巨大化するイベントとMICEの必要性とは?IT記者から見たラスベガス

大谷イビサ(JaIR編集部)

 とかく「カジノの街」と言われがちなラスベガスだが、実際は巨大なMICE(Meeting、Incentive tour、Convention・Conference、Exhibition)をいくつも抱える「イベントの街」でもある。JaIRではIRの動向を追いつつ、本業はIT系の記者というオオタニがラスベガスのMICEについて語る。


巨大なサンズ・コンベンションセンター
 

年々、巨大化するIT系のイベント

 ラスベガスでは数多くのイベントが毎日のように開催されている。代表的なMICE・IRのはしりとも言えるサンズ・コンベンションセンターとベネチアン・パラッツォは、大規模なITイベントではもはや定番の会場だ。

 ことMICEという観点で、ラスベガスのすごさを感じるのは、大規模イベントを運営できるキャパシティだ。単純にイベント会場やホテルの広さもすごいのだが、なにより参加者の食事を用意し、会場やホテル間の人の流れをさばき、イベントを安定的に運営する仕組みと人海戦術にはいつも感心する。もちろん、日本人にとって口の合わない料理もあるだろうし、待ち行列がまったく進まないこともあるが、なにしろ参加者が日本の比ではない。単純なハコだけではなく、数万人規模の参加者をさばくMICEの運営ノウハウこそラスベガスの大きな価値だと思う。
数万人規模の参加者をさばけるキャパシティこそラスベガスの強み
 ラスベガスでのイベントの規模は近年ますます拡大している。大手クラウドベンダーのアマゾンウェブサービス(AWS)の年次イベント「AWS re:Invent」は、イベントの会場がベネチアン・パラッツォ/サンズコンベンションセンターでは収まらなくなり、数年前からアンコア、ミラージュ、アリア、MGMグランドなど近郊のホテルを含めてイベントを広域・分散展開するようになっている。ちなみに2019年の参加者は6万5000人を超えている。

 先日、終了したコンシューマー製品・サービスの世界的な展示会であるCESは年々その規模を増しており、今年は11会場に拡大し、総面積は250万㎡となった。SNSを見る限り、1日20km歩いたという参加者もいたようだ。
 

ラスベガスが選ばれるのはキャパシティだけではない

 キャパシティの問題は大きいが、そのほかにもラスベガスを積極的に選ぶ理由はいくつもある。

 昨年末、大手ITソフトウェア会社のオラクルが年次イベント「Oracle Open World」の会場をサンフランシスコからラスベガスに移すことを発表した。大型イベントを開催することで長らく地元経済に貢献してきたオラクルのこの決断には大きな衝撃が走っている。サンフランシスコの地元紙であるサンフランシスコクロニクルの「SF loses Oracle’s huge OpenWorld tech conference to Las Vegas」によると、その理由はサンフランシスコの宿泊施設の軒並み高騰化したこと、そしてホームレスが増えて犯罪率が高くなったことだ。キャパシティだけではなく、サンフランシスコに比べて安価で、安全だからラスベガスを選んだわけだ。

 特に後者の犯罪率の件は興味深い。2017年の銃撃事件の影響もあり、ラスベガスというと「犯罪が多い」「治安が悪い」というイメージがあるが、実態は異なる。1990年代後半、シェルドン・アデルソン氏が率いるラスベガス・サンズがベネチアンを開業し、サンズ・コンベンションセンターと連携したMICE・IRの原型を作った。その後カジノの街から、エンターテインメントの街に急速にシフトしたラスベガスは安全性(セーフティ)確保が最優先事項になっており、全米で治安のよい街として毎年10位以内にランクインするようになった。こうした歴史はきちんと振り返る必要がある。

 翻って日本を見れば、国際会議の開催件数は年々減り続けており、一人あたりの消費額が高いビジネス客を取り込めていない。また、日本最大の展示場「東京ビッグサイト」の広さは世界では78位。幕張メッセも112位に過ぎない(以上、観光庁調べ)。こうした状況を打開すべく、IR整備法では大規模な国際会議を開催できるMICEの設置を要件としているが、会場のキャパシティさえ確保すれば、治安の良さや低廉な物価というメリット、運営ノウハウの蓄積により、魅力的なMICEを提供できるのではないだろうか?