横浜市長選はIR反対派の山中竹春氏が当選 横浜IRへの影響を識者に聞いた

JaIR編集委員 玉置泰紀

 IR(統合型リゾート)の是非が、コロナ対策とともに大きな争点となった横浜市長選挙が22日、投開票が行われ、過去最多の8人が立候補する中、元横浜市立大学教授でデータサイエンスや公衆衛生の専門家である山中竹春氏が、前国家公安委員長で元衆議院議員の小此木八郎氏、IR推進派である現職の林文子氏らを抑えて、初当選を果たした。

 IR誘致の即時撤回を主張する山中氏は、立憲民主党の推薦、日本共産党と社民党の支援を受け、カジノ反対運動の市民団体「カジノ反対の市長を誕生させる横浜市民の会」の支援も受けており、横浜港湾人代表の藤木幸夫氏の応援も取り付けている。候補者8人中、6人がIR反対を唱える中、コロナ対策の専門家としての力量も評価されたとみられる。
山中氏の公式YouTubeより

IR誘致反対を掲げて当選 コロナにも強いデータサイエンスの専門家

 山中氏は、選挙公報には、「横浜をコロナとカジノから守ります!」と謳っており、IRについては、「カジノ(バクチ)誘致を即時撤回!」としている。「カジノ抜きの代替案」として、「ハーバーリゾート構想」を実現したいと説明、国際展示場・滞在型ホテル・エンタメ施設など、「夢・希望・楽しさ」のある街づくりを提唱していて、まさに、IRからカジノを抜いた施設をイメージしているようだ。JBpressの公開質問には、「カジノビジネスは既に破綻している。7割の市民が反対しており、カジノができれば依存症患者が急増し、治安は乱れ、子ども達の教育上も極めて良くない」と答えている。
山中氏の選挙公報
 山中氏は、ホームページによると、「山村部で生まれ育ち、高校時代はラグビーに全力投球」、「大学在学中、データと数字を根拠に意思決定する「データサイエンス」の方法に惹かれ、それを世の中に還元していきたいと決意」、「社会人になってからは主に医療や社会福祉の分野に尽力」してきたとあり、「2014年から横浜市立大学医学部教授に就任。最近では新型コロナワクチンが変異株(デルタ株等)にも有効であるというデータ解析結果をはじめて示し、全国的に注目」されたとしている。

 早稲田大学政治経済学部卒業後、早稲田大学大学院理工学研究科を修了、アメリカ国立衛生研究所(NIH) 研究員、国立がん研究センター部長、横浜市立大学医学部教授、横浜市立大学特命副学長、横浜市立大学 学長補佐、横浜市立大学大学院データサイエンス研究科 研究科長などを歴任している。また、文部科学省科学技術・学術審議会専門委員、厚生労働省厚生科学審議会再生医療等評価部会委員、厚生労働省先進医療技術審査部会構成員、内閣府数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度検討会議構成員、数理・データサイエンス教育強化拠点コンソーシアムモデルカリキュラムの全国展開に関する特別委員会委員などの役職も務めている。
 

IR誘致は「行わない」 横浜市として早急に出すとコメント


 横浜市は、2021年1月21日より実施している「横浜特定複合観光施設設置運営事業の設置運営事業予定者の公募」について、6月11日に提案審査書類の受付を締め切り、2者から提案審査書類の提出があったことを発表している。セガサミーホールディングスとゲンティン・シンガポール・リミテッドのコンソーシアムは公表されているが、あと1者の企業名は公表されておらず、代表1社と構成員2社とのみ発表されている。各報道は、残る1者はメルコリゾーツ&エンターテインメントと大成建設で作るグループと報じている。設置運営事業予定者の選定は今年の夏頃となっているが、今回、IR反対の市長が当選したことにより、目前に迫った設置運営事業者の選定に影響が出そうだ。

横浜市が発表している事業スケジュール

 当選確実が出た後の記者会見で、山中氏は「感謝の気持ちでいっぱい」と感想を述べ、コロナ対策としては、ワクチン接種の加速化、感染源のいち早い特定、感染した人への治療機会の確保の3つの効果的な対策を行ないたいとコメント。IR誘致に関しては「行わないという宣言を横浜市として早期に出す」と述べた。

<IRの識者の横浜市長選へのコメント>

■観光や経営の観点でIRを研究している東洋大学国際観光学部国際観光学科の佐々木 一彰教授/博士(地域政策学)の市長選へのコメント

「横浜市はIRの誘致には困難な状況になったのでIRに代わる税収を上げる代替手段を考え、実行しなければならなくなりました。今後の労働可能人口の減少とそれに伴う所得税の減少による財政の悪化を、いかに食い止めるかについて次の首長は考えなければならなくなったということです」

■コンサルタントとしてゲーミング業界で活動するベイシティ・ベンチャーズの國領城児氏の市長選へのコメント

「横浜IRの公募に参加した2者にとってはこの結果はもちろん想定内です。また、林市長が再選していたとしても、市民の6割以上が反対する政策がスムーズに進むという確約もありませんでした。IRは非常に大きな影響をもたらす開発プロジェクトであり、大きな政策ほど市民の理解を得るための努力は重要になります。

今回横浜ではIRの効果や懸念事項の議論ではなく、市長選という場で政治を絡めた『賛成か反対』の究極を競う形になってしまったことは残念に思います。私は横浜在住で現役で世界のゲーミング産業でビジネスを行っておりますが、単純に『ゲーミング産業関係者だからIRを推進する』というほど無責任な考えはなく、各候補者の情報収集に多くの時間を使い、本当に最後まで悩みました。

ゲーミング産業の市場はそれぞれビジネス面以外でも市民感情、管理体制、政治的背景、文化と宗教、国際関係など数多くの要素が絡み合いながら動いています。その中で横浜市における第1ラウンドIR誘致のストーリーは、国内に限らず国際市場でも一つの教訓になるはずです」

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