【新型コロナのIRへの影響レポート】シンガポール 2021年2月15日版

二上葉子

 昨年は新型コロナウィルスの影響を受けて、世界的に閉鎖~再開を経験した統合型リゾート(IR)産業。コロナ対策を行い、営業を再開している地域もあるが、一方では感染拡大が収まらず再閉鎖となっている地域もある。昨年末からは感染力が強いとされる変異種の流行が拡大、またワクチン接種が開始となり、新型コロナとの闘いは新たなフェーズに入った。日本型IRビジネスレポート(JaIR)では、IRがある主要な地域の新型コロナウィルス関連の動向を配信。ラスベガスマカオに続き、今回はシンガポールの最新状況をレポートする。


シンガポールの国内観光客獲得に注力しているリゾート・ワールド・セントーサ
 

陽性者は1日10人以下に減少、シニア層へのワクチン接種が進む

 シンガポールでは、新型コロナウィルス感染者数は、2020年8月は1日の陽性者が100人規模であったが、9月下旬に10人台まで減少して以降は、2020年内は低い水準を保ってきた。

 現地では、6月19日から新型コロナウィルスに対する「サーキットブレーカー」措置の「フェーズ2」が続き、長期間感染が抑え込まれていたため、12月28日から「フェーズ3」に移行。フェーズ3では、許可される集会規模の緩和と、ショッピングモールやアトラクションの運営キャパシティの緩和が行われた。ショッピングモールやアトラクションの運営は、フェーズ2では50%だったが、フェーズ3では65%までの運営が認められることになった。

 その後、2021年1月初めに1日の感染者数は30人規模に増加、1月30日には陽性者が1日58人となったが、2月に入って数字が下がり、2月15日現在の感染者は1日9人にまで減少した。陽性者の多くは国外からの渡航者で、国内での市中感染者はが0~1人の状況にある。2021年2月15日現在の感染者累計は59,809人(回復者59,641人、死亡者29人)である。12月下旬には英国からの渡航者から変異株が確認された。

 シンガポールでの新型コロナウィルスのワクチン接種は、最前線で働く医療従事者を対象に1月19日から開始。1月27日からは試験的なプログラムとして一部地域の70歳以上を対象に実施されており、現在までに26万人近くが接種を受けている。2月22日からは、高齢者対象のワクチン接種が本格的にスタートする。シンガポールでは予防接種は義務ではないが、政府は人々に予防接種をするよう強く勧めている。今後、予定通りにワクチンが到着すれば、残りは今年中に接種を受けることができるとリーシェンロン首相は述べている。


シンガポールでのワクチン接種は、政府設置の特別センター、診療所で行われる
 

ゲンティン・シンガポール、マリーナベイ・サンズともに2020年下期は回復の兆し

 シンガポール国内に施設があるIR事業者、ゲンティン・シンガポール、マリーナベイ・サンズはそれぞれ2020年の決算発表を行った。


●ゲンティン・シンガポール

 リゾート・ワールド・セントーサ(RWS)を運営するゲンティン・シンガポールは、決算発表において、2020年通年の純利益が6920万シンガポールドル(約54.5億円)で、前年比89.9%減となったことを報告した。同社によると、シンガポールでIR複合施設を2010年にオープンして以来、グループの「最悪の財務パフォーマンス」だったという。2020年通年のゲーミング収入は、前年比56.7%減の7億80万シンガポールドル(約553億円)、非ゲーミング収入は、前年比65.1%減の2億9,940万シンガポールドル(約236億円)となった。

 同社は通年では大幅な減収であったが、リゾートが提供するサービスのイメージを一新し、全く新たなノンゲーミングのアクティビティを用意することで国内顧客の獲得に成功した事例も紹介した。その一つが、滞在型パッケージとに合わせて特別に企画された「アクアガストロノミー」(シンガポール初の水族館でのレストラン体験)だ。また、2020年12月末のホリデーシーズンに合わせてイベントを展開するなどの取り組みにより、大規模リゾートの運営にかかる固定費を補うための追加収入を得ることができたと述べている。

 ゲンティン・シンガポールは、現在、日本の横浜市のIR事業者として立候補しているが、今回の決算報告でも横浜について、「横浜市が統合型リゾート(IR)開発のための正式な入札プロセスを開始する動きに励まされています」と言及。さらに、「私たちは、独自性があるサステナブル企業であり、強力な地元のパートナーシップに支えられたワールドクラスのIRデスティネーションの創造という私たちのビジョンにコミットし続けています。私たちは、このプロセスにおいて、関連するステークホルダーとの関わりを継続していきます」と付け加えた。


●マリーナベイ・サンズ

 マリーナベイ・サンズ(MBS)は、2020年第4四半期にラスベガス・サンズの所有するカジノのうち、ラスベガス、マカオと比較して最も利益を上げた。MBSは1億4,400万ドル(約152億円)の利益を計上。前年同期比68%減となるものの、同年前四半期の7,000万ドル(約73.8億円)に比較すると2倍以上の回復であった。なお通期の利益は76%減の3億8,300万ドル(約404億円)に急落し、2019年に記録された16億6,000万ドル(約1,752億円)から大幅に減少した。第4四半期の純収益は、3億4,500万ドル(約364億円)となった。前年同期の8億5,300万ドル(約900億円)から減少となる。2020年通期では、MBSは2019年の半分以下となる12.6億ドル(約1,330億円)の純収入を計上した。

 ラスベガス・サンズCEOのゴールドスタイン氏は、「新型コロナウィルスのパンデミックからの回復プロセスは、マカオとシンガポールの両方で進行しています」、「私たちは、市場全体の旅行・観光支出の最終的な回復については楽観的な見方を続けています」と述べ、さらに、「幸いなことに、当社は財務力をもっており、マカオとシンガポールの両方で以前に発表より進められている長期投資を引き続きサポートし、新たな市場での成長機会を追求しています」とコメントした。

 MBSの第2期拡張計画は、15,000席のアリーナ、約1,000室のホテルルームを備える第4のタワー、プールとレストラン、スカイルーフの追加を含む、33 億ドル(約3,483億円)規模で進められる。


マリーナベイ・サンズの2020年第4四半期利益は前期比で回復
 

シンガポール政府は2021年の成長見通しを発表、観光業の回復は遅れる

 2月に入って発表されたシンガポール観光局の最新統計によると、昨年2020年のシンガポールへの訪問者数274万人で、そのうちの約88.4%にあたる、242万人は2020年最初の2ヶ月間(パンデミック前)に記録された数字として発表された。前年比では86%減となった。

 観光事業局は、シンガポールは「前例のない世界的な旅行制限および国境の閉鎖」に直面し、訪問者の集計および観光事業の受信の減少をもたらしたと伝えている。2020年の第1~3四半期の観光収入は、前年同期比78.4%減の44億シンガポールドル(約3,469億円)となった。

 いまだ海外からの渡航には制限があるが、2月時点で、シンガポール航空(SIA)とシルクエアーは、今後数か月以内にサービスの復旧とネットワークの再構築を継続することを発表した。2021年1月から、SIAはドバイ、モスクワ、ミュンヘンへのサービスを再開し、既に運行しているアメリカ、ヨーロッパ、南アフリカを中心に増便する。2021年3月から、SIAは東京・羽田へのサービスも再開する見込みだ。

 今後、シンガポール・チャンギ空港には、現在1日4,000人まで接種できる予防接種センターが設置される予定。保健省は近い将来、接種センター能力を増強することを計画している。また、2月11日、シンガポール航空の最高経営責任者であるゴー・チュン・ポン氏は、自社を世界初の完全ワクチン接種済みの航空会社にすると発表した(現在接種で首位はエティハド航空で、シンガポール航空は2位)。パイロットをはじめ乗務員全員が新型コロナウイルスのワクチンを接種した上で、同日のSIAのインドネシア・ジャカルタ便、および、同グループの航空会社のスクートのタイ・バンコク便と、シルクエアーのカンボジア・プノンペン便を運航した。

 シンガポール政府は2月15日、今年の経済成長回復の見通しを発表した。昨年は、1965年に独立して以来、過去最悪のマイナス成長であったが、政府の追加刺激策などにより、今年は回復軌道となることが示唆された。通商産業省(MTI)は、2021年の成長予測を4〜6%に維持していると報告している。リーシェンロン首相は、シンガポール経済の大部分は今年回復すると予想されているが、運輸、観光、航空などの一部のセクターは回復に時間がかかる可能性があると述べている。


チャンギ空港のターミナルに隣接する、トランジット客とシンガポール市民の双方を対象とする複合施設「ジュエル」。中心には世界最長の屋内人工滝がある


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