【IR映画ガイド】その危うさをきちんと理解しておくことが、健全なIR作りの土台となる「カジノ」 (2/2)

塚田正晃(KADOKAWA)

新生スターダストの運営を託されるレフティと、全米トラック運転手協会

 ロバート・デ・ニーロが演じるエースのモデルとなったレフティは1960年代にシカゴでスポーツ賭博のノミ屋として活躍し、マフィアのボスたちの信頼を勝ち取る。一方で規制当局からマークされ、シカゴでの仕事がしにくくなり、1968年にラスベガスに流れて来る。ちょうどヒューズの動きが始まり規制が強化され、ラスベガスが変わりはじめる頃だ。当時はまだ、脛に傷を持つ人々はラスベガスに来れば過去と決別し、新たな人生を歩めるとされていたようで、映画の中の「ベガスはモラルの洗車場のようなものだ」というセリフが象徴的だ。

 1974年には最大級のカジノ・ホテルだったスターダスト(1958年オープン)をボスたちが買収し、その運営を任されることになる。映画では架空のホテル「タンジール」として表現される。ちなみに撮影が行われたのはスターダストの向かい側に建っていた老舗ホテル「リビエラ」。映画ではカジノの運営を任されるにあたり、前科もある自分にはできないのではないか? と危惧するシーンがあるが、当時の規制法にはまだ抜け道がたくさんあり、あまり表には出ずに実質的なトップとして仕切ることは可能だったようだ。
 
レフティが仕切っていて絶好調だったころ、1979年に撮影されたスターダスト
 
 
 映画の中の興味深いシーンに、タンジールの買収資金の提供者として、全米トラック運転手組合(通称:チーム・スター)という実在の組織名がそのまま出てくるところがある。当時頻発していたドライバーのストライキをコントロール、つまりアメリカ中の物流を止めたり動かしたりすることができた組織で、それが大きな利権となった。マフィアはここにも注目し、クリーンな資金を低利で融資させ、莫大な裏金と様々な便宜を提供して支配下に収めていく。1960年代に暗躍したジミー・ホッファー組合長はマフィアとの癒着を問われ、ロバート・ケネディ司法長官時代に収監されている。映画の中ではアンディ・ストーンという年金局長が登場し、組合の年金基金から6250万ドルを捻出する。融資だけではなく、エースに「法の抜け道」を指南したのもストーンだった。スコセッシ監督はこの組織のユニークさに注目していたようで、2019年にネットフリックス限定公開という新しい形で制作された「アイリッシュマン」でも大きなテーマに取り上げている。
 
 最新作「アイリッシュマン」と「カジノ」、そしてそれより前に制作された「グッドフェローズ」。スコセッシ監督によるマフィアをテーマにしたこの3作は、すべて主演がロバート・デ・ニーロで、準主役はジョー・ペシ。役柄、テーマや背景は違うものの、3つが繋がった作品のようにも思えてくる。
 
 それぞれの作品でとても重要な役をこなすジョー・ペシは「カジノ」ではエースの幼馴染のニッキー・サントロを演じている。エースのボディガードとしてボスたちからラスベガスに送り込まれた、組織に属する冷酷な武闘派だ。これまで通りの荒っぽいやり方を変えようとしないニッキー。「合法的」という言葉を繰り返し口にし、これまでのやり方が通用しない時代の変化を感じているエース。エースの卓越した経営センスと、ニッキーの闇の力によりタンジールは売り上げを伸ばしていく。この2人にシャロン・ストーンが演じるエースの愛妻ジンジャーが絡んでくることでドラマは進行していく。
 
 映画はタンジールの繁栄から数年後の1983年、エースの乗った車が大爆発を起こすシーンから始まる。物語の終わりを象徴するシーンを冒頭に持ってくる手法だが、これもこの年に実際にレフティに起きた事件をそのまま再現している。80年代前半は本格的な脱マフィアに向かって、ラスベガスが大きな動きを見せていた時期だ。マフィアによる支配の力が急速に衰え、3人がそれぞれに作り上げた夢の形が瓦解していく。
 
 カジノに関する教材は全編に散りばめられている。スキミングの方法、VIPの扱い方、イカサマの数々、マフィアの影…。そこから得られる教訓は映画の最後の20分に凝縮されている。暗黒時代のラスベガス、どのような仕組みでカジノは動き、そこで彼らはどう過ごし、どのように追い詰められたのか、そしてその後街はどう変わったのか。
 
 実際にレフティが仕切っていたスターダストは2006年に営業を終了し、その後解体された。35haの跡地の再開発は経済的な理由で長期間頓挫していたが、横浜IRにも名乗りを上げているマレーシアのゲンティンが買収。40億ドルの総予算をかけた「リゾートワールド ・ラスベガス」(※リンクは同施設の公式HP)として2021年夏にオープンする予定だ。映画のエンディングに流れるジャズのスタンダード・ナンバー「スターダスト」が情緒的に余韻を盛り上げる。


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