撤退した事業者は国のIR政策に対する不満は大きい
玉置:大阪、横浜から撤退を表明する事業者も多かったですね。
國領:今回降りた米国事業者は国のIR政策や自治体の要件への不満が高かったと思います。ゲーミング税が高いとか、ライセンス期間が短いとか、いろいろな税制やゲーミング規則が明確にならないなどリスクも高すぎたのです。
玉置:これは特定の場所に限らない話ですね。
國領:はい。カジノは非常に数式にこだわるビジネスなので、基本的にすべては数式で導かれ、運に任せることはありません。変数の振り幅をリスクと捉え、最低の想定でリスクヘッジします。その点、通常6~8年の投資回収期間が、日本では10~12年に伸びてしまうので、ライセンス更新までの期間が短いことはいつも以上にリスクととられます。
北米のランド型カジノは設立以来もっとも厳しい状況に陥っています。一方、デジタルやオンライン部門への投資も必要ですし、米国ではスポーツベッティング合法化の動きも加速しています。比較的すぐ投資を回収できるこうしたビジネスがある中で、無理して日本に投資をすることに意味があるのかと考える北米事業者は多いと思います。
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玉置:コロナ禍におけるグローバルのビジネス動向が時期的に日本のIRの誘致活動にリンクしてきたわけですよね。
國領:特に大都市ほど初期投資が大きくなり、大手が関わるビジネスになってきます。大手は守るべきモノも大きいので、決断も自ずと慎重になります。今は日本より、投資回収期間が短い他のビジネスがあると見えても不思議ではないです。
ディスティネーションとしての日本のバリューは非常に高い
玉置:日本のIRの税制に関しては、いかがですか? 昨年末は訪日外国人は非課税みたいな話が出ていますが。
國領:正直、善し悪しを判断するレベルのモノが決まっていないというのが本音です。もちろん、ゲーミング税と言われても、GGRの計算にはゲームの種類や顧客層、取引などいろいろな要素が必要です。簡単な例を言うと、マカオはVIPと一般顧客で税率が違ったりしますし、もっと細かく見ると会計処理の区分けや定義なども日本と海外のゲーミング市場では異なります。
あと、外国人観光客から源泉徴収するのかという話も以前ありましたね。これは単純に課税するかしないかという問題だけではありません。たとえばラスベガスではスロットで一発2000ドル勝った場合、1200ドル以上の勝ち額には現場での身分確認があります。いったんスロットマシンが止まって、プレイヤーは日本の身分証明書をカジノ側に見せ、日本で勝った金額を申告してくれと言われます。
北米と日本は租税の協定があるのと、スロットという一発千金の性質によってこういうフローになりますが、他の国だと現地と自国で二重課税される場合もあります。税制に関しては日本政府が決めること以外にも国際的な要素があるのです。
玉置:日本人の税金に関してはいかがでしょうか?
國領:日本人に関してもカジノのもうけは一時所得になりますし、入場に必要なマイナンバーカードを使えば金額が明確にトレースされることも技術的には可能です。これを嫌がる方も一定数いると思うので、やっぱり日本のVIPは海外で遊ぶという形は変わらないと思います。
玉置:実際、韓国のカジノは日本人もかなり多いらしいですしね。逆に中国や韓国のVIP客に関しては、日本で遊びたいという人も増えるかもしれませんね。
國領:とはいえ、マカオなどでのジャンケットの枠組みは日本では使えませんので、どうやって顧客を誘導してくるかは事業者の腕の見せ所ですね。
玉置:最後に日本のIRの国際競争力についてご意見ください。最近の調査ではコロナ禍が収まったら行きたい国として日本が一位になることが増えていますよね。
國領:日本の皆様にお伝えしたいのは、ディスティネーションとしての日本のバリューは非常に高いと言うことです。日本で働きたいという方もゲーミング業界で多いですし、日本とうまく連携したいというアジアの事業者の声も大きいです。もちろん、地元のお客さんも重要ですが、国がインバウンド需要をIRの目的としている以上は、カジノ以外で来る理由を作らなければなりません。
その点、日本は観光資源も多いですし、アジアではもはやIRを新たに開発できるところが少ないので、事業者からすると日本はあきらめにくい選択肢です。日本進出について消極的な事業者でさえ、「現時点では」や「将来的には」といった時期的な条件が付く発言をすることが多いのも、そういう事業者の心情が表れていると思います。金融や輸出以外でここまで海外から日本の行政の動き、コンプライアンス意識、観光政策などが注目されることは普段ありません。間違いなく世界が見ています。
玉置:ありがとうございました。また、お話をお聞かせください。