ラスベガス視察で見た“先進の”統合型リゾートとその歴史

JaIR編集委員・玉置泰紀

 横浜の誘致表明や観光庁の基本方針案発表で、いよいよ話題沸騰となっている統合型リゾート(IR)だが、一般社団法人日本観光・IR事業研究機構の視察セミナーで、IR誕生の地であり、未来の姿でもあるラスベガスに行ってきた。わずか5日間のスケジュールだったが、その様子を報告したい。

ラスベガスのシーザーズ・パレス


27年ぶりに訪れるIR生誕の地ラスベガス

 27年前、ラスベガスを訪れたときは、まだ統合型リゾートという概念も生まれておらず、まさにカジノ真っ盛りの頃で、宿泊もホテル・フラミンゴを予約していた。「訪れた」と行っても、実際はロサンゼルスからレンタカーでラスベガスに行く途中、デス・バレーで事故を起こしてしまい、着いたのは夜中の2時頃だ。だから、ホテルの部屋に入った後にシャワーを浴び、朝7時の飛行機でサンフランシスコに飛ぶと言うあわただしい旅行だった。ちなみに、この年はちょうど「バグジー」という映画の公開年。バグジーは、まさにこのホテルを作ったベンジャミン・シーゲルが主人公のウォーレン・ベイティが主演だった。

 そもそも、ネバダ砂漠の中のオアシスとしてスタートしたラスベガスは、1840年代末からのゴールドラッシュとともに発展、金鉱ブームが一段落した後、1929年の大恐慌への景気対策で1931年、ネバダ州の賭博が合法化されたことからカジノが始まる。

 当初はマフィアが続々と賭場を開いていたが、この歴史を大きく変えたのが最初に触れたバグジーこと、ベンジャミン・シーゲルだった。マフィアから資金を調達し、カジノに加えて、巨大ホテルであるフラミンゴ・ホテルを中心にプールやゴルフ場、射撃場、乗馬クラブなどリゾートを組み合わせた現在のIR のひな形を“発明”したわけだ。

 この後、続々とストリップ通り沿いに同様のホテルが開業していくわけだが、映画「アビエイター」(2005年日本公開)でレオナルド・ディカプリオが演じた伝説の大富豪、ハワード・ヒューズなどの働きかけがあって1969年、カジノライセンス法が改正。マフィア撲滅運動の盛り上がりなどもあって、1980年代にはマフィアは表舞台から姿を消した。

 この結果、大手企業がラスベガスに進出するようになった。なかでも1966年創業の名門ホテルであるシーザーズ・パレスは、ショッピングセンターやレストランも加えた複合型のエンターテイメント施設を打ち出した。1992年にオープンした高級ブランド施設、フォーラムショップや、ボクシングのヘビー級タイトルマッチ開催、ホテルの駐車場でのF1レース開催(1981年、1982年)、そして2003年にセリーヌ・ディオンの長期公演のために作られた「コロセウム」という劇場などで、新しいIRの形を示した。

 また、1988年に、スティーブ・ウィン氏が開業したミラージュ・ホテルも大きな話題を呼んだ。敷地内に火山のアトラクションを作って人気となり、ファミリー層を呼ぶことに成功した。


IRの重要な構成要素MICEが組み込まれた21世紀

 しかし、現代のIRの重要なキーワードであるMICE(Meeting、Insentive、Convention、Exhibition)が入ってくるのは、ラスベガス・サンズを待たねばならない。同社を率いるシェルドン・アデルソン会長が、コンピュータの展示会であるCOMDEX(コムデックス)を立ち上げ、これをソフトバンクに売却して得た資金でラスベガスに参入したのが1988年。翌1989年にはコンベンション・センターを立ち上げ、1999年にはザ・ベネチアンを開業した。まさに、MICEを中核とする統合型リゾートが生まれたわけだ。

 その後、ラスベガス・サンズは2007年にマカオに進出し、2010年にはシンガポールのマリーナベイ・サンズを開業した。今のMICEを中心にした統合型リゾートの概念は、シンガポールの取り組みの中で概念化されていったわけで、アデルソン氏の取り組みがそこには大きく関っていると言えよう。

 ラスベガスは今や、多くのMICEをそろえ、この街に来る人の目的の中でも大きな地位を占めている。今回の視察では先に触れたシーザーズ・パレスで、JaIRでも紹介したように、今回の日本での誘致に関しては、参加しないことを表明している。その点では残念だったが、やはりラスベガスの大きな原点として学ぶ点は多かった。

 ここでは、コロセウムや人気クラブのOMINIA、MICE施設、フォートナムショップスなど見学した。このほか、ラスベガス観光局でセミナーを受け、さらにはネバダ大学ラスベガス校、MGMのT-モバイル・アリーナ、同じくパーク・シアター、アリア、また世界一の観覧車であるハイローラー、リンク・プロムナードなどを視察。夜はリニューアルのこけら落としであるコロセウムのキース・アーバンのライブ、シルク・ドゥ・ソレイユの「KA(カー)」を体験した。

 現地で体感したことは、改めて報告したい。