シルク・ドゥ・ソレイユ経営破綻 会社更生を申請

二上葉子

 カナダ・ケベック州モントリオール本社のシルク・ドゥ・ソレイユ・エンターテイメント・グループは、6月29日、現地の会社債権者整理法(CCAA)に基づく事業再生を申請すると発表した。この申請は、30日にケベック高等裁判所で審理され、許可されれば、同社はアメリカでも破産保護を申請する。新型コロナウィルス感染拡大の影響で世界各地でショーが休演し、経営資金が逼迫する中、3月下旬にはスタッフ約4,679名のレイオフ(一時解雇)を実施したが、コロナ以前からの経営上の問題で約9億ドル(約960億円)の負債を抱えていた。


1998年からラスベガスの専用劇場にて上演されている「O(オー)」

 同社の主要株主である、アメリカ・テキサス州のTPGキャピタル、中国の投資会社である復星国際(Fosun)、ケベック預金投資年金ファンド(Caisse de depot et placement du Quebec)の3社と、5月末に融資を誓約していたケベック州投資公社(Investissement Québec)との間で協議がおこなわれていたが、裁判所が管理する販売・投資勧誘プロセスにおいて、最低許容入札額を設定した「ストーキング・ホース(※)」売買契約を締結するに至った。

 本契約に基づき、主要株主3社とケベック州投資公社は、同社の全財産を現金、負債及び株式を取得し、従業員及び独立した請負業者を救済するため、合計2,000万米ドル(約22億円)のファンドを設立。そして、事業再生に 3 億米ドル(約323億円)を注入して事業再開を成功させ、同社の従業員やパートナーを救済し、ショーの中止によって影響を受けるチケットホルダーを含む未払い債務の一部を引き受ける。

 売買契約書もはさらに、この3億米ドルの一部として、解雇された従業員への財政支援のための1500万米ドル(約16億円)の従業員専用基金と、専用従事者やフリーランスのアーティストへの未払い債務の支払いのための500万米ドル(約5億円)の契約者専用基金の設立を規定。また、ケベック州にあるこの重要な文化資産の中核を維持するために、ケベック州モントリオールを本社として維持することも含まれている。 

 同社のダニエル・ラマール社長兼CEOは、「シルク・ドゥ・ソレイユは過去36年間、非常に成功し、利益を上げてきた。しかし、COVID-19 の影響ですべてのショーが強制的に閉鎖されて以来、収益がゼロになったため、経営陣は当社の将来を守るため、断固とした行動を取らなければならなかった」とコメント。

 続けて、「スポンサーからの強固なコミットメントには、影響を受けた従業員、請負業者、重要なパートナーを支援するための追加資金も含まれており、シルクの復活にとって重要な役割を果たすが、私たちのブランドの力と長期的な可能性に対する相互の信念が反映されている。経営を立て直し、世界中の何百万人ものファンの皆様にシルク・ドゥ・ソレイユという魔法のようなスペクタクルを再び創造するために力を合わせられることを楽しみにしている」と述べた。

  契約には、解雇された従業員の大多数を再雇用する意向も盛り込まれ、強制的な操業停止が解除され、操業が再開された場合に、事業状況が許す限り、再雇用が可能となる。ラスベガスとオーランドのレジデントショー(常設公演)が、他のショーより先に再開される予想のため、レジデントショー部門のアーティストやショースタッフは、迅速かつ効率的に復帰できるよう、破産による措置の影響を受けないようにする。

 入札の参加者は、同社の共同創業者であるガイ・ラリベルテ氏が率いるコンソーシアムや、カナダの通信コングロマリットであるケベックオール社などが含まれている。入札プロセスに参加した他の関係者は公表されていない。ラスベガス日刊紙のラスベガス・ジャーナル・レビューは、会社の所有権が確定するまでには数ヶ月、おそらく秋までかかるだろうと見立てている。

 3月に閉鎖を余儀なくされた時点で、世界各国で44のショーを行っていたが、そのうち常設公演6つは、ラスベガスで行われていた。ベラージオでの「O」、MGMグランドの「Ka」、ミラージュの「Love」、ニューヨーク・ニューヨークの「Zumanity」、トレジャーアイランドの「Mystere」、マンダレイベイの「Michael Jackson ONE」は、同社の収益の60%以上を占めていた。ラスベガス公演で連携するMGMリゾーツは、誰が会社を所有することになるかに関わらず、リゾートや劇場の再オープン計画を進めるという。

 従業員は現在、同社から呼び戻されるのを待っている状態で、各国の失業支援に頼っている。ツアー公演は早ければ2021年の復帰を目指すと、ラスベガス・ジャーナル・レビューは伝えているが、先行きは流動的である。


※ストーキング・ホース・ビッドとは
 債務者は、アメリカ連邦破産法第11条を裁判所に申し立てる前に、事業等のスポンサー(ストーキング・ホース、当て馬と呼ばれる)と、違約金付の売買の合意をし、破産法の手続申立後は裁判所の関与のもとで、あらためて事業等の買い手を広く求め、新たな買い手がストーキング・ホースの付けた金額より、少なくとも違約金分高い値段を付けた場合にのみ入札に競り勝つという仕組み。ストーキング・ホースの提示条件を上回る入札がない場合には、ストーキング・ホースを正式な買い主として確定させることを指す。ストーキング・ホースを立てることで債権者の懸念を最小限に抑えられ、事業価値の毀損を防ぎ、最低売却額をあらかじめ把握し、事業譲渡を確実かつ高額に実施することができる。

■参考
シルク・ドゥ・ソレイユ・エンターテインメント・グループ、事業再開に向けた包括的な計画を発表(6月29日)
CIRQUE DU SOLEIL ENTERTAINMENT GROUP ANNOUNCES COMPREHENSIVE PLAN TO RESTART BUSINESS
https://www.cirquedusoleil.com/press/news/2020/cirque-du-soleil-entertainment-group-comprehensive-plan-to-restart-business

■関連記事
ラスベガスでのエンターテインメント「シルク・ドゥ・ソレイユ」に未来はあるのか?(5月1日)
https://jair.report/article/297/

シルク・ドゥ・ソレイユに対してカナダ・ケベック州が最大2億ドルの融資を誓約(5月28日)
https://jair.report/article/318/