【IR映画ガイド】ラスベガスでの伝説的な常設公演を体感する「エルヴィス・オン・ステージ」 (2/2)

二上葉子


 また、意外に思うかもしれないが、1970年のステージは大掛かりなセットや仕掛けは無く、ステージにはバンドが並ぶシンプルな造りであった。その中で、白いジャンプスーツなどのアイコニックな衣装をまとって、歌い、ダンスするエルヴィスは逆に際立って見える。映画は複数回の公演の記録を繋ぎ合わせているので、衣装の違いでどの日の公演だったかがわかり、面白い。

 ちなみに、トレードマークのジャンプスーツの原型となる衣装は、エルヴィスが徴兵期間中に習得した空手の道着にヒントを得たと言われ、後に華美なジャンプスーツへと進化を遂げた。ステージ衣装が華やかになったのは、1950~80年代に活躍したピアニストで、エルヴィスが敬愛するリベラーチェの影響である。

 リベラーチェは1970~1980年代にラスベガス・ヒルトン(元のインターナショナル・ホテル)で常設公演を行い、人気を博した。このラスベガス公演の様子は、スティーブン・ソダ―バーグ監督の映画「恋するリベラーチェ」に登場する。リベラーチェのステージは、エルヴィスとは異なり、大掛かりなセットを組んだ派手なものだった。映画では忠実に再現されているので、JaIR視点ではこちらも参考となる。

「恋するリベラーチェ」
https://movie.walkerplus.com/mv53959/

1979年のラスベガス・ヒルトン前の看板。リベラーチェの名前が見えるが、エルヴィス公演時は、ここに「ELVIS」と掲げられていた
 

ラスベガスとエルヴィスの深い縁、新たな伝記映画も計画中

 ラスベガスとエルヴィスとの関係は、常設公演で決定的なものになったが、それ以前の映画で忘れてはならないのが、彼の数ある青春ミュージカル映画の中の代表作「ラスベガス万才」(1964年公開)だろう。劇中には、1963年撮影当時のフラミンゴ・ラスベガス、サハラをはじめとするリゾートホテルが数多く登場。現在ではIRがひしめくストリップ地区にまだ空き地が見られるのも興味深い。ダウンタウンの華やかなネオン街を背景に、エルヴィスが歌う「VIVA LAS VEGAS」は、ラスベガスを象徴するテーマ曲として知られている。
 
「ラスベガス万才」(1964年 アメリカ)
https://movie.walkerplus.com/mv9514/
 
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ラスベガス万才 没後30周年 メモリアル・エディション (字幕版)
 
 また、私生活でもラスベガスと縁があり、1967年、エルヴィスはプリシラとの結婚式をラスベガスのアラジンホテルで執り行った。アラジンは、後に買収されてプラネット・ハリウッドとなったホテルだ(当時の建物は1998年に取り壊され、2代目の建物が買収後に改修された)。結婚式は型破りなもので、前夜からカリフォルニアでパーティーを開き、そのまま移動して、ラスベガスで朝9時から挙式、披露宴で朝食を取り、合間に記者会見。帰りはフランク・シナトラの飛行機を借りて、自宅に帰宅したという。慌ただしいスケジュールがスターの証であるようなエピソードだが、その後離婚し、また常設公演やツアーの過密スケジュールで体を壊し、結果若くして死に至ったことまで知っていると、幸せの絶頂にも複雑な思いがする。


プラネットハリウッドにはジェニファー・ロペス、ブリトニー・スピアーズ両公演の巨大ポスターが掲出されていた(2017年撮影)


 死後もエルヴィス関連のイベントは枚挙にいとまがない。この10年でもラスベガスでショーやイベントが行われている。2010年から2012年にかけて、シルク・ドゥ・ソレイユは、ラスベガスで「Viva ELVIS」というショーを開催した。これは、遺族による権利管理団体エルヴィス・プレスリー・エンタープライズ(EPE)とコラボレーションによるもので、ヒットナンバーとアクロバティックな演技が融合した演目であった、2015年には、ウエストゲート・ラスベガス(元のインターナショナル・ホテル)は、公演ゆかりの品などの展示とショーを開催。ラスベガスでこれほどまでに長期的に取り上げられるスターは、他にはいない。

 また現在、バズ・ラーマン監督(代表作「ムーラン・ルージュ」「華麗なるギャツビー」)によるエルヴィスの伝記映画の計画が進んでいる。今年3月、セレブリティでいち早く新型コロナウィルス感染を発表した俳優トム・ハンクスの報道を覚えているだろうか。彼はオーストラリア滞在中に感染を公表したが、滞在はこの伝記映画の撮影のためであった。
 
 トム・ハンクスは、マネジャーのトム・パーカー大佐役を演じる。大佐はエルヴィスのキャリア終盤、ギャラの5割を分け前としていたという、いわくつきの人物である。エルヴィスを演じるのは、アメリカ人俳優オースティン・バトラー。配給のワーナー・ブラザースによると、映画ではエルヴィスとパーカー大佐の複雑な関係を描くとしており、ラスベガス公演の裏側も登場するのか、非常に気になるところだ。全米公開は当初2021年10月1日だったが、新型コロナの影響で公開は遅れ、現状は2021年11月5日公開予定となっている。

 さらに今年7月、エルヴィス・プレスリーの孫のベンジャミン・キーオが27歳で自殺したという大変悲しいニュースが飛び込んできた。ベンジャミンはエルヴィスと容姿が似ており、プレスリー家としてのプレッシャーを感じていたとも言われている。エルヴィスという偉大すぎる存在は、時に酷なものである。それだけ今も多くの人が影響され続けている。ドキュメンタリー映画を通じて、アイコンとしてではない、生身のエルヴィスを感じれば、なぜそれだけの影響力があるのかを知ることができるはずだ。


2017年、ラスベガスにエルビス・プレスリーの名を冠した大通りが誕生


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【JaIR特選!IRを実感できる映画ガイド】は毎週金曜日にアップします。次回、8月21日はラスベガスでのロケを敢行したクレージーキャッツ主演映画「クレージー黄金作戦」です。

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