【IR映画ガイド】カジノのゲームとセキュリティの裏側を知る「ラスベガスをぶっつぶせ」 (2/2)

二上葉子

カジノを支えるセキュリティの仕事

 カジノに関わる仕事というと、テーブルゲームの「ディーラー」やチップと現金を交換する窓口業務の「キャッシャー」といった客と接するスタッフをまず思い浮かべるだろう。そして、カジノ運営に欠かせない存在として非常に重要となるのが、セキュリティのスタッフだ(もちろん他にも多くの業種がある)。本作の劇中で、ローレンス・フィッシュバーン演じる、カジノのセキュリティスタッフの仕事ぶりはIRのカジノ運営を知るうえで興味深い。

 セキュリティと一口に言っても、客から見える形で業務につく場合もあれば、客から全く目につかない形での業務がある。フィッシュバーンが演じるコールという役は主にカジノのバックヤード、監視カメラのモニターがずらりと並ぶ部屋で仕事をしている。カジノはたいてい24時間稼働しているが、その裏側では実際に日夜、セキュリティのスタッフがカジノフロアの様子を目視している。

 このコールという人物は、長年培った経験と勘を頼りに、不審な行為がないかどうか監視カメラを通してチェックし、不審者を見つければカジノフロアに出て取り締まりをおこなっている(禁止行為を行った者に対して、暴力を振るうシーンが登場するが、実際にはこのようなことは行われない)。映画は生体認証が導入される前という設定で、生体認証が導入されるとセキュリティの仕事を失ってしまうのではという焦りも描かれる。しかし、実際のところは、現在も最新式セキュリティシステムを使用しながらも、人の目による監視は欠かせないと聞く。

 カジノでの監視カメラはフロアの出入りだけでなく、すべてのテーブルゲームを上から撮影し、セキュリティ担当は裏でそれぞれのテーブルでのゲームの進行を見ている。お客、ディーラー双方に不審な点がないかをチェックするのだ。大抵は何でもないゲームの連続であるが、違和感のある動きや合図、不審な賭け方など引っかかる点があれば、より入念にそのテーブルの動きを監視する。このような裏側でのチェックだけでなく、ディーラーもテーブルにいる目の前の客に不審な動きがないかを見ている。筆者は取材で、海外のカジノディーラーに会って話を聞いたことがあるが、いつもと違うトラブルの芽を見つけたときには、さりげなく声掛けを行うそうだ。


カジノフロアのテーブルの上には監視カメラがある


 ゲームを監視するセキュリティの仕事は、日本にIRができる場合に必要な職種となる。この職務に就くためには、ゲームの知識は必須。ゲームの不審な点を見破るには、ゲームの仕組みを深く理解し、ギャンブルを行う客の心理をつかんでいないといけない。非常に専門性の高い仕事と言える(とはいえ、セキュリティ担当はカジノで遊ぶことは禁じられている)。劇中の、カードカウンティングを行う主人公チームとそれを見つけ出すセキュリティチームの攻防は、セキュリティの仕事の一端を知ることができるのでJaIR的には必見だ。

 なお、映画の主人公たちはラスベガスの複数のカジノを渡り歩いているが、もし実際に1つのカジノでトラブルを起こした場合は出入り禁止になり、その情報は同じ地区内の同じ事業者が運営するカジノホテルにも基本的に共有される。日本のIRが参考にしようとしているシンガポールでの入場規制のケースを付け加えると、シンガポールではカジノフロアへの入場自体が政府の規制対象として厳格に管理されており、法令上の規定での入場制限があるため、問題があると認定された客はNCPG(問題ギャンブル国家評議会)で登録され、国内のカジノ2か所ともで入場ができなくなる。シンガポールではその他、21歳未満の客、ギャンブル依存症として登録された客、破産者、本人や家族から入場規制の届出のある者なども入場できない。国によって細かな違いはあるが、IRのカジノには、基本的にどこも厳格な運営ルールが課されている。

 それでも、映画の元となった事件以降も、禁止行為、不正行為をしようとする人はいるだけに、セキュリティはなお進化を続けている。例えば、ブラックジャックに関しては、映画の事件以降、簡単にカードカウンティングされないよう、カードデッキ(デッキとはトランプ1セットのこと)の数は増やされ、さらにシャッフルマシンの導入により、残っている山のほうのカードに、使用されたカードが戻され、途中に機械でシャッフルされるようになった。カードに限りがあるため記憶する意味があったが、この変更によりカウンティングの意味がなくなっている。これは変化の単なる一例にすぎず、常にアップデートがなされている。セキュリティ分野は技術革新が目覚ましいだけに、今後、日本型IRが実現した場合の新たなセキュリティ・ビジネスの動きにも注目だ。


※実際のカードカウンティングチームはアジア系アメリカ人で構成されていたが、映画では白人俳優が主要キャストを務めたため、ホワイトウォッシングがなされた作品だという指摘がある。また、チームを率いる教授役のケビン・スペイシーは2017~2018年に未成年者への性的暴行で告発され、公開前作品の出演シーンのカットやドラマの降板があった。本作は告発以前の公開作品であることを断っておく。

【JaIR特選!IRを実感できる映画ガイド】は毎週金曜日にアップします。次回、9月11日は、モンテネグロのカジノでスリリングなポーカー対決が繰り広げられる大人気スパイアクション「007/カジノ・ロワイヤル」です。
 
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ラスベガスをぶっつぶせ (字幕版)


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