IR映画の座談会再び エンタメ、カジノ、テクノロジー、コロナ禍まで語る (1/3)

大谷イビサ(JaIR編集部)

 連載「JaIR特選!IRを実感できる映画ガイド」の番外編である連載担当による座談会が戻ってきた。IRを学ぶ近道であるさまざまな映画を観てきた3人に、連載後半で印象に残った映画や学んだことなどをざっくばらんに話してもらった。*ネタばれあり
 

登場人物

塚田:KADOKAWAのIR担当でありながら、映画も大好きなので参加させてもらってIRの勉強をしています。

玉置:「バグジー」を見た直後にラスベガス旅行。思えばIRとの出会いでした。昨年行ったラスベガスとは隔世の感。

二上: 世界のIRを取材してきたJaIRライター。エンタメ、スポーツビジネスが専門分野。最近は新型コロナによるIRビジネスの変化を追いかけています。
 

レジデンシーショー今昔物語 プレスリーからエルトン・ジョンまで


大谷:さてIR映画座談会の後半ということで、今回もよろしくお願いします。さて、後半の最初である第11回は「エルヴィス・オン・ステージ」からスタートです。こちらは二上さんですね。

第11回「エルヴィス・オン・ステージ」 ーラスベガスでの伝説的な常設公演を体感する
https://jair.report/article/419/

二上:とにかくエルヴィスの神通力は今のラスベガスでも健在です。そっくりさんがいたり、通りの名前になったり。私はエルヴィスの世代ではないですし、この映画もたまたまレイトショーで観たのですが、ラスベガスでこんなに熱いショーをやっているんだと思って、かなり衝撃を受けました。今回改めて観ましたが、やはり今のレジデンシー・ショー(常設公演)の原点なんだなと思います。

2017年に完成したElvis Presley Blvd.の看板


大谷:レジデンシー・ショーという意味では、塚田さんが第16回でエルトン・ジョンの「ロケットマン」を書いていますね。

第16回「ロケットマン」ーエルトン・ジョンを通してラスベガスのレジデンシー・ショーを学ぶきっかけとなる
https://jair.report/article/461/

塚田:レジデンシー・ショーのシーンがいっぱい出ているよということで、玉置さんからのオススメで観ました。エルトン・ジョンも好きだったしね。ただ、実際に観てみると、どちらかというとエルトン・ジョンの半生記みたいな感じ。面白かったけど、連載として書くのはけっこう大変でした。だから、後半はレジデンシー・ショーで大成功したセリーヌ・ディオンの話とか入れました。

ちなみにセリーヌ・ディオンのラスベガスのレジデンシー・ショーはシーザーズのコロセウムで観たことがあります。

玉置:僕は去年、コロセウムがリニューアルしたこけら落としのキース・アーバンのライブを取材してきました。超ハイテク化されていましたが、舞台が近く見える構造は変わっていなくて観やすかったです。ちょうど他のアリーナ・劇場では、エルトン・ジョンやブルーノ・マーズをやっていましたが、そちらは観られませんでした。セリーヌ・ディオンはどうでしたか?

レジデンシー・ショーの代表とも言えるセリーヌ・ディオンのステージ

塚田:華やかで、すごく迫力で楽しかったのですが、半分くらいはトークショーなんですよね。正直、さだまさしかと(笑)。言語の壁があって、ノンバーバルな優しさはあまりなかったですね。

大谷:さだまさしのようなセリーヌ・ディオンのショー、字幕ありで観たいですけどね。

私が行くようなIT系のイベントでも、ラスベガスの場合はナイトプログラムでライブは必ずありますね。しかもけっこう有名なバンドが出てきます。IBMのイベントでエアロスミスが出てきたとほかの記者から聞いたときは、本気でうらやましかった。日本でやるホテルのこじんまりとしたディナーショーじゃなくて、完全にアリーナショーなんですよね。ああいうのは日本にはほしいですね。
 

カジノと犯罪、そしてセキュリティの変遷を知る


大谷:続いては古典的なお題であるカジノやセキュリティのお題ですね。

二上:私はカジノとセキュリティをテーマに「ラスベガスをぶっつぶせ」を書いています。MITの優秀な学生たちがチームを作り、カードゲームのブラックジャックのチート行為で大儲けするという内容。映画の中では、今出ているカードの残り札を頭の中で把握して、次の出るカードの組み合わせがよさそうなときに賭ける「カードカウンティング」という方法を使っています。各テーブルを学生たちが張っていて、勝てるタイミングに数字に強いプレイヤーを送り込むという手口です。

第14回「ラスベガスをぶっつぶせ」ーカジノのゲームとセキュリティの裏側を知る
https://jair.report/article/448/

映画は実話をベースにしているのですが、なにせ1990年代なので手法自体はすでに古典的なんですよね。今はカードの残数や組み合わせがわからないようになっている上、使われなくなったカードとまた混ぜられてしまうので、次のカードを割り出せない仕組みになっています。それでも予想したい人はいるので、いたちごっこではあるのですが……。

大谷:以前、取材で聞いたところでは、すでにカードシャッフルはあまり人の手でやらないと言っていましたね。ゲームのたしなみや所作としては必要だけど、お客さまに頼まれないとやらないらしいです。

塚田:中国人は機械だとかえっていかさまされると思っているので、人がシャッフルしたり、配らないと、納得いかないらしいです。だから、マカオはなかなか電子化できない。

二上:今回書いていて気がついたのは、コロナにおいてはテーブルゲームの中でポーカーの戻りがもっとも遅かったということ。ポーカーってプレイに時間がかかるし、胴元側からすると、あまり割がよくないらしいです。人気ゲームなので人が集まりすぎてしまうため、密を避けるという意味合いもありますね。

玉置:アジア系で人気なのはバカラなんですが、ラスベガスではやっぱりポーカーです。僕が書いた「007 カジノ・ロワイヤル」も原作はバカラなんですが、映画ではテキサス・ホールデムというポーカーの1種になっています。テキサス・ホールデムはアメリカではとても人気が高いので、この映画ではバカラではなく、ポーカーを採用したということです。まあ、今アジア市場向けにカジノ・ロワイヤルを作ったら、バカラになっているかもしれませんが(笑)。

第15回「007 カジノ・ロワイヤル」ーポーカーの華、テキサス・ホールデムを極める
https://jair.report/article/454/

大谷:記事にも書いてありますが、カジノ・ロワイヤルは全体の1/3がポーカーのシーンなんですよね。

玉置:カジノ・ロワイヤルは今回、連載のためにもう一度じっくり観たんですが、すごい傑作だと思いました。僕自身、全然ギャンブルをやらないのですが、カジノ・ロワイヤルでの心理的な駆け引きは迫力あるし、それがちゃんと人間ドラマにもなっています。しかもラスベガスをぶっつぶせみたいにいかさまやギミックもなくて、ポーカーシーンは本当に心理戦なんです。

007シリーズはほぼ全作品にカジノが出てくるのですが、ここまでカジノにフィーチャーしたのはカジノ・ロワイヤルくらいしかない。あとから「スカイフォール」に追い抜かされるとはいえ、興行収入もシリーズ最高記録を更新しましたから、本当にすごい映画です。

大谷:第18回目の「ジェイソン・ボーン」では、テック系のMICEをかなりまとめて紹介しました。

玉置:カジノだけではない、今のIRはMICEがかなり重要な位置を占めていますが、元をたどればラスベガス・サンズのシェルドン・アデルソンが友人と立ち上げた「COMDEX」というテック系イベント会社が出発点と言われています。今でもラスベガスはテック系イベントのメッカで、サンフランシスコで開催されたイベントがラスベガスに移るようになった経緯は大谷さんが記事に書いてくれた通り(関連記事:巨大化するイベントとMICEの必要性とは?IT記者から見たラスベガス)。そして、ジェイソン・ボーンはこういうテック系のイベントを舞台にして、ラスベガスで派手なドンパチやカーチェイスを繰り広げるというやつです。

第18回「ジェイソン・ボーン」ー”テック系のMICEと言えばラスベガス”を学ぶ
https://jair.report/article/470/

大谷:もはやIRとテクノロジーは切り離せない存在になりました。

玉置:たとえば、ラスベガスやマカオ、シンガポールのIRでは、すでに依存症を見つけ出すためにカメラと映像解析を使ってます。

二上:先ほど話した「ラスベガスをぶっつぶせ」の記事では、ギャンブルでのセキュリティの裏側も扱いましたが、ちょっと前の映画なので、既存のアナログなセキュリティとテック系のセキュリティとのせめぎあいみたいなものも裏テーマだったりしましたね。私も実際にIRセキュリティの現場を取材したことがあります。

こうしたテクノロジーは、IR側ではチート行為や犯罪者・依存者の割り出すためにも使われますが、犯罪者からも個人情報や取引情報も狙われることになるので、セキュリティは大きなテーマです。実際、アメリカではサイバー攻撃を受けて、カジノが一時閉鎖したというニュースもありましたし、今後も増えていくと思います。

大谷:前回の座談会で塚田さんが話していましたが、ラスベガスが犯罪を締めだした結果、街はクリーンにはなりましたが、ギャングや犯罪映画はリアリティを持たなくなった。一方で、今後の犯罪はこうしたサイバー犯罪になっていくんでしょうね。