IRのキラーコンテンツ「eスポーツ」とはなにか? JeSUの浜村氏に聞く (1/3)

大谷イビサ(JaIR編集部) 写真●曽根田元

 今の日本型IRはカジノの可否や施設の規模にフォーカスが当たりがちで、観光客を魅了するコンテンツにまで議論が及んでいない現状がある。こうした中、IRのMICEやアリーナにおけるキラーコンテンツとして期待されているのが、ビデオゲーム競技「eスポーツ」だ。日本でのeスポーツの普及と啓蒙を進める一般社団法人日本eスポーツ連合(JeSU)の副会長である浜村弘一氏に、eスポーツの魅力や課題、そして今後の方向性までを丁寧に説明してもらった。

KADOKAWA デジタルエンタテインメント担当シニアアドバイザー/一般社団法人日本eスポーツ連合(JeSU) 副会長 浜村弘一氏

長らくビジネスにならなかったeスポーツ、2020年は離陸へ

―まずは日本のeスポーツの歴史について教えてください。

浜村:日本のeスポーツは法律上、長らく賞金を出せなかったので、ゲーマーたちは海外の大会に出て賞金を稼いできました。2010年に海外では「The Beast」と呼ばれるウメハラ(梅原大吾さん)が自分の腕を見せるために海外のイベントに出て、スポンサーがついたことで、初めてプロのeスポーツプレイヤーが生まれたのです(諸説あり)。

ただ、その後もプロプレイヤーは本当に少なかったです。なにしろeスポーツの試合を見たことある人がそもそも少ない。韓国の平昌冬季オリンピックでエグシビジョンで登場しましたが、とにかく話題先行でした。

―最近はeスポーツという言葉がメディアをにぎわせるようになってきました。

浜村:はい。このままでは日本はeスポーツ後進国になってしまうという危機感から、2018年1月に日本eスポーツ連合(JeSU)を立ち上げ、プロライセンスを発行することにしました。初めて大会をやったのが2月の「闘会議」(ドワンゴ・Gzブレイン)で、その後のアジア大会で日本が金メダルをとり、その年は流行語に「eスポーツ」が選ばれました。2019年10月には茨城で国体の文化プログラムとしてeスポーツ大会が開催されることになり、地方でも有志が団体を作って予選に参加し始めました。

2018年はメディアで「eスポーツ」という言葉が踊った空中戦で、2019年は地に足にのついたeスポーツ大会が行われるようになったんです。では、2020年はどうなるのかというと、いよいよビジネスが生まれる年だと思っています。長らくビジネスになるかわからなかったeスポーツでしたが、最近は協賛もつきはじめ、トップチームの年収はすでに1000万円を超え始めています。世界では時価総額が30~40億円規模のチームも現れていますが、日本でもこうしたチームが生まれてきそうです。

―ビジネスとしてeスポーツが離陸しそうな時期なんですね。

浜村:次にビジネスになってくるのはeスポーツの大会の運営会社だと思います。今は販促や投資として行なわれているのですが、大会の運営を受託している会社はきちんと利益を出していて、IPO(上場)を目指すところも出始めています。

今後eスポーツの課題であった法的な整備が済めば、会社対抗のような組織だったリーグ戦も増えてくるし、来年以降はプロリーグへの道も開けてきます。イベントが収益化され、放映権が設定されると、いわゆる興業が成立するようになるので、IRのコンテンツとなる大会が生まれてくるはずです。実際に「モンスターストライク」などのタイトルではすでにプロがいて、協賛もつき始めています。入場料も5000円くらいとってますね。

―eスポーツの興行は、海外に比べると大きく劣っている状態なんでしょうか?

浜村:日本は確かにeスポーツ後進国なんですが、海外でそんなに儲かっているかというとそういうわけではありません。海外のeスポーツ大会を見ても、スポンサーシップが約58%なので、現状は協賛に頼っている部分が大きい。トップ大会でも、まだまだマネタイズに至っていないところもあります。でも、今後は放映権や入場料の収入が増え、次第にプロ野球やバスケットボールのようになっていくと思います。

今の若者はプレイヤーの立場でeスポーツを観ている

―とはいえ、eスポーツってピンと来ないという方も多いですよね。特に40代以上になるとなかなか理解されない気がしますし、私もそのうちの一人ですが……。

浜村:僕らの世代だと、eスポーツが面白いと言ってもなかなか伝わらないですよね。eスポーツを楽しんでいる若者との違いは、生まれたときにネットがあるか、ないかの違いです。うちの息子もそうですが、若者はすでにテレビは観ないし、ずっとスマホ。なにを観ているかというとゲーム動画ですよね。

いまのYouTubeの2大コンテンツって、ミュージックとゲーム。アマゾンのライブ配信サービス「Twitch」はほぼゲームだし、ドワンゴのニコニコ動画も半分はゲーム実況です。つまり、動画コンテンツの主役はすでにゲーム。つまり、若者は生まれたときからずっとeスポーツを観ているような感覚なんです。

―プレイするだけではなく、動画コンテンツとしてゲームに親しんでいると。

浜村:僕らの世代だと、子供の頃はプロ野球を観て、三角ベースボールやっていたでしょ。僕は大阪だったので、阪神タイガーズの試合を毎日観て、近所の連中と野球やってました。つまり、僕らはあのときプレイヤーだったんです。

今の若者も毎日ゲームやってるプレイヤーの立場でプロのeスポーツを観ています。だから、僕らにとっての野球と、彼らにとってのeスポーツは近いと思います。プレイヤーでありながら、プロのプレイを観ている感覚です。

今後、通信が5Gになっても、インターネットを経由している限りは、ゲームが快適になるかわかりません。ただ、確実なのはスマホがテレビ化することで、圧倒的に多くの人がゲーム動画を観るようになるということです。2~3年後には電車の中やテレワークをしながら、みんながゲーム動画を観ます。僕らの世代であれば、王さんや長嶋さんのようなスター選手を観る感覚で、ゲーム動画を見る。当然、推しのスター選手が出るのであれば、ライブでeスポーツ大会を観に行くようになるでしょう。

―ゲームの画面を観ていても、やはり生の試合を観に行きたくなるものなんですか?

浜村:eスポーツって、オンラインとライブは全然違います。ライブは体で感じるから。ホールであれば、ボクシングみたいに真ん中にリングが作られます。そこに選手がいて、モニターがあって、みんなでプレイを応援する感じ。ライブの方が圧倒的に盛り上がります。

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