【IR映画ガイド】映画史に残る傑作はIR映画だった!?「ゴッドファーザー」 (2/2)

JaIR編集委員・玉置泰紀

ゴッド・ファーザーはフィクションだがアメリカの歴史そのものを描いている

 このあと、PARTⅡでは、ヴィトーの青年時代(ロバート・デ・ニーロ)と、第一作から後のマイケルという二つの物語が時系列的に混交されながら語られる。移民第一世代の話と、マイケルが新しい世代に変えようとしているマフィアの話が複雑にパッチワークされることで、コルレオーネ・ファミリーを通してアメリカの歴史自体を語っている映画の構造に痺れる。

 ここにあらわれる敵役が、キューバに拠点を持つハイマン・ロス(リー・ストラスバーグ)。ストラスバーグはアクターズ・スタジオの芸術監督として数多くの俳優を指導し、アル・パチーノとデ・ニーロも教え子だった。ロスは、ユダヤ系マフィアとして描かれるが、これも明らかにモデルは、伝説的なマフィア、マイヤー・ランスキー。彼こそは、ベンジャミン・”バグジー”・シーゲルに西海岸進出を命じたボスで、ラスベガスのフラミンゴ・ホテルに出資し、バグジーにホテル建設の責任者を命じた男だ。

 第一作で、マイケルとラスベガス進出で対立して殺されたモー・グリーンのモデルがバグジーで、実際の歴史の中でも、ランスキーがバグジーを西海岸に派遣し、フラミンゴ・ホテルをラスベガスに作らせている。ハイマン・ロスが子飼いのモーを殺されたことで、マイケルに対して敵意を持っていた、というのは史実をトレースしている。もっとも、バグジー暗殺の実行犯は謎で、当のランスキーだったと言う説もあるのだが。

 実際のランスキーはカストロに倒されるキューバのバティスタ政権に近く、莫大な資産をキューバに持っていたが、映画同様、1959年に革命が勃発し、ホテル・リヴィエラなど莫大な資産を失った。最後に逃亡先のイスラエルに移住を拒否され、アメリカに強制送還されるエピソードも、映画に取り入れられている。ただし、映画と違ってロスは暗殺されることもなく肺がんで死んでいる。

 また、マイケルが上院の委員会で追及されるが、これも、実際に1963年、上院のマクレラン委員会で、伝説のマフィア、ラッキー・ルチアーノ一家だったジョゼフ・バラキが血の掟(オメルタ)を破って、マフィアの実態を明らかにした画期的な事件を使っている。

世界一高い観覧車ハイ・ローラーから見たラスベガス。周りが砂漠なのがわかる
 

シチリアに始まりシチリアに終わる。過去は清算できるのか

 三部作の最後を飾るPARTⅢは、主要な舞台をイタリアに移し、1970年代末から80年代にかけての話になる。

 戦いの中、ゆるぎない立場になったコルレオーネ・ファミリーと、新興のボスであるジョーイ・ザザとの抗争が前半で描かれるが、その襲撃の舞台は東海岸、ニュージャージー州のアトランティック・シティ。19世紀から人気のリゾート地だったが、第二次世界大戦後は、飛行機や車などの交通インフラの進展とともに、より遠い観光地が人気を集め、集客が下降する中、貧困や犯罪が問題化していったが、1976年にギャンブルを合法化し、一気に上昇気流に乗り、ラスベガスと並ぶカジノ・リゾートになった。

 アトランティック・シティのカジノホテルにあるペントハウスで開かれていたニューヨークの主要ファミリーの幹部会をザザにヘリコプターで襲われる。マイケルはカジノを売却した利益を幹部に分け与え、マフィアの幹部会を解散しようとしていたのだ。

 アトランティック・シティ自体は、80年代から繁栄を謳歌したが、2006年をピークに下降してきている。近隣のペンシルバニア州やメリーランド州など、カジノを合法化する自治体が増え、優位性がなくなってきたためだ。統合型リゾートの失敗例として紹介されることも多い。

 2012年にはハリケーン「サンディ」が上陸して、カジノが集中するアメリカ最古のボードウォークが破壊されるなどの被害もあり2014年には閉鎖するカジノも続出する事態だったが、その後、ウォーターフロントの再生など街づくりが始まり、海から隔離されていたカジノをウォーターフロントに直接アクセスできるようにしたり、ビーチバレーやコンサートを開催するなど、家族で楽しめるリゾートに生まれ変わりつつある。日本型IRとしては、学ぶべき点も多そうだ。

 最初に触れたように、1969年にカジノ・ライセンス法が施行され、70~80年代にかけてマフィアがカジノの表舞台から消えていくわけで、PARTⅢの頃には、カジノの次の段階に入っていくありさまが良くわかる。ヴィトー・コルレオーネ財団の寄付などで、マイケルはバチカンから叙勲され、いよいよ組織を本格的に合法化していく中で、バチカンや政治家と癒着して過去の清浄化、清算を図ったわけだが、シチリアのオペラハウスで、マイケルの息子、アンソニーが歌手としてデビューを飾るヴェルディの「カヴァレリア・ルスティカーナ」の上演中に壮絶な殺し合いが演じられ、最愛の娘を失うことになる。

 PARTⅢの歴史的な背景は、バチカンの金融スキャンダル、1978年の教皇ヨハネ・パウロ一世の急死、1982年に起きた、教皇の銀行家と呼ばれたアンブロシアーノ銀行頭取、ロベルト・カルヴィがロンドンのテムズ川、ブラックフライアーズ橋で首吊り死体で発見された事件。バチカン、イタリア政府、マフィアの癒着を描いたわけだが、カトリック、キリスト教にとっては大きなタブーであり、このためにアカデミー賞を取れなかった、とも言われた(前二作はアカデミー史上唯一のシリーズ二作続けての作品賞を取っている)。

 イタリアから新天地、アメリカに移民し、ニューヨーク、ラスベガスを舞台に生き抜いてきたコルレオーネ・ファミリーは最後、故郷のシチリアで物語を閉じる。マイケルと三代目のドンになるヴィンセントを演じるアンディ・ガルシアの二人が、「オーシャンズ11」シリーズの敵役を演じるのも面白い。

 ちなみに、冒頭のマイケルの叙勲を祝ったパーティーに、第一作の冒頭にも出ていたジョニー・フォンテーンが出てきて、マイケルの為に歌を披露するが、出ていこうとするマイケルを止めると「台所でトニー・ベネットを聴きに」と言って立ち去るのがおかしい。ジョニーのモデルのフランク・シナトラの現実のライバルがトニー・ベネットだから。


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【JaIR特選!IRを実感できる映画ガイド】は毎週金曜日にアップします。次回、7月10日は「カジノ」です。

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