日本型IR規則を読み解くポイント、ゲーミング法制協議会の美原融氏に聞く (3/4)

大谷イビサ(JaIR編集部)

カジノチップの持ち出し規制はナンセンス? 背面調査はまだ未整備

玉置:次に具体的な項目についてお聞きします。先日美原さんが登壇したセミナーではカジノチップの持ち出し規制が話題になっていました。

美原:持ち出ししているか否かをカメラで監視するなんてまったくナンセンスです。換金のためのバウチャー(引換券)もチップの一部として解釈するようですが……こうなると持ち出しの監視なんて無理です。

実際、少額チップの持ち出しは起こりえますが、100円のチップを一枚換金するために並ぶなんてしませんよ。こんな少額でマネーロンダリングなんでやりようがない。だから諸外国では、一定の少額の持ち出しは例外として無視するのが常識です。でもこれは法令には書いていません。

玉置:ある程度の額になったら申請するのは一般的ですか?

美原:それは常識ですね。高額チップの持ち出しは勿論禁止です。諸外国では100万円以上の現金取引があれば、IDを確認し、マネロン報告の対象となる。日本は現金大国ですが、海外では多額の現金を持っていること自体が怪しいというのが常識です。

玉置:事業者に対する背面調査に関してはいかがですか?

美原:背面調査もグローバルでは常識ですね。対象となるのはカジノ事業者の役員、実効支配力を持つ株主など。所定の書式による個人情報開示を受けて、詳細なチェックを受け、廉潔性を確認するための調査を実施するわけです。

上場会社の役員は、奥さんやお子さんの財務状況まで調査の対象。株式、資産、銀行口座まで含めて、全部提出する必要があります。でも、財産の詳細なんて詮索されたくない人もいるし、役員同士だって知られたくない。取りまとめる弁護士も大変です。

玉置:かなり厳しいですね。

美原:現状はどこまで調査をやるかは規制当局の裁量権に入り、まだあいまいなところがあります。事業会社の役員や認定された株主は家族まで含めて、全員分必要なのか。社外取締役をはじめとして意思決定から離れた人まで含めるのか。重要契約の相手方、製造機器メーカーやシステム供給会社等の役員はどこまでか。範囲や詳細さは明確とはいえないのが実態です。

質問票・同意書・背面調査(美原氏の資料より抜粋)

玉置:当然、決めていくことになるんですよね。

美原:決めざるを得ないでしょう。ただ、明確な判断基準を公開しないかもしれませんよ。あいまいにしておいた方が変な人はこの業に入りにくくなる抑止効果が高くなるという考え方もあります。

玉置:なるほど!

美原:怪しい人にとってみたら、どこで引っかかるかわからない方が怖いので、近づかないかもしれない。日本型IRとして、どういった基準にするのかが問われる部分ですし、ビジネスを考える人にとっては気をつけなければいけませんね。

入退室管理や依存症対策、特定金融業務の規制の見方

玉置:入退室管理に関してはいかがですか?

美原:マイナンバーカードを使うのは以前から言われていた通りですが、昨年個人情報関連の法律が改正されていて、マイナンバーカードの利用がより使いやすくなりつつあります。

たとえば、初回はマイナンバーカードで本人確認を行ない、カジノの会員証にあたるロイヤリティカードと顔認証をひも付けしておくとします。そうすると、2回目以降は顔認証で通過できる可能性があります。こうすると、毎度マイナンバーカードを持ち歩かなくていいし、入退室の手続きも簡略化されます。利便性はかなり高まるのですが、IR整備法にはこうした点については書かれていません。

玉置:事業者としては歓迎ですね。

美原:ただ、認証がクリアされているのか、つねに確認しなければならないという点は課題です。犯罪者かどうか、未成年者じゃないか、回数制限なども瞬時に、同時的にやらなければならない。カジノ管理委員会と民間企業が連携しないとシステム作りは難しい。どんなシステムになるかは興味深いですね。

依存症に関しては、マイナンバーカードと顔認証の組み合わせで、ほぼ100%対象者は排除できます。問題は家族申請による入場禁止で、本人が同意しなかった場合、強制排除の対象にできるのか、どうするのかは気になります。

玉置:先ほどのエンフォースメント(法の執行)の話ですね。

美原:たとえば、カジノに入りたい人から入場禁止は人権侵害だと騒がれた場合、アメリカでは規制当局が出てきて、あなたはダメだと言える法律的な根拠があります。でも、日本ではカジノ事業者に丸投げです。強制的に排除できる法律的な根拠はないかもしれないということです。これが法の執行ができるかどうかがあいまいという現時点での課題です。

玉置:特定金融業務※についてはいかがでしょうか?

※カジノ事業者が行なう金融業務(特定金融業務)は、顧客の金銭の移動に係る為替取引業務、顧客の金銭受入れ業務、顧客への金銭貸付け業務、顧客の金銭の両替業務からなる(IR整備法2条8項2号)

美原:正直いって庶民とは関係ないですよね。1000万円の預託金を払って、お金を借りて遊ぶなんて、普通の人では100%ありえませんから(笑)。そもそも無利息・無金利の資金融通なので、事業者側も支払い能力が相当高い人しか貸してくれません。

玉置:でも、これがないといわゆるVIP対応はできないですよね。

美原:はい。ただ、特定金融業務における預託金や規制当局に対する報告といった厳格な規制は日本独自のモノです。これは金融行為をカジノ事業者に許可するのは、特例中の特例だから。銀行法や金融関連諸法の特例措置から来ているのです。貸付制度だけでもハードルは高いので、規制が厳格になるのはしようがないと思います。

こうしたVIP対応が、なぜわかりにくいかというと、日本には金持ちとそれ以外をわける法律がないから。金持ちとそれ以外を差別しない平和な国なんですよ(笑)。だからこの預託金は、ある意味お金持ちとそれ以外を分ける仕組みですね。確かにその内容は厳格ですが、対象となる人はそんなに多くないはずです。