MICEの専門家から見たIR カジノや観光施策との相性は? (3/3)

大谷イビサ(JaIR編集部)

オンライン or オフラインではない MICEは多チャネルの1つになる


玉置:コロナ禍以降のMICEについてご意見を聞かせてください。オンラインイベントの一般化やリアルイベント不要論など出ていて、業界は激変していると思うのですが。

伊藤:私は長らく広告業界にいたのですが、今MICEで語られていることは、十数年前に広告業界で語られていた「インテグレーテッドコミュニケーション(Integrated Communicatiuon)」と同じだと思っています。Integratedという言葉の通り、テレビやネット、オフラインイベント、交通広告などさまざまな情報の接点を統合的に考えましょうというものです。

MICEに関しても、いろいろな業界関係者の発言を見てみると、オムニチャネルとか、マルチチャネルなどのキーワードが登場していますが、これはインテグレーテッドコミュニケーションと同じなんです。コロナ禍以降、リアルとオンラインの二極化で捉えたハイブリッドではなく、もっと多チャネルでつながっていくという方向性に、大きく変わる途上にあるのではないかと思っています。

玉置:リアルオンリーだったイベントが、チャネルの一つになるということですね。

伊藤:はい。多チャネルの1つの接点がMICEという捉え方です。今まで、MICEの事業者や主催者は会場に来てもらうことばかり考えて、ある意味で参加者のことを置き去りにした部分があります。でも、コロナ禍でずいぶん参加者や協賛企業などに意識が向くようになり、「そもそもなぜこのイベントをやるのか?」「参加者のメリットはなにか?」「協賛企業が本当に求めるものは何か」という原点に立ち戻ることができた。これがコロナ禍に得られた果実だと思います。

これからはリアルか、オンラインかではなく、リアルの価値を高めるために、多チャネルの接触を統合的に考えようという方向に変わっていくのではないかと思います。たとえば、今週にリアルイベントが開催されるのであれば、参加者とのコミュニケーションはもう数ヶ月前から始まっているはずなんです。事前の情報提供やコミュニケーションを考えた多チャネル視点での設計がきちんとできていれば、現地でより深いやりとりができるし、終わった後もアーカイブで理解を深めることができる。リアルの価値をなるべく高めるという方向になっていく。

玉置:リアルがなくなるのでは?という声もありますが。

伊藤:使い分けになると思います。やはりリアルで得られる情報の量は、平面のオンラインで得られる情報量と圧倒的に違う。ネットで伝送される情報量は相当に間引かれているので光や音域は減っているし、においとか、表情とか、オーラとかは感じられない。これってセンチメンタルに言っているのではなく、実際にリアルとオンラインを比べると得られる情報量は何万倍も違う。

玉置:逆にオンラインの可能性も拡がりますよね。

伊藤:コロナ禍以前からデジタル技術の活用を前提としていた大阪・関西万博もオンラインの活用という方向に進むと思います。主催者やプロデューサーなど企画・運営に関わる方々もオンラインでもリアルと同じようなものを作り、これまでにない体験を提供できる初めての万博にしようとおっしゃってますね。愛知万博も「環境」という新しいテーマを世界に提示できましたが、今回の大阪・関西万博も世界に新しいコンテンツを見せられると思っています。

今までチケットを買って、現地に行ける人だけが体験できた万博が、世界中で楽しめるかも知れない。決して裕福ではないアフリカの子供がリモートから万博に参加し、大阪に関心を持って、そのうち来てくれるかもしれない。今までこういった層にはまったくリーチできていなかったんです。リアルか、オンラインか、ではなく、マルチチャネル化がどんどん進んでいき、いろいろな人が楽しめるようになると思います。
 

区域認定する側もMICEの基盤をきちんと判断してほしい


玉置:日本でもいよいよ来年区域整備計画が認定されますが、MICE業界からの注文や期待を教えてください。

伊藤:IRにおいて、MICEは重要だと思っていますし、MICEを成功させる仕組みをIRの計画にきちんと入れているかはポイントです。

MICEは、単に大きなハコを作ればよいのではない。現状公開されている各地域のプランは、今は施設の外観がメインですが、MICEを継続的に成長させられるようにする基盤を作って欲しいというのが、われわれからのリクエストです。たとえば、人材の育成や地域とのつながり、最新のテクノロジーを維持する仕組み、長期に渡る誘致活動への資金的な支援策などが組み込まれているか、外観などハード面にとどまらず、MICEを作って成功させるためのソフトの仕組みが組み込まれているか、区域認定をする側もきちんと判断していただきたいと思っています。

玉置:具体的にはどのようなポイントを見ればよいのでしょうか?

伊藤:MICEというのは施設運営だけの収益は非常に少ない。イベントに来た人たちが近くで宿泊して、なにかを食べて、観光して、はたまたカジノを楽しんでという収入は、IR区域の中に落ちてもMICE施設の運営者には入ってきません。またMICEの効果のひとつである地域のブランド向上などもMICE施設の運営者にリターンはありません。そのような点から、IRは区域全体を運営するIR事業者からMICEの誘致や運営に対して支援する仕組みが必要だと思います。これは自治体が補助金を出す理屈と同じです。集客や誘致、ブランド向上に貢献しているのだから、なんらかの資金やリソースの支援は得られてよいと思います。

玉置:最後にIRへの期待をいただけますか?

伊藤:GDPにおける観光業の比率が、半導体や自動車を超えつつある現状、観光の集客・集金装置としてしっかり機能させることが出来るのがIRです。一般観光への影響も大きいですが、MICEのようなビジネスイベントに関してはIRが1つの起爆剤になるはず。マネーロンダリングやギャンブル依存症対策などをきちんと組み込み、高度に管理されたカジノをIRで展開し、他の産業分野に投資をしていく仕組みを作っていく。日本が名実ともにアジアのリーダーであり続けるためにも、ぜひ成功させて、3カ所にとどまらず、次につなげてほしいと思います。

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