【新型コロナのIR影響レポート 横浜市長選後・総裁選前】日本 9月8日版 (1/3)

JaIR編集委員 玉置泰紀

 新型コロナウイルスがいまだ猛威を振るう中、IRの選定プロセスは最終段階に差し掛かっている。先日の横浜市長選挙では、IR反対派である山中竹春氏が当選したことで、横浜市はIR誘致の旗を降ろすことになりそう。IRは大阪府市、和歌山県、長崎県はパートナーとなる事業者をほぼ決めつつあり、区域整備計画の認定申請に移ることになる。秋口には総裁選が予定されているが、IRに対してどのような影響を与えるのか不透明だ。
 

選定プロセスは最大3カ所の認定に向けて最終段階に


 和歌山県のクレアベスト(クレアベストニームベンチャーズ株式会社及びClairvest Group Inc.のコンソーシアム)が優先権者に選ばれ、全国の候補者の中で初めて和歌山県と協定を締結。長崎県のカジノ・オーストリア(CASINOS AUSTRIA INTERNATIONAL JAPAN)も優先交渉権者に確定し同じく協定を締結。大阪府市では、MGMリゾーツ・インターナショナル(以下MGM)とオリックスのコンソーシアムが長く延期されていたRFPの提出を2021年7月20日に提出した。

 手を挙げていた自治体としては、あとは横浜市があった。こちらは、ゲンティン・シンガポールとセガサミー・ホールディングスなどからなるグループと、メルコリゾーツ&エンターテインメントと大成建設などが作るグループ(未公表)の2者が応募しており、夏には確定する予定だった。しかし、ご存じの通り、2021年8月22日投開票の横浜市長選で、IR反対派の山中竹春氏が当選。当選後の会見ではIR推進室の機能を停止する事を明言し、事業者の選定作業を中止する考えを示した。

 日本の統合型リゾート(IR)の道のりも、いよいよIR区域整備計画の認定申請期間(都道府県・政令市から国への申請)、2021年10月1日~2022年4月28日に向けて、最大3か所の認定に向けて最終段階に入りつつある。また、衆院議員の任期は2021年10月21日までで、過去に任期満了での選挙は1976年の一例のみで、いずれにせよ秋に総選挙の実施は確定事項。自民党の総裁選挙管理委員会で、総裁選の日程は、2021年9月17日告示、29日投開票と決定されており、29日に新総裁が選出され、その後に首相指名されるが、菅義偉首相が9月3日、自民党総裁選への不出馬を表明したことにより、これまで、IRを進めてきた安倍晋三・前首相、官房長官時代から支えてきた菅首相が変わることになり、今後への影響は間違いない。

 現状、世論調査などでは、コロナ禍の影響もあり、IRを進めてきた政府・与党の支持率はきわめて低くなってきており、選挙の結果いかんでは、これも大きく影響を与えそう。時期的には厳しいが、今手を挙げている3つの自治体以外が手を挙げる可能性もまだ残っている。
 

IR整備法施行、カジノ規制法案公開も、菅首相、総裁選不出馬の影響は!?


 赤羽一嘉国土交通相は2021年8月27日の記者会見で、横浜市長選について、「特定の地域についてのコメントは差し控える」とし、予定しているスケジュールに沿って必要な準備を進めたいと国のIRのスケジュールに変更がないことを強調し、IRの誘致は自治体の発意に委ねられており、国は、出てきた計画を「淡々と審査」する立場であると説明した。

 IRに関しては、政府は2020年12月18日、IR(統合型リゾート)整備に関する基本方針を決定し、自治体の誘致申請期間を9か月延期する政令も閣議決定した。自治体からIRの区域整備計画の認定申請を受け付けた後、有識者により構成される審査委員会において審査を行い、国土交通大臣が認定することになっており、基本方針案は認定に当たっての考え方やルールを定めたものになる。

 2021年7月13日の定例閣議において、特定複合観光施設区域整備法(IR整備法)の施行期日を定める政令、特定複合観光施設区域整備法関係手数料令が決定され、IR整備法のうち、国内でのカジノ解禁とギャンブル依存症対策などを定めた条項が7月19日に施行され、全面施行された。

 施行されたのはIR整備法の第39条になる。「認定設置運営事業者は、カジノ管理委員会の免許を受けたときは、当該免許に係るカジノ施設おいて、当該免許に係る種類及び方法のカジノ行為に係るカジノ事業を行うことができる」とされており、事業者はカジノ管理委員会の免許を受ければ、刑法の賭博罪が適用されない。免許申請の手続きや審査基準も規定され、依存症対策も施行される。日本国内の客は、7日間で3回、28日間で10回に入場制限される。

 また、2021年4月、JaIRのインタビューに対して、特定複合観光施設区域整備推進会議委員の美原融氏は、IR整備法に基づき、カジノ管理委員会が公開したカジノ規制案について「これは単にカジノを作るという法律ではありません。けっこうややこしい法律で、条文も251条もあります。こんなにボリュームのある法律は数十年ぶりです。なぜややこしいのかというと、IR事業全体の規制・監督を国土交通省と都道府県が、IRの中にできるカジノ業の規制・管理をカジノ管理委員会が分担し、所管しているから」と説明。

 評価としては、「内容的には包括的で、精緻にできているのは間違いありません。ただ、どこまでやるかという適用範囲や深さ、そしてどのように執行していくのかはまだ不透明なところもある」とし、実際に運用してから決まる部分も多いので、「現場や利害関係者の声を得て固まっていくモノ」と指摘している。区域認定を経て、免許が交付されて初めてできていくので、事業者が選定されてから、具体的な議論が進むと言う。

 IRを推進してきた自民党、公明党の政権与党は、コロナ禍の影響もあり、横浜市長選の敗北以降、衆議院総選挙に向けて、流動性が増してきている。菅首相が自民党総裁選不出馬で、次期総裁、次期首相はが新たに決まることになり、衆院選の投開票自体が任期が満了の2021年10月21日より後にずれ込む見通しが強くなり、投開票は31日以降が有力と見られる。新首相が就任後、どのタイミングで衆院を解散するのか。投開票は解散から40日以内と言う憲法の規定があり、衆議院議員の任期満了日である10月21日に解散した場合、11月28日投開票も可能となる。

 総裁選には、岸田文雄・前政調会長が既に、出馬を表明しているが、河野太郎・規制改革担当相、高市早苗・前総務相も出馬の意欲を示しており、石破茂・元幹事長の動きも取りざたされている。各候補の、観光、インバウンド、IRへの意向は、総裁選の中で明らかにされていくだろう。

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