【IR映画ガイド】ラスベガスのど真ん中でロケを敢行!「クレージー黄金作戦」「007/ダイヤモンドは永遠に」 (2/2)

JaIR編集委員・玉置泰紀

ハワード・ヒューズのような変人富豪が登場の007はフレモント・ストリートでカー・チェイス

 日本を代表する人気シリーズで、フレモント・ストリートを通行止めのダンスシーンが披露された4年後、1971年に、世界を代表する大人気シリーズ007の「ダイヤモンドは永遠に」で、「クレージー黄金作戦」の最後を飾ったフレモント・ストリートを舞台に派手なカー・チェイスが繰り広げられた。ゴールデン・ナゲットやパイオニア・クラブなどのネオン街をパトカーと大チェイス、ミント・ラスベガスの駐車場では、追いすがるパトカー集団を自滅させ、最後は細い路地を車体を斜めに二輪走行で切り抜ける。因みに、ボンド・カーはフォードのマスタング・マッハ1。

 フレモント・ストリートはラスベガス・ストリップを北に行ったところで、中心部のストリップに対してダウンタウンにあたるが、人気が高いストリートだった。1931年に初めてのカジノが開業している古いエリアで、派手な電飾が人気で「グリッター・ガルチ(Glitter Gulch、輝く峡谷)」という愛称で呼ばれるようになった。そのストリートは1994年に閉鎖され、1995年に、車の入らない”フレモント・ストリート・エクスペリエンス”に生まれ変わり、幅27m、長さ457mのアーケード自体を映像装置にして、歩行者天国の人気のエリアになった。2019年の大みそかに3200万ドル(当時のレートで35億円)かけて大改修されて、アーケード(映像装置がついている部分は416m)は1,643万画素、LED電球が約5000万個になった。日没後は、光と音のショーが楽しめる。このショーは、ビバ・ビジョン(VivaVision light shows)と呼ばれ、日没後、一時間おきに約6分間ぐらい開催される。2000年代に入って作られた舞台などに多くのパフォーマーが現れる。

 「007/ダイヤモンドは永遠に」はシリーズ第7作で、第5作までジェームズ・ボンドを演じたショーン・コネリーが、前作「女王陛下の007」でジョージ・レーゼンビーに交代したが興行成績が振るわなかった。そこで、ボンド役をやりたくないと渋るコネリーに、これ一作限りの復帰で、破格の出演料のほかに、興行収入の10%、コネリーが望む作品2作の製作費を出すという条件で再登場させ、見事に1.16億ドル(当時のレートで約364億円)という、その年の世界最高をおさめた。

 今作には、ラスベガスに自分が所有するホテル”ホワイトハウス”の最上階ペントハウスに引きこもる世界的な変り者の富豪、ウィラード・ホワイト(ジミー・ディーン)が登場するが、キャラクターはともかく、設定は実在の大富豪、ハワード・ヒューズを思わせる。ホワイトは何年もペントハウスにこもって誰も姿を見たことがない、というのはヒューズそのもの。ハワード・ヒューズはラスベガスを変えた男で、実際に自分の持つホテル、デザート・インに引きこもっていたのだが、この辺りは次回の連載「アビエイター」で詳しく語る。演じたジミー・ディーンはカントリー歌手で、なんと、デザート・インでレギュラーのショーをしていたのだが、ハワード・ヒューズが映画のことを怒るのではないかと冷や冷やだった。シナトラやマーチン同様、ラット・パックの一員であるサミー・デイビスJr.の歌うシーンも撮影されたが、実際にはカットされていて、このホワイトハウスで、ショーの出演者などが載っているカタログらしきものをボンドが読んでいるときに、サミーの写真が載っているページのアップだけが残った。

 ホワイトハウスの外観は旧ラスベガス・ヒルトン(現在はウエストゲート ラスベガス リゾート & カジノ)。ホテルのカジノで、白いジャケットに黒い蝶ネクタイのボンドが、サイコロを使うクラップスで「1万の信用貸しで2000リミットの勝負がしたい」とディーラーに頼むシーンも出てくる。カジノ場の上にサーカスの空中ショーがあるのも楽しい。007の秘密兵器担当のQがホテルのスロットマシンをお手製の電磁リングで次々に大当てさせるいかさまシーンも出てくる。このホワイト(ヒューズ)のほとんど誰とも接触をせず、莫大な資金を持っているというのを利用して、世界的な犯罪組織、スペクターの宿敵ブロフェルドが、引きこもっているホワイトをだまして会社を乗っ取って悪事を働くという設定なのだ。ラスベガス近郊の研究所で、ブロフェルドがホワイトの命令と偽って、大量に集めたダイヤモンドを使ってレーザー光線を強化する開発を行い、人口衛星を飛ばして、世界中を攻撃できる兵器を作るという話は面白い。この作品は、原作に比較的に忠実だった制作者のハリー・サルツマンから、共同制作者のアルバート・R・ブロッコリ主導になって、コメディ要素が強くなり、これは、次作からロジャー・ムーアにボンドが変わる「007死ぬのは奴らだ」以降にも引き継がれていく。007シリーズ全24作は、カジノとは切っても切れない世界なので、改めて記事にしたい。

フレモント・ストリート・エクスペリエンス

1983年のフレモント・ストリート。ラリー・D・ムーア撮影。フレモント・ストリート・エ
クスペリエンスができる前。左側にゴールデン・ナゲットのネオンサインがあり、遠くにラスベガス・ビッグカウボーイのネオンも見える。Larry D. Moore CC BY-SA 3.0

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佐藤利明氏 note『クレージー黄金作戦』(1967年・坪島孝)※外部サイト
https://note.com/toshiakis/n/n3754b3f17e3b

 
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【JaIR特選!IRを実感できる映画ガイド】は毎週金曜日にアップします。次回、8月28日は、ラスベガスを変えた男、世界的な大富豪のハワード・ヒューズが主人公の「アビエイター」です。

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