MICEの専門家から見たIR カジノや観光施策との相性は? (2/3)

大谷イビサ(JaIR編集部)

MICEの誘致や運営に間接的に寄与しているIR

玉置:そんなMICEの課題をIRという装置で解消できるのか? ご意見をいただけますか?

伊藤:会社の見解ではなく、あくまで個人の見解として意見を言いますね。

MICEの中のCがコンベンションになるのですが、たとえば、コンベンションを開催すると、収益が地元に落ちるだけではなく、何十年に渡って開催都市の認知が高まります。実際に京都は環境都市として知られていますし、仙台は防災都市として認知度を高めています。そういう理由で、外国人が多く参加する国際会議の開催は都市ブランドの貢献に非常に大きく寄与します。

一方で、こうした国際会議を開催する財源やリソースを用意するのはとても大変です。これを補うための仕組み、日本のMICEを推し進めるための装置としてのIRというのは、ありだと思います。

玉置:やはり国際会議を運営するのは、財源が必要なんですよね。

伊藤:財源ももちろんですが、ノウハウをもった人材や自治体と地域のネットワークが必要になります。その点、シンガポールはIRを活用して、強いMICEの基盤を構築しています。規制の問題もあるので、IRの売上が直接MICEに回っているわけではないのですが、MICEの誘致や運営に寄与しているのはあきらかです。

シンガポールは小さい国ですが、日本の各都市を凌駕する競争力を持っていますし、国としてMICEを推進するパワーはすごいです。そして、その戦略の中心にはIRが強く影響を与えています。

玉置:ラスベガスもMICE産業によって、大きく変化しましたね。

伊藤:アメリカでダーティなイメージのあったカジノをクリーンにし、そこにMICEを産業として取り込んだことで、ラスベガスはビジネス層の取り込みに成功しました。繁忙期と閑散期の差があるため、収益が安定しないという観光産業のボトルネックを解消し、平日の集客を伸ばして、平準化を実現したのがIRです。
 

カジノと観光だけだと遊び場 MICEでビジネスのサイクルに入る

玉置:MICEの会場としてのIRの存在意義はいかがでしょうか?

伊藤:イベントが先か、ハコが先かという議論になりますが、ある意味IRのような装置や仕掛けを活かして大きなイベントを開催して、人や情報が集まる仕組みをつくり、産業や学術研究を活性化し、さらに新しいMICEを生んでいくという好循環が必要です。

シンガポールはすでにこれを戦略的にやっていて、MICE開催だけではなく、産業誘致も含めて両輪で取り組んでいるので、いいサイクルに入っています。IR全体の収益があがることや投資によって間接的にイベントや会議にお金や様々なリソースが回るようにもなりますので、MICEを盛り上げる仕掛けとして有効だと思います。

日本ではカジノのみを解禁するのではなく、複数のビジネスが組み合わさったIRの歯車の1つとしてカジノを導入するという枠組みとして制度化されています。これまでも公営ギャンブルはありましたが、ここまでさまざまな観点からきっちり仕組み化しているのは、日本では初めてですね。

玉置:カジノのあるなしは別として、宿泊施設やエンターテインメント施設がエリアできちんと開発されている方が、行く側としては行きたくなると思うんですよね。幕張メッセや東京ビッグサイトはそういった点で見劣りします。

伊藤:MICEが観光文脈に置かれることでメリットもあります。たとえば地方の都市でMICEを開催することがありますが、地方には魅力的な観光資源が多いため観光とMICEの組み合わせが作りやすい。現地で観光してもらえれば、参加者の満足度も高くなるし、日常と違う場所では刺激が多く闊達な意見が出やすくなるというメリットが出てきます。

こうした観光文脈のMICEを強力に推し進めていくキードライバーとして、玉置さんがいまおっしゃった統合型という手法が有効です。いろいろな施設があって、コンテンツをぐるぐると回る仕組みですね。

もちろん、カジノの是非はありますが、ここまで短時間で高収益を挙げられる仕組みはなかなかない。MICEの参加者であるビジネスパーソンの娯楽として、カジノは相性がよいというのも正直なところです。しっかりルールを守って運用する限りは、ストレス発散や人々との交流という点で、カジノは優れています。カジノと観光だけだと遊び場にしかならないのですが、そこにMICEが入ることで、ビジネスのサイクルの1つに入ってくるわけです。