ラスベガスのマジック業界全体をパロディにした映画
「俺たちスーパーマジシャン」(2013年 アメリカ)Image from Amazon.co.jp |
俺たちスーパーマジシャン(字幕版) |
この映画は「グランド・イリュージョン」と同じ2013年に全米公開されているが、日本では劇場公開されなかったためあまり知られていない。アメリカでの興行成績も惨敗していて、作品的な評価も低い。それでもラスベガスでのイリュージョンを学ぶという意味ではぜひお勧めしておきたい作品だ。TV界の人気コメディ・スターのスティーブ・カレルが主演。日本での彼の知名度の低さも劇場公開が見送られた理由だろうが、「マスク」等で人気のジム・キャリーが脇を固め、それなりに力のこもった作品だ。現在デジタル配信やブルーレイ・DVDで観ることが可能だ。
冒頭でも紹介したジークフリード&ロイをモデルにしたと思われる、一世を風靡した2人組の人気マジシャンの栄枯盛衰の物語。登場人物もラスベガスのレジェンドたちを下敷きにしている。主人公たちが子供時代に憧れたマジシャンは、ラスベガスマジック界の初期のヒーローであるランス・バートン。彼らを雇って、解雇して…命運を握るホテルオーナーはスティーブ・ウィン。そして彼らを脅かす存在のニュータイプのマジシャンはクリス・エンジェル。このほかいつもトラに噛まれて包帯を巻いているマジシャンまで出てくる。件(くだん)のカッパーフィールドはこの作品でもマジックの監修にクレジットされていて、本人役として出演もしている。ラスベガスのマジック業界のパロディ的なコメディ作品で、JaIR的に学ぶべきことはグランド・イリュージョン・シリーズより多い。
ちなみに現実のクリス・エンジェルはラスベガスで公演を続けるレジェンドたちに比べてまだまだ現役感のあるマジシャンだ。2008年、MGM系のルクソールで常設ショーをやるために、シルク・ドゥ・ソレイユと合体したプロジェクトが組まれ、最強の人気コンテンツになるはずだった。…が、結果は伴わなかった。両方の良さが活かされずお互いの存在がぶち壊しだったのだ。その後シルクとの共演を解消し、シーザーズ系のプラネットハリウッドに拠点を移し、昨年から始めた新しいショーは水を得た魚ように素晴らしいと好評だ。新型コロナウィルスの影響で相変わらずステージはキャンセル続きのようだが、今いちばん観に行きたいショーのひとつだ。
コロナはたくさんのショーを中止に追い込み、IR自体の経営に影を落とし始めている。ラスベガスのエンタメの中心だったシルク・ドゥ・ソレイユでさえ経営破綻の憂き目を見ている。大切なものを、たくさん奪っていくが、実はジークフリード&ロイのロイ・ホーン氏も5月に新型コロナウィルスに罹患して亡くなってしまっている。75歳だった。ホワイトタイガーに噛まれた時には一命をとりとめたロイも、コロナの前ではなす術がなかったようだ。イリュージョンを極め、ラスベガスの立役者の1人であるロイ・ホーン氏のご冥福を心からお祈りするとともに、世界がコロナに打ち勝ち、1日も早く安心してエンターテイメントを楽しめる時代に戻ることを願いたい。
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