大阪・関西万博とIRはどうリンクするのか

JaIR編集委員・玉置泰紀

 2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)で会場デザインや運営、テーマごとの事業を担当するプロデューサーが決定。7月13日、大阪市北区のリーガロイヤルホテルで10人のプロデューサーが発表された。一方、大阪府・大阪市IR推進局は、令和2年(2020年)7月頃としていた提案審査書類(RFP)の提出期限について、「当面の間延長する」ことを発表しており、松井市長はIR(統合型リゾート)の全体スケジュールが1~2年遅れる可能性を話していて、開業は2025年の万博前には間に合わず、万博後になるのは確実だ。このため、新型コロナウイルス感染症を踏まえて先行開催される万博の方向性が確実にIRに影響を与えると思われる。
 
中西宏明・日本国際博覧会協会会長、石毛博行・事務総長と選ばれたプロデューサー
 

「いのち輝く未来社会」という万博のテーマがコロナ禍にクロス

 記者会見でも、コロナ禍についての言及は多く、日本国際博覧会協会の中西宏明会長(日経連会長)は「コロナはいろいろなことを変えた。万博をどういう形で成功させるのか。いのち輝く未来社会は、まさにこういう時代に相応しい。日本は世界の中では、新型コロナウイルス対策をある程度うまく収めているが、次の発展に取り組んでいる。この万博で大いに謳い上げることをやろうじゃないか。関西・大阪から発する世界へのメッセージにしよう」と力強く語っており、夢洲の博覧会を大きな転回点にしようという意図が見える。
 
 梶山弘志・経済産業大臣もビデオメッセージで「今回の万博は持続可能な社会のデザインを作る実験場になる。AIやビッグデータを活用して、例えば待ち時間ゼロを実現する。コロナで社会のありようは一変し、テレワークが進展した。新しい万博を考えなければいけない。足を運ばなくても楽しめるバーチャルな万博も考えられる」と話しており、日経連の会長と政府の産業担当大臣が、今回のコロナ禍を踏まえた新しい社会、新しいテクノロジーをテーマとして挙げたが、IRにとっても、今の世界中の施設での窮状を打破する試金石になりうる。
 
日経連会長でもある日本国際博覧会協会の中西宏明会長
 

食やテクノロジー、アートやスポーツもテーマに

 今回選ばれたプロデューサーは全部で10名。行催事プロデューサーは人選中で、この日は発表されなかった。河瀨直美氏は全体を統括するシニアアドバイザーと兼任。以下が、今回選ばれたプロデューサー。
 
◎会場デザインプロデューサー
藤本壮介 建築家

◎会場運営プロデューサー
石川 勝 プランナー、プロデューサー

◎テーマ事業プロデューサー
●担当テーマ「いのちを知る」
福岡伸一 生物学者、青山学院大学教授

●担当テーマ「いのちを育む」
河森正治 アニメーション監督、メカニックデザイナー

●担当テーマ「いのちを守る」
河瀨直美 映画監督

●担当テーマ「いのちをつむぐ」
小山薫堂 放送作家

●担当テーマ「いのちを拡げる」
石黒 浩 大阪大学栄誉教授、ATR 石黒浩特別研究所客員所⾧

●担当テーマ「いのちを高める」
中島さち子 音楽家、数学研究者、STEAM 教育家

●担当テーマ「いのちを磨く」
落合陽一 メディアアーティスト

●担当テーマ「いのちを響き合わせる」
宮田裕章 慶応義塾大学教授

 IRのデザインにも直結する会場デザインの藤本壮介氏は、万博招致の段階から強調されていた「あえて中心を作らない。分散型の会場を作る」という考えを踏襲するのか、質問されて「全てが中心であるというのは良いと思っている。ただ、昨今の世界を見ているとバラバラがよりバラバラになっていっているのはもったいない。世界から6ヶ月間だけ集まる。多様なものが集まって一つになる。それも濃厚に。そこから生まれるもの、多様性を尊重しながら集まるということの意義を考えたい。丹下健三氏が1970年の万博で、お祭り広場や太陽の塔を残した。じゃあ、今回は、どういう風景を記憶に残すのか。皆さんの記憶、世界の記憶に残る風景を作りたい」と語っており、ある程度レガシーで残る風景と、遅れて完成するIRのバランスは問われるところだろう。

 この他にも、くまモンの生みの親である小山薫堂氏は下鴨茶寮主人も務める食通だが、食をプロデュース。本人そっくりのロボットで有名な大阪大学の石黒浩栄誉教授や、テクノロジーとアートの組み合わせなど活躍が目覚ましい落合陽一氏ら、刺激的な人選になっており、それぞれのパートが、IRでのクリエイティブにつながりそうだ。
 
会場デザインをプロデュースする藤本壮介氏。ユニクロ心斎橋店などを手掛ける

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