変わらないMICEの要件、基本方針案の修正はこれでよいのか? (2/2)

二上葉子

 

海外IRのMICEの現状は?

 パブコメ時に出された資料類からは、日本型IRにおけるMICE方針は変わらないことがわかったが、現状、海外のIRの先行地のMICEがどのような状況かを簡単にご紹介する。

●ラスベガス
 今年3月からIR全体が閉鎖。6月4日カジノ再開したが、ネバダ州のイベント規制により、MICE施設は引き続き閉鎖。全米放送協会による毎年4月に開催される見本市「NAB Show」は中止となるなど、大型イベントの多くは中止となり、コンベンション無開催のため利用人数0人が続いた。

 ネバダ州でのイベント再開に向けて、サンズ・エキスポの展示ホールでは、9月に数日間にわたって模擬的なトレードショーを実施。その結果も踏まえ、ネバダ州では10月1日にイベントの人数規制が緩和。新たなガイドラインでは、250人以下のグループに分けられている場合に限り、1,000人まで参加可能などの細やかなルールがあり、事業者はビジネス会議再開に向けた準備を整えている。例えば、MGMリゾーツでは会議とコンベンションを復活させる計画として「Convene With Confidence 計画」を発表している。
 
 ラスベガスでの国際的イベントはオンライン開催に置き換わる事例も多く、例えば、ラスベガスで例年行われる世界最大の技術見本市「CES」は、2021年1月6日~9日(現地時間)に開催を予定していた見本市をオンラインによるオールデジタル開催にすると発表。2022年はリアルとデジタルを組み合わせて、再びラスベガスでの開催が予定されている。アマゾン・ウェブ・サービス (AWS)の年次カンファレンスイベント「AWS re:Invent」は例年ラスベガスで12月に4~5日間開催されていたが、2020年は12月にオンライン開催となることが発表された。

●マカオ
 マカオ内の全カジノ施設が2月5日から19日まで閉鎖。マカオでは、10月8日まで公共の場所での集団の人数は4名以下、レストラン等での公的な場所での食事は1テーブル4名以下と制限されていた。当然大規模なイベントは実施できず、6月からオンラインとオフラインを組み合わせたイベント開催が開始していたが、限定的なものであった。

 8月のマカオでのコンベンション・エキシビション開発委員会にて、委員会の議長を務めるレイ・ワイ・ノング経済財務長官は、マカオの会議および展示部門(MICE業界)は、新型コロナで厳しい状況にありながら、同セクターは「創造性をもって過酷さに対処した」と述べた。2020年はマカオでのMICEイベントは縮小、MICE収入は減少する見通しだが、同委員会では安全な都市としてのマカオの存在を国際市場に宣伝する方法について検討している。

 MICEでの大型イベント例としては、毎年ベネチアン・マカオで春に開催するG2E(アジア)は12月への延期が決定していたが、8月段階で中止が発表された。一方、例年マカオで開催されている「アジアンゲーミングパワー50フォーマルガラディナー」は、今年はザ・パリジャン・マカオで11月6日に実施する予定で、大規模なソーシャルイベントとしては唯一の開催となる。 

●シンガポール
 4月7日からIR全体が閉鎖、7月1日にカジノや一部の観光施設を再開、7月17日にホテルも再開したが、イベント規制が緩和されないため、MICEは引き続き閉鎖となった。3月から全てのイベント開催が停止となり、8月に約50人規模の国際会議を試験的に開催。10月1日以降は、試験的に250人までの参加者を対象としたイベントの開催を、現地のMICE会場は申請できるようになった。なお、今回の人数制限の緩和は、主催企業の関係者向け(従業員を含む)に開催する年次株主総会や臨時株主総会、会議、セミナーなどには適用されない。

 マリーナベイ・サンズ(MBS)のMICE施設ではトライアルイベントとして10月26日から30日まで、「シンガポール国際エネルギー週間2020(SIEW)」の開催を予定。MBSではオンラインやバーチャルと組み合わせたイベント需要に応えられるよう「ハイブリッド放送スタジオ」を提供することを8月に発表し、バーチャル会議に仮想空間技術(VR、AR、XR)を組み込んだ技術も用意。新しいMICE利用の形を模索している。
 
 また、もう一方のIR、リゾート・ワールド・セントーサでは、参加者最多50人という規制下で、米国電気電子学会(IEEE)のコンピューター電磁気学国際会議が8月24~26日に開催された。

●韓国
 外国人向けカジノは3月から閉鎖、4月中旬~5月上旬に再開、感染再拡大により一部施設の再閉鎖もあったが、現在は再開。パラダイス・シティなどIRのMICE施設も厳しい状態だが、韓国政府はMICE支援策として、文化体育観光部の「2020年国際会議産業育成施行計画」を4月29日に発表した。延期やキャンセルとなった国際会議に対し、来年6月までに特別助成金を提供し開催を誘導する。外国人の参加者数に応じた金額支給を実施、他に防疫のための費用も支援する。

 また、韓国観光公社(KTO)は、6つの国際会議で、ミーティング・テクノロジー支援事業を発表。個人間接触最小限化のための近距離無線通信、ライブ・ストリーミング、ホログラム、AI案内ロボット、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、プロジェクション・マッピング、ビッグデータ構築などで支援する。

 先進的な取組も行われ始めており、今年9月17日に開催された「UIAアソシエーションズ・ラウンドテーブル・アジア・パシフィック」という国際会議(例年23か国から約150人のUIA〈国際団体連合〉職員が集まる)では、「バーチャル・ソウル・プラットフォーム」という仮想空間での3Dバーチャル・カンファレンスを実施した。


 以上が、IRのある主要エリアでのMICEの現状であるが、今後、MICEを活用した国際的なイベントが回復していくのかどうか、注視していく必要がある。アフターコロナにおいては、イベントのあり方自体が変わることが予想される中で、世界のIRのビジネスモデルはどう変化していくのだろうか。すぐに答えが出ない問題だが、JaIRでは、今後もMICEの最新状況と展望を取り上げていく予定だ。


■関連資料データベース
特定複合観光施設区域整備法第5条第1項の規定に基づく「特定複合観光施設区域の整備のための基本的な方針(案)」(※修正部分のみ)に関する再意見募集

 意見募集要領 https://jair.report/archive/361/
 【別紙】基本方針案(修正部分) https://jair.report/archive/362/
 【参考資料1】基本方針案(概要)https://jair.report/archive/359/
 【参考資料2】基本方針案(本文) https://jair.report/archive/360/

観光庁・「特定複合観光施設区域整備法に基づく区域整備計画の認定等に関する省令(仮称)の案」及び「特定複合観光施設区域整備法に基づく区域整備計画の認定に必要な事項等を定める告示(仮称)の案」に関する意見募集

 意見募集要領 https://jair.report/archive/356/
 省令案概要    https://jair.report/archive/357/
 告示案概要    https://jair.report/archive/358/


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新型コロナ感染症によるIR基本方針案の修正点と海外のコロナ対策例
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横浜市は13日、RFCの概要を発表、RFCをさらに追加で実施
https://jair.report/article/480/

IR区域整備認定申請受付の9か月延期で各自治体の動き
https://jair.report/article/478/

観光庁が修正IR基本方針案を公示、認定申請は9か月延期
https://jair.report/article/474/