【IR映画ガイド】ボクシングの聖地ラスベガスの変遷がよくわかる「ロッキー」シリーズ (2/2)

二上葉子

最終作は実際のボクシング試合前に、マンダレイ・ベイで撮影

 4作目からしばらく時間が空き、2006年公開の「ロッキー・ザ・ファイナル」では、再びラスベガスが登場する。ボクシング引退後、妻を亡くしたロッキーは、地元フィラデルフィアでイタリアンレストランを開業。亡き妻との過去に囚われていたが、自身の中に眠るボクサーとしての情熱に気付き、50代にして再びリングへ立つ。

 そのチャリティマッチの大舞台が、MGMリゾーツのIRにある屋内アリーナ「マンダレイ・ベイ・イベント・センター」(1999年開業)だ。撮影の会場探しが難航していたところ、テレビ局HBO主催のボクシングマッチが同会場で開催されることから、本物の試合前に撮影した。観客は実際の試合を見に来た人々なので、会場の熱狂もリアルそのもの。ラウンド終盤、自然と湧き上がるロッキーコールに、映画を見ているほうも胸が熱くなる。
 
 ちなみに同会場では、今年4月にはWBAスーパー&IBF世界バンタム級王者の井上尚弥とWBO王者ジョンリエル・カシメロ(フィリピン)と3団体統一戦が組まれていたが、新型コロナウィルスの影響で延期となった。ネバダ州でのイベント解禁後には、ロッキーゆかりの会場での勇姿に期待したい。

 ロッキーの物語はもともと、1975年当時、無名俳優だったスタローンが、ボクシングヘビー級世界王者戦で、モハメド・アリに無名ボクサーのチャック・ウェプナーが果敢に戦う様子に感銘を受けたところから始まった。スタローンはわずか3日間で脚本を書き上げて売り込み、自身主演で映画化。この映画の成功によりスタローンは世界的なアクション俳優となり、物語中のロッキーは世界王者となった。まさにアメリカン・ドリームを二重に体現している点がこのシリーズの魅力だ。その最後の試合会場が、夢を売る街ラスベガスのIRの巨大アリーナというのは、有終の美を飾るに相応しい。

「ロッキー・ザ・ファイナル」の舞台となった「マンダレイ・ベイ」
 

人気プロスポーツの誘致が続くラスベガス

 「ロッキー」シリーズで辿ってきたように、ラスベガスのIRでは、ボクシング、またプロレスなどの格闘技大会が開催されてきた。ボクシング、プロレスは歴史的にカジノとのつながりが深く、IRでのスポーツエンターテイメントは格闘技とともに歩んできたと言える。さらに最近、ラスベガスに人気プロスポーツを誘致して、スポーツエンターテイメント全般でIRの集客を図る動きがある。この点は、日本型IRの参考にもなるだろう。

 プロアイスホッケーリーグNHLでは、ラスベガスをホームとするチーム「ベガス・ゴールデンナイツ」が2017年に新たに創設された。収容人数2万人を誇る「T-モバイルアリーナ」(2016年開業)を本拠地とし、砂漠の街にアイスホッケーということで話題になった。新設1年目から力を発揮し、プレーオフトーナメント進出。このスタンレーカップ時期のラスベガスは、まさにゴールデンナイツ一色だった。ファイナルでは惜しくも負けてしまったが、アメリカ4大スポーツによる熱狂がIRに持ち込まれたという点で大きな意味を持つ。前述の通り「T-モバイルアリーナ」は、ボクシングのビッグマッチでも使用されている。


2018年、NHLスタンレーカップファイナルが開催されたT-モバイルアリーナ


 今年1月には、プロアメリカンフットボールリーグNFLのチームがラスベガスに移転し、チーム名が「ラスベガス・レイダース」となった。本拠地は屋内ドーム型施設「アレジアント・スタジアム」で、8月22日にオープンする。将来このスタジアムで、NFLの優勝決定戦にしてアメリカ最大のスポーツイベント「スーパーボウル」の開催も期待されている。

 また、フィジカルのスポーツだけでなく、ゲームを使ったeスポーツの世界大会もラスベガスのIRで開催されている。例えば、格闘ゲームの国際大会「EVO」は「マンダレイ・ベイ コンベンションセンター」で開催されてきたが(今年は中止)、リアルで1万人規模を集め、世界中に映像配信され、盛り上がりを見せている。

 ラスベガスでアリーナやスタジアム建設が続く中、次に話題になるのは、ラスベガス・サンズとマディソン・スクエア・ガーデン社の共同プロジェクトである次世代型アリーナ「MSGスフィア」だろう。アリーナは直径約150メートルの巨大な円球状というユニークな形で、その内部と外部はデジタルスクリーンで覆われ、オリジナル映像が投影される予定。客席数は約18,000席、完成は2021年とされていたが、新型コロナウィルスの影響で延期になると見られる。

 マディソン・スクエア・ガーデン社といえば、アメリカ東海岸のボクシングの聖地、ニューヨークの「マディソン・スクエア・ガーデン」を運営する会社だ。「ロッキー3」の後半の世界王者戦の場面でも登場する。ラスベガスの次世代型アリーナは音楽ライブでの活用が見込まれているが、ボクシングが開催される日も来るのだろうか。

 現在は、ラスベガスではイベントが開催できない状況が続いているが、スポーツファンにとっては観戦への渇望は募るばかりだ。現地で、あるいは中継で、と観戦の楽しみ方は様々だが、スポーツエンターテイメントはIRを盛り上げる大きな存在であることは間違いない。


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