日本型IR規則を読み解くポイント、ゲーミング法制協議会の美原融氏に聞く (1/4)

大谷イビサ(JaIR編集部)

 IR整備法に基づきカジノ管理委員会によって4月に公開されたカジノ規制案。膨大なボリュームとなるカジノ規制案を読み解くポイントをNPO法人ゲーミング法制協議会の理事長でもあり、特定複合観光施設区域整備推進会議委員もである美原融氏に聞いた。(敬称略 インタビュアー JaIR編集委員 玉置泰紀)

NPO法人ゲーミング法制協議会理事長 特定複合観光施設区域整備推進会議委員 美原融氏

基本方針・区域認定とカジノ規制で所管が違う

玉置:まずは法律と規制の立て付けを教えてください。

美原:まずIR整備法(特定複合観光施設区域整備法)ですが、これは単にカジノを作るという法律ではありません。けっこうややこしい法律で、条文も251条もあります。こんなにボリュームのある法律は数十年ぶりです。なぜややこしいのかというと、IR事業全体の規制・監督を国土交通省と都道府県が、IRの中にできるカジノ業の規制・管理をカジノ管理委員会が分担し、所管しているからです。

玉置:同じ事業者が経営するの同じ施設なのに規制と管理を別々にやっているのですね。

IR事業全体とカジノ業の2つの制度(美原氏の資料より抜粋)

美原:はい。「IRをどこに、誰が作るか?」という区域認定は、都道府県に対して、民間が提案し、両者の提案を国土交通大臣が認定する形で進められます。そして、この認定された区域の中でのみ、初めてカジノが許されます。

カジノの制度については、IR整備法では3分の2を費やしてカジノをどう施行すべきかが書いてあります。とはいえ、法律でなにからなにまで決めるというわけにはいかないので、詳細な規則は国の機関にその策定を委任するのが普通です。

玉置:それがカジノ管理委員会ですね。

美原:国にとり一番簡単な仕組みは監督省庁の国土交通省にすべてを任せることですが、カジノの監督は通常の省庁の認可行政ではなく、かつ利権も絡むため癒着や腐敗、天下りなどがありえます。そこで、カジノの規制・監督は特定の省庁に任せず、他国と同じく独立した行政委員会に任せようという発想です。これはIR整備法の理念でもあります。だから、どの省庁も影響力を行使することができません。

規則を作る法令上の権限がカジノ管理委員会に委ねられている

美原:規制を行なうカジノ管理委員会は、公正取引委員会や国家公安委員会と同じいわゆる三条委員会(行政委員会)として、府省の大臣の指揮や監督を受けない独立した権限を行使できます。とはいえ、ここまで大きな権限を持ち、ここまで多くの規則を持つ委員会も、カジノ管理委員会くらいだと思います。

玉置:権限が大きいのですね。これは規則の弾力的な運用のためでしょうか?

美原:法律は国会でなければ修正ができません。でも、規則は国の機関の判断で変えることが可能です。おかしいところがあれば変えればいいし、規則のありかたも時代とともに変遷していくもの。その規則を作る法律上の権限が、カジノ管理委員会に委ねられていると考えていただければよいと思います。

IR整備法の大きなポイントは特定の官庁に依存すると癒着や腐敗、天下りなどの悪事が起こると考え、カジノ管理委員会という行政委員会を作り、そこに規則を作る権限を委ねていること。そして、そのカジノ管理委員会では、国とは独立した機関として規制と監督を行なうということです。この仕組み自体はマカオ以外は、おおむね世界先進国で共通しています。

玉置:マカオは違うんですね。

美原:正直言ってマカオは不透明です。やはり過去の仕組みを踏襲しながら、後追いで規制を作っていったので、トランスペラレンシー(透明性)や厳格な規制という点では欧米に比べて甘いわけです。そもそも制度を厳しくしすぎたら、中国本土からの顧客が減少し、マカオのカジノ自体が成り立たないという側面もあります。

いずれにせよ規制という観点では、日本は北米、シンガポール、オーストラリアなどと類似的ですね。内容、深さ、範囲まで含めて、過去に類例のない規則を施行しようとしているのです。こういった規制が果たして日本の風土にあっているかという議論はありますが、組織悪の介入を防ぐために欧米から学び、独立した機関が厳格な規制で不正に立ち向かおうという方向性ではあります。