ベイシティ國領氏、佳境を迎えるIR誘致プロセスを占う (1/3)

大谷イビサ(JaIR編集部)

 2022年4月末の区域認定計画締め切りに向けて、自治体のIR誘致活動が佳境を迎えている。現在、IR誘致に手を挙げている大阪府・市、横浜市、長崎県、和歌山県の動向を専門家はいかに読むのか? コンサルタントとしてゲーミング業界で活動するベイシティ・ベンチャーズの國領城児氏に話を聞いた。(以下、敬称略 インタビュアー KADOKAWA 玉置泰紀)
ベイシティ・ベンチャーズ 國領城児氏

5グループが手を挙げる長崎、なぜ熱いのか?

玉置:JaIR初登場ということで、まずは國領さんの自己紹介からお願いします。

國領:もともとはゲーミング機器メーカーのコンプライアンス担当をしており、その後マカオに引っ越して、アジアと欧州市場の営業やマーケティングの責任者として働いていました。シンガポール、マカオ、フィリピン、マレーシア、ベトナム、ヨーロッパ諸国などいろいろなレギュレーションの中でビジネスを行なってきたので、日本のIRに手を挙げている事業者さんは元々お客さまだったりします(笑)。

今は、ゲーミング業界のボキャブラリで海外に日本のことを伝えたり、カジノで欠かせない数字周りやコンプライアンスのコンサルティング、国際事業のビジネスネットワーキングや教育などに携わっています。今後は経験を生かし、日本のIR産業に世界標準とコンプライアンス意識を伝達しながら、地元の地域や企業の発展に貢献したいと考えています。

玉置:そんな國領さんから見て、IR誘致を進めている自治体として注目しているのはどこでしょうか?

國領:個人的に動きが面白いと思っているのは長崎県ですね。なにしろ5グループが応募して、2週間以内に3グループに絞るという大きな段階にいます。提案を受ける自治体としてはうれしい状況ですし、その反面忙しい中で大きな決断をしなければならない、いろいろな意味での競争が行なわれるでしょう。

今回は、オシドリ・インターナショナル、カジノ・オーストリア・インターナショナル・ジャパン、カレント・グループ、ONE KYUSHUに加え、NIKI とChyau Fwu(Parkview)Groupも手を挙げました。確かにアジア色は強いですが、顔ぶれが多彩で興味深いです。

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玉置:なぜ、長崎にこれほど多くの事業者が集中したのでしょうか?

國領:単純な要素を言うと都市型IRと比べたコストです。都市型IRに比べて、初期投資が半分以下になることは事業者からも算出されています。あと、基本方針の遅れで生まれた半年間を、長崎県は非常に有効に使っていました。過去に佐世保市のもの、長崎県のものだったIR計画を九州全体のIRという位置付けにシフトさせました。

細かい部分もあります。たとえば、長崎IRでネックと言われるアクセスの課題に関しても、ほとんどは解決策を用意できます。海上にある長崎空港であれば、IRまでフェリーを使い30分前後で着くのは現実的です。観光やMICEの振興という観点では、アジア圏に近いですし、九州は空港も多い。

玉置:空路だけでなく、フェリー航路もありますし、アジア圏に近いのは有利ですよね。

國領:実際に長崎は東京や大阪より韓国や中国の方が近いのは大きな武器です。MICEに関して国際アクセスは特に重要です。人の移動時間と航空券の価格だけではなく、展示物の運搬やストレージの観点も忘れてはいけませんので。

距離が短いとコストも時間も短くなります。アジア圏の観光客が長崎を経由して、九州全土、日本全土を回ってもらうという観光の流れがきれいに作れます。実現させるにはまだまだやることが多いですが、これらは区域認定計画の趣旨から考えると、有利に働きます。

玉置:行政としてのリードがよかったという部分があるわけですね。

國領:長崎に応募したグループはいろんな経験を持っていますが、日本政府が求めている規模のIRを運営した実績は企業レベルではないので、特に観光と地域の発展における成功には長崎県の努力が欠かせません。そういう部分に気付いて自発的に行政が準備を始めているところが良いポイントだと感じます。あとはしっかりとした事業者のパートナーを選定する必要がありますので、注目していきたいですね。

玉置:ただ、大手の事業者が入ってないという声もありますね。

國領:当初から都市型IRの開発を目指した事業者とは縁がなかったのでしょう。長崎県が戦略を練り直した時期には、すでにコロナによる渡航制限で決定者が現地に来られないという状況でした。ゲーミング業界の大手はワンマン企業が多く、そのトップの判断がなければ方針を変更することはありえないので、現地視察もできない状況では難しいです。それでも最後まで多くの事業者が検討していたとは思います。

玉置:ハウステンボスの横という立地についてはいかがですか?

國領:IR内にあるカジノ関連の広告は空港や港の国際線の発着ターミナル以外で禁止されているのと、IR自体にも今後広告制限が強化される中で、認知度の高いディスティネーションと隣接しているのはとても大きなメリットです。その点、山下ふ頭と言われてもピンとこない人も多いけど、ハウステンボスと言えばイメージ沸きますよね。固有名詞で認知されている場所の近くというのは、スタート時点での大きなアドバンテージだと思います。

玉置:ハウステンボスってなんだかんだ動員も多いし、インバウンド強いですからね。

プロセスをスピーディに進めた和歌山とコロナ禍


玉置:地方型である長崎のライバルとなると、やはり和歌山になります。今はサンシティとクレアベストが手を挙げていますが、こちらはいかがですか?

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國領:確かに和歌山と長崎は似ているところがいくつもありますね。都市型に比べて初期コストは抑えられますし、アクセスに関しても大阪の夢洲と比べて遜色ありません。和歌山マリーナシティという既存の施設が存在している点も、ハウステンボスの状況とは似ています。

ただ、応募してきたのが2社になったのは、単純にタイミングの問題だったと思います。和歌山の場合、2020年の春に応募を締め切ったのですが、ゲーミング事業者はコロナ禍による営業停止に加えてちょうど渡航が難しくなった時期。現地に行けない、現場を見られないという状態だったんだと思います。

玉置:大阪IRとの相互効果なども謳われていますが、いかがでしょうか?

國領:これはIR事業者個々の問題なので、それぞれのIRにとっては必ず良いこととは限りません。これだけは事業者戦略の部分なので不確定要素が多いです。たとえばそれぞれのIRのビジネスモデルとターゲットとする客層や国際観光市場にも大きく左右されます。とにかく同じパイからお客さんを取り合うのであれば、そのパイを成長させる必要があるので、IR事業者と行政だけで済む話ではありません。

玉置:和歌山は大阪のIRも見越して、プロセス自体を早めに進めていたわけですが、それが裏目に出た感じなんでしょうか?

國領:裏目に出たかどうか、結果は違ったかというと微妙なところですが、応募する事業者が多いに越したことはないとは思います。ただ、その分スピード感はやはり素晴らしくて、今年の春のうちに事業者選定を終わらせて、じっくりと区域認定計画を策定していけば、来年4月に確実に計画を提出することができます。

玉置:応募している2社は、ずばりどっちが有利でしょう。

國領:クレアベストはどのカジノ事業者と組むかで、事業計画が大きく変わります。一方で、サンシティはカジノ事業者の背景が見えているので、現時点では有利とも言えます。しかし、オーストラリアで話題になっているクラウン社のライセンス問題の動向が今後どう影響するかなど、ライセンス観点からして気になるポイントではあります。

玉置:長崎も和歌山も、すでに候補予定地が整備済みという強みがあります。

國領:そこは非常に大きいですね。開発コストという意味では、都市ほど実は見えないコストがありますから。