急拡大するアメリカのスポーツベッティング最前線、スーパーボウルの熱狂

二上葉子

 新型コロナウィルス感染症が拡大し、現地に足を運んでプレイするランド型のカジノは閉鎖の憂き目を見ることとなった2020年。一方で、オンラインベッティング、特にスポーツベッティング分野が急拡大を続けている。アメリカでのスポーツに対する賭けは、2018年に米国最高裁判所が法的解釈を変え、スポーツベッティングの禁止を覆し、合法とするか否かは各州の決定に委ねることとなった。現在、スポーツベッティングが合法化されている州は、2021年2月8日時点で、アイオワ州、ペンシルバニア州、ニュージャージー州、インディアナ州、ネバダ州など20州。急拡大を続けるアメリカのスポーツベッティングの現在と、IRオペレーターの戦略について追う。


アメリカの各州では、新たな税収策としてスポーツベッティング合法化が進む
 


熱狂するスーパーボウルでのベッティング

 現地時間2月7日(日)に行われた、アメリカのプロフットボールNFLの王座決定戦「スーパーボウル」。例年なら当然フルスタジアムでの開催のところ、今年は新型コロナウィルス感染症の影響で、会場のフロリダ州タンパのレイモンド・ジェームズ・スタジアムの観客数は、スーパーボウル史上最少の2万5,000人に制限しての開催となった。本来の収容人数約6万5,000人の4割以下の数字である。テレビやネットでの視聴は相変わらずの過熱ぶりだった。

 さらに今年のスーパーボウルで盛り上がりを見せたのは、オンラインでの「スポーツベッティング」だ。ネットやアプリでは、アメリカ史上最大規模のスポーツベッティングの取引が行われた。アメリカン・ゲーミング協会の調査では、オンラインスポーツベッティングでのスーパーボウルへの賭け数は過去最高の760万件と推定されており、2020年よりも63%増加。スーパーボウルのベッティングは、今回、アメリカの21管轄区域(ワシントンD.C.を含む)で合法的に行われ、昨年の開催時よりも7区域増えた。単純にベッティングできる地域が増えただけではなく、新型コロナ流行後にアプリなどでスポーツベッティングができる環境が整い、ファンの熱が高まっているのだ。

 急拡大中のスポーツベッティングだが、スーパーボウルではトラフィックが急増し、技術的な問題も露呈した。日曜日のキックオフが近づくにつれ、複数の人気スポーツベッティングアプリのサービスが停止し、ユーザーは賭けができない状態となった。当日は、タンパベイ・バッカニアーズが大勝。賭けに勝ったユーザーがキャッシュアウトを希望したが、システム障害により現金化の遅れが生じた。アメリカのスポーツベッティング大手のドラフトキングス社の広報担当者は、メディア「Front Office Sports」の取材に対し、「今回の停止はトラフィックの急増が原因で、バックエンドプロバイダーに問題が発生したようだ」と語っている。


Raymond James Stadium, decorated for Super Bowl LV, January 31, 2021
 

2021年はスポーツベッティングの合法化がさらに拡大

 アメリカでは現在20州でスポーツベッティングが合法化されており、AP通信の報道によると、コンサルティング・マーケティング企業のVIXIO社は、2021年には全米で新たに6州から14州、スポーツ・ベッティングを合法化または拡大すると予測するレポートを発表した。推計によると、アメリカにおけるスポーツベッティングの合法化による収入は、2021年に31億ドル(約3,213億円)、5年以内に100億ドル(約1兆365億円)に達する可能性があるという。同社によると、2021年は、昨年の収入の約15.5億ドル(約1,606億円、2020年12月分集計前の数字)から倍増すると推計している。

 ニューヨーク州知事のアンドリュー・クオモ氏は、オンライン・スポーツ・ベッティングの合法化に長い間反対してきたが、最近になって税収を最大化するため、ニューヨークでスポーツ・ベッティング事業を運営させることを提案し、新市場の可能性を開いた。2020年11月には、ニューヨーク州に隣接するニュージャージー州のスポーツ・ベッティングの取扱高が9億3,160万ドル(約966億円)を記録し、ネバダ州を上回ったが、最近の業界調査によると、ニュージャージー州のスポーツ・ベッティング収入のうち約20%は、州に渡ったニューヨーク住民からのものであることが判明している。

 スポーツベッティング合法化拡大の動きについて、業界大手のドラフトキングス社CEOであるジェイソン・ロビンズ氏は、2020年12月段階のFoxビジネスのインタビューで、さらに多くの新しい州が法律や規制の枠組みを採用することは、ドラフトキングスを 「高成長から超高度成長へと導く」と語った。また、同社は「万が一、2021年さらに新たな州で事業が立ち上がらなくても、40%以上の成長を見込んでいる」と述べた。

 

巨大カジノオペレーターはスポーツベッティング市場に乗り出す

 アメリカのスポーツベッティング市場においては、スポーツベッティング会社と、ランド型カジノを主戦場とするカジノオペレーターの提携、買収の動きが加速している。

 スポーツ・エンターテインメントを重要視しているMGMリゾーツ・インターナショナルは、英国エンテイン社との合弁で、スポーツベッティング会社「BetMGM」を設立。2020年3月にアプリをローンチし、スマートフォンとパソコンの両方から賭けができるようになった。現在はアメリカの10州でアクセスが可能。BetMGMでは、アメリカ4大プロスポーツのNFL(アメリカンフットボール)、NBA(バスケットボール)、NHL(アイスホッケー)、MLB(野球)や、その他テニス、ゴルフなどを対象に賭けが行われている。

 今年1月には、MGMリゾーツがエンテイン社を買収を検討しているとの報道があったが、その後、買収の提案は撤回された。また、BetMGMは、1月28日に、デジタルスポーツメディア企業のThe Athletic社とスポーツベッティングパートナーを締結すると発表。The Athletic社は、世界中に100万人以上の購読者を持つメディアで、アメリカ、カナダ、イギリスの約300のプロスポーツやカレッジチーム、クラブの報道を扱っているが、BetMGMはこの独占提携においてスポーツ・ベッティングコンテンツを読者に提供拡大できるとしている。


BetMGMのホームページより


 ウィン・リゾーツも2020年からスポーツベッティングに注力している。2020年10月に、オンラインスポーツベッティングおよびインターネットカジノゲーミング事業のプラットフォーム企業として、戦略的パートナーであるBetBull社と合弁で、ウィンインタラクティブ社を設立。ウィンリゾーツはウィンインタラクティブ社の株式約72%を所有している。この新会社はスポーツベッティングアプリ「WynnBET」を運営、2020年11月にミシガン州でのサービス開始を皮切りに、現在はミシガン州のほか、ニュージャージー州、コロラド州で事業を展開している。さらに、インディアナ州、アイオワ州、オハイオ州、テネシー州、バージニア州での準備も進んでいる。

 WynnBETは、2020年10月末にアメリカ最大のモータースポーツ統括団体NASCARと複数年にわたる全米スポーツベッティングパートナーシップを発表し、NASCARの公認ゲーミングオペレーターとなった。ベッティング対象となるスポーツコンテンツの拡充を進めている。

 先日2月4日に発表された、ウィン・リゾーツの2020年第4四半期決算において、ウィンインタラクティブ社でのスポーツベッティングが50億ドル(約5,243億円)規模になることへの期待が述べられた。決算発表後、オンラインゲーミングやスポーツベッティングについての質問に対し、ウィン・リゾーツCEOのマドックス氏は「ウィンインタラクティブは、2021年にウィンが本腰を入れて取り組むことになる」とコメントした。

WynnBETのホームページより


 また、シーザーズ・エンターテインメントは、2020年11月、イギリスの大手ブックメーカーであるウィリアム・ヒルを29億ポンド(37億ドル、約3,904億円)で買収することで合意した。カジノオペレーター間で急速に拡大するアメリカのスポーツベッティング市場とオンラインビジネスを補完する取引である。買収以前にすでにシーザーズはウィリアム・ヒルとの米国合弁事業の20%保有しており、同事業はシーザーズのカジノ施設でブランドを展開していた。現在、同社は取引を完了させるのに必要なすべての規制当局の承認取得を進めており、2021年3月には合併を完了することを目指している。

 シーザーズは、アメリカでのスポーツとオンラインゲーミング事業の拡大により、2021年度には6億ドルから7億ドル(約633億円から約738億円)の純収入を生み出す可能性があると説明している。シーザーズ・スポーツブック(または、シーザーズ・カジノ&スポーツブック)は現在、インディアナ州、ニュージャージー州、ネバダ州、ペンシルバニア州の4州でアクセス可能。他の州でも準備を進めている。また、シーザーズは、また2020年10月にラスベガスストリップ地区のホテル、クロムウェルでのリニューアルオープン時に、施設内に「ウィリアムヒルスポーツブック(スポーツベッティングの施設)」を新たに設置した。

 日本IRから撤退を表明した、ウィン・リゾーツ、シーザーズ・エンタテインメントなどがスポーツベッティングに注力していることが見て取れる。IR事業者側の立場で考えると、新型コロナの影響で不透明感な状況の中で、現時点では新規のランド型のカジノへ巨額な投資をするよりは、明らかな成長分野であるオンラインベッティングへの投資に勝機を見出していると言えるだろう。


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