市民の理解がないとIRは難しい 横浜ショックの影響を佐々木一彰教授に聞いた

大谷イビサ

 IR反対派である山中竹春氏が市長選で当選した結果、IR誘致のプロジェクト自体が停止となる見込みの横浜市。観光や経営の観点でIRを研究している東洋大学 国際観光学部国際観光学科 佐々木 一彰教授/博士(地域政策学)に”横浜ショック”の影響について話を聞いた。(敬称略 インタビュアー JaIR編集委員 玉置泰紀)

IRに代わる財政危機を埋める施策が必要になる


玉置:今回の横浜市長選についてどうお考えですか?

佐々木:市民に対する丁寧な説明、そして理解が得られないと、IRを先に進めることは難しい。これが改めて明らかになったと言えます。

林文子・前市長と横浜市民はIRに関しては「ボタンの掛け違い」が発生していたのかもしれません。そのIRへの批判とコロナ対応があいまって、林前市長の再選にノーが突きつけられた感じです。予想されていたとはいえ、市民の総意なのでこれは仕方がないことであります。

玉置:山中新市長はIR誘致活動自体を停止することになると思いますが。

佐々木:IRの誘致を断念するということは一つの企業誘致を断念することと同じでありますので、新市長は財政危機をIRとは別の産業で埋めなければなりません。東京や大阪に比べて企業の本社が少なく、法人税が見込めない横浜市でありますのでそれは喫緊の課題となってくるものと思われます。もし、観光施策をもって財政危機を乗り越えようとするのであれば投資効率の良い方策をとっていただきたいと思います。
 

横浜市の離脱でいよいよ選定プロセスは最終コーナーに


玉置:大阪、和歌山、長崎への影響は?

佐々木:シンプルにライバルが減ったとは言えます。ただ、区域認定はあくまで最大3箇所なので、国の求める基準を満たさなかった場合、認定される区域が3か所に満たない可能性も残っています。そのような場合、空いた「枠」をどうするのかについては何も決まっていないように思えます。

玉置:ラスベガスは新しいIRや巨大なスタジアムも生まれ、客足も戻ってきています。

佐々木:コロナ禍の反動で、国内でも今後インバウンド需要は一気に伸び、特に富裕層への対応は特に重要になるはずです。また、イノベーションの源泉となるリアルでの出会いの重要さが改めて再認識されており、MICEに関しても再び脚光を浴びるはず。

確かに、今回の横浜市長選の件は日本型IRにとってみればいわばブレーキ。ただ、選定のプロセス自体は最終コーナーに差し掛かってきています。

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