楽しみ、リラックスした気分で祝うのだ。

 IRでの豪華結婚式はラスベガスに限った話というわけではない。例えば、韓国のIR、パラダイス・シティでのBIGBANGのSOLと女優ミン・ヒョリンの結婚披露宴は話題になった。シンガポールのマリーナベイ・サンズでは、MICEのボールルーム、屋上にある展望デッキ、レストラン、ミュージアムなど、IR内の様々な場所でのウエディングプランがある。

 日本では、婚姻制度が異なるのでラスベガスのようなドライブスルー婚は無いが、日本型IRが実現したときには、豪華ホテルでの挙式、あるいはハネムーンでの滞在ということも想像できる。結婚への考え方も人それぞれで、結婚しない人や、結婚しても式を挙げない人も増え、特に近年は派手な結婚式は少なくなる傾向ではあるが、一定の需要はある。日本のIRも結婚式やパーティー会場として利用されることになるのだろう。


ラスベガスにあるエルヴィス・プレスリーをテーマとした結婚式場


MGMのアリア内にあるラグジュアリーな雰囲気のチャペル


アリアのプールサイドにある結婚式場は、映画「ラストベガス」に登場した


【JaIR特選!IRを実感できる映画ガイド】は毎週金曜日にアップします。次回、10月23日は、ラスベガスの負の側面について考える「リービング・ラスベガス」「ラスベガスをやっつけろ」です。
 
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