変わらないMICEの要件、基本方針案の修正はこれでよいのか? (1/2)

二上葉子

 統合型リゾート(IR)の担当官庁である国土交通省観光庁は、10月9日に「特定複合観光施設区域の整備のための基本的な方針(案)の修正版などを公示、意見募集(パブリックコメント、パブコメ)が開始した。今回の修正には、新型コロナ禍でIRを取り巻く状況が変化したことを受けて、感染症対策に関する修正が含まれるが、感染症により最も影響を受けているイベント分野、MICEの方針については大きな変更がなかった。以下、基本方針案にある「MICE」の方針を改めて確認し、諸外国のIRでのMICE最新状況をお伝えする。


シンガポールのマリーナベイ・サンズのMICE
 

基本方針案の修正版では、MICEの項目は大きな変更無し

 観光庁からの3つの再意見募集で「特定複合観光施設区域の整備のための基本的な方針(案)」の修正版が出されているので、MICEに関連する部分を確認すると、まず基本方針(案)には、IR整備の目的の筆頭に「我が国におけるMICE開催件数の増加」が挙げられており、この点は修正前と変わっていない。コロナ禍で大規模イベントの中止や縮小が発表され、一部はリアルイベントからオンラインでの開催に変化してきているが、IRの目標に掲げる「国際的なMICEビジネスの展開」はそのままである。

 
2 目標
観光先進国の実現に向けて日本型IRを整備し、その意義を十分に発揮することにより、次に掲げる目標を達成することを目指すこととする。
 
(1)国際的なMICEビジネスを展開すること
我が国のMICE競争力は、アジア等の競合国が誘致に向け積極的に取組を進め、MICE誘致の国際競争が激化していることから、相対的に低下しつつあるところであるが、「観光立国推進基本計画」(平成29年3月28日閣議決定)において、アジア主要国における国際会議の開催件数に占める割合を2020年までに3割以上とし、かつ、アジア最大の開催国の地位を維持する、としているところである。これらのことを踏まえ、日本型IRにおいて、これまでにないスケールとクオリティを有するMICE施設を整備することにより、これまでにないような大型の国際的な会議やイベント等を展開し、新たなビジネスの起爆剤となり、我が国におけるMICE開催件数の増加に貢献することを目標とする。

※以下省略。


 区域整備計画の評価基準にあるMICEの項目は、今回の基本方針案の修正版で若干のアップデートがあった。変更前はMICEで開催するイベントの具体例は、「各国との首脳級会合、閣僚級会合などの重要な国際会議等」と書かれていたのに対し、修正版では「国際連合の会議、各国との首脳級会合、閣僚級会合などの重要な国際会議や、グローバル企業をはじめとする様々な企業の会議、企業が行う報奨及び研修旅行に付随する催事など」とより具体的なイベントが明記された。

 新型コロナ禍で、全世界的に多くのイベントが中止、延期、縮小となっている現状があり、オンラインでの開催が増えている状況だが、アフターコロナでも日本型IRにおいては、MICEはコロナ以前と同じ方針で設置しようとしていることが見て取れる。MICEはIRの目的の根幹をなす重要な要素であり、新型コロナ感染症がどの程度国際的なイベントに影響を与え続けるのかわからない現時点では、MICEの計画変更の判断が難しいということだろうか。

 
区域整備計画の評価基準(MICE施設)

(イ)MICE施設
・開催が想定される最大規模のMICEに対応できるなど、日本のMICEビジネスの国際競争力を飛躍的に向上させ、アジア・太平洋地域におけるMICEビジネスのリーダーとしての地位をより盤石にするために十分なスケールを有することが求められる。

国際連合の会議、各国との首脳級会合、閣僚級会合などの重要な国際会議や、グローバル企業をはじめとする様々な企業の会議、企業が行う報奨及び研修旅行に付随する催事などの高度な需要に十分に対応できるよう、必要な機能を有し、施設の使い勝手が良く、上質で洗練された内装であり、水準の高い飲食サービスが提供できるなど、国際競争力の高い、優れたクオリティを持つことが求められる。

・誘致しようとするMICEのターゲットが明確であり、近隣に既存のMICE施設がある場合には適切な役割分担や連携を通じて国際競争力の強化が図られるとともに、誘致、企画及び運営に必要な体制及びノウハウを備えていることが求められる。

(修正部分太字)


 また、今回の再パブコメで発表された国土交通省の「特定複合観光施設区域整備法に基づく区域整備計画の認定に必要な事項等を定める告示(仮称)の案」も出ているが、区域整備計画の法9条2項4号に掲げる事項として定める事項のうち、MICEに関する項目として「国際会議施設」「展示等施設」がそれぞれ記載されている。新たな告示案でのMICEの項目は、旧国土交通省令案と比較して、内容がより整理されて、実施体制だけでなく実施方法にも触れ、詳しくなっているが、基本的な方針にブレはない。日本型IRにおけるMICEの規模、収容人数に関する変更もない(規模と収容人数は「特定複合観光施設区域整備法施行令」を参照)。