シルク経営破綻、コンベンションも当面開催できず
ラスベガスのオペレーターの動きでは、6月29日に連邦取引委員会がエルドラドとシーザーズの合併を受諾した。これは新型コロナ禍以前の2019年6月の買収合意によるものであり、この合併でアメリカ最大のIR事業者が誕生する。今回シーザーズがエルドラドに買収された形であるが、シーザーズのブランド名は残る。また、6月26日に、MGMリゾーツとGVCホールディングスの合弁会社であるROAR Digital社と、Sportradar社(スポーツデータとコンテンツのグローバルプロバイダー)は、アメリカでのパートナーシップを2026年9月まで長期延長することを発表した。この契約延長は、新型コロナウィルス影響下で成長を続けているスポーツベッティング(スポーツ賭博)に対応した動きである。
6月29日には、MGMリゾーツとの提携によるラスベガスでの常設公演で有名な「シルク・ドゥ・ソレイユ」の経営破綻のニュースが世界中を駆け巡った。既存株主とケベック州投資公社の協議のもとでの想定内の更生法申請ではあるが、新型コロナウィルスによるラスベガスのエンターテイメントへの打撃は計り知れない。
シソラック州知事の緊急指令では、「音楽演奏、ライブエンターテイメント、コンサート、競技会、スポーツイベントまたはライブパフォーマンスを伴う任意のイベントを再開することができる」が、「一般客のための席は引き続き閉鎖された状態であること」と事前の「理事会の承認」を条件としている。現状は観客を入れてのイベント開催が認められておらず、ライブ・エンターテイメントの通常化には時間がかかる見込みだ。
コンベンション施設を使用したイベントとしては、パンデミック後初めてとなる「グローバルゲーミングエキスポ(G2E)」の開催が発表された。同イベントは、ゲーミング業界の最大規模見本市で、2020年10月5日から8日にラスベガスのサンズ・エキスポで開催される予定。「米国ゲーミング協会(AGA)とG2Eの共同所有者であるリード・エグジビションは、疾病対策予防センター、世界保健機関、州政府、地方自治体などの公衆衛生当局からの最新のガイダンス、および会場パートナーのネットワークが敷いたプロトコルに沿ってイベントを開催することを約束する」と述べた。
※7月10日注記:その後、7月9日に、今年のグローバルゲーミングエキスポ(G2E)を中止することが発表された。依然として、アメリカ国内外、ネバダ州でも新型コロナウイルス感染拡大が続いており、不確実な状況が続くためである。
また観測記事になるが、MGMリゾーツが運営するピラミッド型のホテル「ルクソール」の解体が検討され、近く廃業するのではないかと、7月3日に報じられた。MGMリゾーツは、ルクソールの解体を公式には発表していない。ルクソールに限らず、新型コロナウィルスの影響で、維持管理コストが高い施設は大なり小なり見直しが図られることになるだろう。
ホテル再開と連動し、ラスベガスへのアメリカ国内線が増便
ラスベガスのマッカラン国際空港の5月旅客数は、92%減の合計39万1,712人と発表された。2020年4月比では157%増となった。6月8日の報道によると、空港職員から新型コロナウィルス陽性者が出たため、その後、安全管理対策が強化された。6月25日時点では、マッカラン空港の便数は200便近くに増加しており、7月には毎日280便が到着すると予想される。多くのホテル再開と連動しフライトスケジュールは増加し続けている。マッカラン空港で最も利用者の多いサウスウエスト航空は、夏の便数を増加させる。5月の87便に対し、8月には1日156便が到着する見込み。デルタ航空は5月の1日平均10便の到着便から8月には32便に増加する。デルタ航空の予想増便には、ニューヨーク、ボストン、シンシナティなど様々なデイリー便の再開も含まれている。ジェットブルーは8月にマッカランとニューアーク・リバティ国際空港を結ぶ1日2便の運航を開始。フロンティア航空は、デンバー、マイアミ、およびカリフォルニア州の各都市からのサービスを増便。スピリット航空はタンパ、フィラデルフィア、コロンバスからのデイリー運航を8月再開予定。7月初旬までには、カナダとメキシコの一部の都市からのフライトも再開される。
6月中にラスベガスでは、230軒のホテルが再開した。ラスベガスコンベンション観光局(LVCVA)の報告書によると、7月末までには12万5,000室の客室がオープンすると予想されている。LVCVAのスティーブ・ヒルCEOは、「ラスベガスの再開は、我々が予想していたよりも強かった」とコメントした。
また、大手フリックスモビリティ社の格安長距離バス「フリックスバス」の運行が、6月25日よりロサンゼルス、ラスベガス間で再開した。
変化するラスベガス、マスク氏の地下構想、ゲンティン新施設で巨大LEDお披露目
コロナ禍の中でも、ラスベガスの新たな都市計画が始動している。6月9日、ウィンとリゾーツ・ワールド・ラスベガス(ゲンティン)は、イーロン・マスク氏の「ピープルムーバー」地下計画を公表した。マスク氏の構想は、ストリップ地区の敷地から、ラスベガスコンベンションセンター(LVCC)、NFL等が開催されるアレジアント・スタジアムやマッカラン空港のすべてを接続し、地域社会を繋げることである。クラーク郡委員会で承認されれば、建設は今年後半に始まると予想されている。両社とも、イーロン・マスク氏の輸送システムへ接続するための土地利用申請書と設計計画を提出している。また、マディソンスクエアガーデン社がラスベガスで建設中の次世代型コンサート会場「MSGスフィア」のクリエイティブ・コンテンツとスタジオ・プロダクション社長に、テッド・キング氏が就任すると発表があった。キング氏はエンターテインメント業界で35年の経験があり、シーザーズパレスの「シーザーズ・マジカル・エンパイア」や、現在のウエストゲート・ラスベガスにある「スタートレック:ザ・エクスペリエンス」のコンテンツ制作にも携わったベテランだ。今回、MSGスフィアのクリエイティブプロセスを指揮する。MSGスフィアでは、巨大な円球状の構造物の、内部と外部にデジタルスクリーンが設置され、コンテンツがプログラムされる予定だ。
ギャンブル規制にも変化の動きがある。ネバダ州当局では、キャッシュレスギャンブルの拡大に向け新たなルールの検討が始まった。新型コロナウィルス流行下で、ネバダ規制当局によるキャッシュレス・ベッティング・オプションを容易にする規制がおこなわれる見込みである。エレン・フォックスマン博士、イェール大学の実験室医学科の助教授は、「通貨は常に細菌の可能性のあるキャリアとして見られている」と述べ、ゲーミング機器メーカー協会(AGEM)を代表する弁護士のダン・リーザー氏は「法令遵守の強化、特にCovid-19のパンデミックを考慮した公衆衛生と安全性の向上、さらにより責任あるゲーミングの代替案や高度な運営効率化にまで影響は及ぶ」とコメントしている。
7月4日の独立記念日は、例年各ホテルで開催されていた花火等のイベントが新型コロナウィルスの影響で縮小となった。その中で話題となったのは、ゲンティン・グループがストリップ地区に2021年夏開業する予定のリゾート・ワールド・ラスベガスでのデジタル花火だ。アメリカ最大級のビル壁を使ったLEDスクリーンに最先端のデジタル花火を表示し、西側の新しいスクリーンのお披露目となった。このスクリーンの詳細は近日中に発表される予定。また、今後も東側のタワーに19,000平方フィートのLEDスクリーンが設置される予定である。
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