日本型IRに必要な「国際競争力」と「全体最適」 元オカダ・マニラ社長の大屋氏が語る (3/3)

大谷イビサ(JaIR編集部)

今のRFPは形式的 理想のIRとはなにかを本音で語り合うべき

玉置:今の日本でのIRの議論についてどうお考えですか?

大屋:議論を見る限り、政府や自治体の方々は、日本の中での最適化を目指しているようにしか見えません。つまり、「日本でカジノが受け入れられる条件はなにか」を探っているだけです。

でも、ちょっと待ってください。そもそもアジアの中だけでも、マカオ、シンガポール、フィリピン、韓国など強敵がいっぱいいます。当然、そこに対するアドバンテージがなければIRビジネスは成り立たないし、投資する事業者も現れません。そんな中、日本では自国での最適化を目指して、税制や入場規制、ジャンケットの禁止、ホテルやMICEの規模の話など、IR事業者をがんじがらめにするような規制をどんどん作っています。ちょっと議論のレベルが違うのでは?というのが、正直な感想です。

国際的競争力のあるIRを日本はどのように実現するのか?という議論が欠けたまま、個別最適を目指した結果、手を挙げるIR事業者はどんどん減っているのが現状だと思います。

玉置:コロナウイルスの影響もありますが、RFPにまでたどり着かない事業者は増えていますね。

大屋:今のRFPに対して、あまりにも大きな構想を掲げると、コミットメントと受け取られるし、現実的な案を出すとRFPを通りにくいので、IR事業者はなかなか本音を言えないというのが現状だと思います。みなさん苦労して入札に挑んでいます。

「いかにクリーンか」「指針に沿っているか」といった形式的な話がメインで、本質的なやりとりをしていない気がしています。もう少しみんなで腹を割って、理想のIRとはなんぞや、地域や日本にとってどんなIRがいいのかを議論すべきだと思います。

玉置:国際競争力のあるIRを実現するための議論としてなにから始めるべきでしょうか?

大屋:そもそもIR(統合型リゾート)は非常に定義の広い言葉。だから、日本型IRでのIRとはなにかをまずはきちんと定義する必要があります。マカオのまね、シンガポールのまねをしても、意味がない。特に日本は素晴らしい観光資源やインフラ、コンテンツに恵まれており、他国のIRともまったく異なる特徴や優位点があります。まずはその棚卸しから始めるべきだと思っています。

玉置:今後、日本型IRを作るにあたって、オカダ・マニラから学べることはありますか?

大屋:たとえば、オカダ・マニラで日本の花見のようなイベントをやると、お客さまは来ます。サクラの木のオブジェをずらりと並べると、入場者も増えるし、けっこう写真も撮ってくれます。日本の炉端焼きや寿司もみなさん大好きですし、日本の「和牛」という言葉はフィリピンで普通の言葉として使えます。

同じように日本の「おもてなし」という言葉は、フィリピンで使えます。日本流の高いホスピタリティのことをおもてなしと表現するんです。単純に着物を着て、「いらっしゃいませ」と挨拶するだけで、これは日本のコンテンツなんです。しかも日本のIRでは本物が使えます。なにしろフィリピンには本物の桜がないので、どこまでいっても作り物だし、まねっこになってしまうんですよね(笑)。

海外ではこういた日本のコンテンツがある種の「あこがれ」を持って見られています。日本にいてはなかなか理解し得ない感覚ですが、実は自信を持って海外のお客さまに提供できるものなのです。是非、日本固有の素晴らしいコンテンツをIRで体験していただき、IRを通じて日本のツーリズムのレベルを底上げできればと考えています。