IR、みどり、LGBTQ、留学生まで 大阪観光局 溝畑理事長に聞いた反転攻勢の戦略 (3/3)

大谷イビサ(JaIR編集部)

タイムアウトとの連携、文化芸術の強化 量から質への転換の意義


玉置:世界的なシティガイドであるタイムアウト(運営:ORIGINAL Inc.)との提携も話題となっています。

溝畑:タイムアウト様との提携に関しては、観光庁長官時代から代表取締役の伏谷 博之さんとは親しくさせていただき、ナイトタイムエコノミーやLGBTQツーリズム、飲食単価の増加の件など、彼から学んだことがたくさんあります。量から質への大胆な転換を図ることにおいて、世界各国にネットワークを持っているタイムアウトは、世界基準や目標をわれわれにアドバイスしてくれる最適なパートナーだと考えました。
大阪観光局とタイムアウトを運営するORIGINAL Incの連携協定

玉置:ビジネスとアートの橋渡しを進めるアートローグのイベントも後援されていますね。

溝畑:大阪は歴史的にさまざまな文化芸術が発展してきた都市でありながら、たとえば住民一人あたりの美術館の数が国内でもっとも少ないという状況です。真に魅力ある都市に発展するためには、「文化芸術」や「教育」が重要だと考えているので、まずは「文化芸術」をもっと掘り起こしたいと考えています。

現在、一流のアートやカルチャーをやっている人は東京に集まっています。チャレンジする人をバックアップするような都市にしていかないと、この一極集中を打破できません。建築、芸術、アートといった分野を観光局としても支援していきたいと思っています。

玉置:インバウンドを再開させていくにあたっての課題はなんでしょうか?

溝畑:年間1200万人の来阪外国人客が来た2019年頃から、大阪ではオーバーツーリズムの問題が顕在化してきています。観光客が多すぎて、ゴミや騒音が発生し、住民や地域社会に悪影響を与えるようになってきました。

インバウンドの客単価も、大阪は2019年の時点で約12万円にとどまっており、全国平均の約15万円に比べても低い状態です。観光産業の最大の課題はなにより生産性と収益性が低いこと。給料が安いと、優秀な人材も集まってこないので、客単価を上げていくことが必要になります。また、コロナ禍で観光も集中から分散に移っています。こういったところからも、量から質への転換は重要です。
 

コロナ禍でプラスだったこと、マイナスだったこと


玉置:最後にコロナ禍でプラスだったこと、マイナスだったことを教えてください。

溝畑:プラスだったのは時間をくれたことです。私が観光局に就任して以降、大阪の観光はつねに右肩上がりで、年間370万から1200万人に成長してきました。その間ずっと突き進んできた気がするんです。でも、コロナ禍で時間ができたことで、大阪の本当の魅力を見つめ直すことができました。

また、リスクマネジメントを体験できたことも大きかったです。感染症、自然災害、政治問題などのリスクがあったときに、迅速に復旧できる装置がやはり重要だと思いました。長い目で見たら、とてもいい勉強になりました。

もちろんマイナスも大きかった。この2年間で、多くの会社がなくなり、能力や情熱を持った人たちも仕事を辞め、別の業界に移っていきました。反転攻勢においては、もちろんそういった人たちに戻ってきていただくよう声はかけますが、戦力減になったのは事実ですし、復帰には時間もかかります。万博に向けて必要な人材開発も止まっている状態です。

玉置:いやあ、つらいですね。

溝畑:多くの人たちが悲しみ、苦しみ、仲間たちが舞台から去って行った。これが辛かったですね。ずっと伸びてきた観光客でしたが、特急列車が各駅停車どころか止まってしまいましたから。そこのモチベーションをいかに保つかは大変です。オミクロン株がなければ、年内にはインバウンド受け入れの実験を開始し、春くらいには団体旅行くらいから再開したいと期待していたのですが、このロードマップも遅れてしまいました。

ただ、私が観光庁長官だった東日本大震災のときも同じような経験をし、乗り越えてきましたので、振り返ればいい思い出になると思っています。われわれは歯を食いしばった先にある、明るい展望を示す使命があります。私の頭のような「明るいたいまつ」をつねに掲げなければならないと思っています(笑)。


■関連サイト

大阪観光局
https://osaka-info.jp/


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