【IR映画ガイド】エルトン・ジョンを通してラスベガスのレジデンシー・ショーを学ぶきっかけとなる「ロケットマン」 (2/2)

塚田正晃(KADOKAWA)

歴代2位の記録となったエルトン・ジョンのコンサート

 常設といってもずっと公演し続けられるものではないので、休演時に様々な公演が試される。場末感が払拭されたコロシアムには、エルトン・ジョンやロッド・スチュワート等々、まだまだ現役バリバリのビッグ・ミュージシャンたちが出演しやすく、多数のチャレンジが行われた。その中でいちばんの好成績を収めたのがエルトン・ジョンだった。

 コロシアムで開催されたエルトンのショーは1期が2004年から2009年までの「レッド・ピアノ」というショーで5年間/244公演。第2期が2012年から2018年までの「ミリオンダラー・ピアノ」というショーで8年間/197公演。合計13年間で441公演が行われている。年平均40ステージほどで、ひと月に20公演を半年おきに、というのが基本的な公演形態だ。両公演とも99%以上のチケット販売状況で、両公演合わせて170万人以上を動員して3億ドル(300億円以上)を売り上げ、金額ベースではセリーヌ・ディオンに次ぐ全米第2位の大成功となっている。セリーヌとは違ったアプローチではあるものの、生涯レコード(CD)売り上げベスト5に入るエルトン・ジョンならではの成功と言えるだろう。

 両公演ともに映像化されており、アマゾン等で入手することが可能だ(ブルーレイ版や日本語字幕付きもある)。「ミリオンダラー・ピアノ」では映画の中で最も観客を沸かせた「クロコダイル・ロック」も演奏されており、映画同様に会場全体が「ナー、ナナナナナァ」と大合唱する様子も収められている。比較的高齢のお客さんが多いものの、皆活き活きとした表情で、エンターテナーとしてのエルトンの底力を感じることができる。
 
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主役はエルトンと100万ドルのピアノ

 文字通り、赤いピアノと100万ドルのピアノを中心に据えたショーになっているのだが、エルトンは90年代から日本のヤマハと契約を結んでおり、これらのピアノはヤマハが特注で作っている。「ミリオンダラー・ピアノ」は、大成功した「レッド・ピアノ」の後継のショーのために開発されたイメージを形にしたもので、「宙に浮いているような」「ガラスのピアノ」「透明なピアノ」というエルトンのイメージに沿った形で開発が進められた。日本の浜松にある開発チームの元にこのアイデアが伝えられると、26歳の女性デザイナーが、エルトンのピアノの周りにLEDをはりめぐらせることでピアノごと映像を映せるプロジェクターにしてしまうことを思いつく。これによりステージの背景の映像と一体化させ溶け込ませることでピアノの存在を消してしまうことが可能になり、ショーのイメージに限りなく近づくことができた。もちろん楽器としても超一級品である必要があるため、実際の開発コストは100万ドル(約1.2億円)をオーバーして140万ドル(約1.7億円)ほどに達しているが、十分満足のいく出来だったようだ。この辺りの状況は映像作品のメイキング・トラックで紹介されている。

 2003年に1億ドル以上(当時のレートで約120億円)という破格の建築コストをかけて作られたコロシアムは結果としてレジデンシー・コンサートの歴代トップ2を輩出し、2人で10億ドル以上を稼ぎ出しているわけで、ラスベガスのショービズのスケールの大きさに痺れる。

 2人を追う形で売り上げ3位につけているのは、同じくラスベガスのプラネットハリウッドにあるザッポス・シアターで、2013年から4年間で248公演をこなしたブリトニー・スピアーズ。彼女もピークを過ぎたとはいえ、現役バリバリの時期にレジデント・パフォーマーを務め、これを機にリブーストを遂げている。近年ではレディ・ガガやブルーノ・マーズといった現役ミュージシャンもレジデンシー公演に名乗りを上げ、成功を収め始めている。ラスベガスでレジデンシーを成功させることが、そのままミュージシャンの勲章となり、このあたりの感覚も一変し始めている。

 70年代のプレスリーから脈々と続いてきたラスベガスの魅力を増幅するレジデンシー・コンサートもコロナの影響でキャンセルが相次いでいる。アフター・コロナで元の形に戻って行くのか、ニュー・ノーマルに対応した新たなスタイルが生まれるのか、今後の動向に注目していきたい。そして来るべき日本型IRの中でどんなミュージシャンがレジデンシーを実現し、成功を収めるのか、そんな妄想を膨らましてみるのも面白い。
 
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