地方の在り方を変える統合型リゾートに和歌山県はチャレンジする

大谷イビサ(JaIR編集部)

2018年に成立した「IR実施法」では、統合型リゾートの誘致を目指す都道府県・政令市がオペレーター(事業者)と整備計画を策定し、全国で最大3箇所が国の認定を受けることになる。統合型リゾートの誘致に前向きな和歌山県のIR推進室に話を聞いた。(以下、敬称略 インタビュアー KADOKAWA 玉置泰紀)

和歌山県 企画部 企画政策局 企画総務課 IR推進室 課長補佐兼班長 大石崇氏
 

造成済みの人口島、関西国際空港からの近さ、豊富な観光資源

玉置:まずは和歌山県として統合型リゾートの実現に向けたスケジュールを確認させてください。

大石:和歌山県としては、2018年7月に成立したIR整備法の内容を確認した上で、「IR基本構想」を策定し、8月末を締め切りとして投資意向調査(RFI)を実施しました。RFIには海外のオペレーター7社を含む33事業者から提案があり、本県への提案について具体的な数字を頂いたところ。国の基本方針が決まり次第、必要な手続きを行っていきます。

玉置:和歌山県の統合型リゾートの候補地である「和歌山マリーナシティ」について教えてください。

大石:和歌山マリーナシティは和歌山市の南端に浮かぶ人口島です。この島は1994年に竣工し、全域が造成済みのためすぐに着工が可能というのが大きなメリットになります。また、温泉施設や遊園地、リゾートマンションなどに加えて、セーリングのナショナルトレーニングセンターが設置されています。マリンスポーツ・マリンレジャーの聖地としても知られ、世界大会の開催やオリンピックの選手強化なども行なわれています。最大130フィートの船が停泊できるヨットハーバーも保有しています。

候補地の敷地面積は20.5haで、シンガポールのマリーナ・ベイ・サンズと同規模です。人口島なのでかなりチャレンジングなことも可能ですし、未来社会を見据えた実証実験等も可能だと思います。

玉置:統合型リゾートの候補地として、和歌山のアピールポイントはどこでしょうか?

大石:海外オペレーターから評価を受けたのは、関西国際空港からの近さですね。関西国際空港の利用者数はすでに年間700万人を大きく超えており、離発着数のキャパシティもあるため、遠からず成田空港を抜くと言われています。この関西国際空港から最寄りインターチェンジまで車で30分という近さは、オペレーターからも高い評価を得ています。

日本にできる統合型リゾートは、マカオやシンガポールなど先行している海外IRとの競争になります。その点、国際空港からの近さは必須の条件です。特に中国、韓国、アジア諸国からの観光客の増加を考えれば、注目いただいているポイントになります。また、県内の観光地のみならず、大阪や奈良まで約60分、京都・神戸まで約90分以内で着く抜群のロケーションのため、観光拠点としてのポテンシャルも高いと言えます。

玉置:観光拠点としての魅力も教えてください。京都、大阪、奈良に近いのはもちろん、和歌山県の観光地もユニークですよね。

大石:観光という点でも、和歌山は高野山、熊野古道、南紀白浜などユニークな観光地を抱えています。たとえば、高野山はフランス人に人気が高い場所です。最初に京都や奈良を訪問した外国人観光客が高野山を訪問すると、イメージしていた通りの神秘の宗教都市だと感じるようです。日常から隔絶された空間で、修行体験をし、精進料理を食べ、宿坊に泊まり、心身ともにリフレッシュして帰っていきます。

統合型リゾートは、こうした特徴ある観光地のハブ、外国人観光客を収容できる国際的な宿泊施設として大きな期待が寄せられています。量と質の面で、富裕層の方々をお迎えできる宿泊施設が不足しているのが、和歌山県の課題ですが、ホテルだけを誘致するのは至難の業です。統合型リゾートを誘致し、観光や地域経済の振興につなげていきたいと考えています

玉置:大阪と同じく、和歌山県は統合型リゾートに以前から積極的ですよね。

大石:和歌山県は統合型リゾートの取り組みについては、チャーターメンバーの一員であり、知事の仁坂が就任以来、研究を怠らず、IRの導入に向けた準備を重ねてきました。首長と議会がそれぞれIR誘致に向けて賛成し、リスクをとって手を挙げられる自治体はそれほど多くないと思います。

唯一心配だった大阪・関西万博も正式に決定し、関西の経済的なポテンシャリティやこれからの集客の底力がグッと上がりました。関西空港を挟んだ大阪と和歌山で、それぞれが魅力のあるタイプの異なる統合型リゾートを実現できればと思います。それが国の求める国際競争力の高い魅力ある滞在型観光の実現につながるのではないかと考えています。

現在の県内総生産額の1割に相当する約3000億円/年の経済波及効果

玉置:和歌山県が考える統合型リゾートの経済性について教えてください。

大石:前提ですが、日本での統合型リゾートは民設・民営で行なわれます。IR整備法では、都道府県や政令指定都市が手を挙げて国から区域の認定を受けるのですが、施設の建設や運用に自治体がお金を出すわけではありません。いくら和歌山県がマリーナシティに誘致をしたいと考えていても、開発したいというオペレーターがいなければ、その時点で終了なんです。公共事業と誤解され、「カジノに税金を突っ込むのか!」とおっしゃる方もいるのですが、100%民間企業による事業になります。

こうした前提の上で、客観的にどれくらいの事業性があるのか。20.5haの土地に、ホテル、国際会議場・展示施設、魅力発信施設、ツアーデスク、駐車場などを造るという条件で、監査法人に調べていただいたのですが、約2800億円の投資が行なわれ、8.7年で回収できるという結果がでました。それを踏まえて、2018年に投資意向調査をさせていただいた結果、オペレーターからは投資規模もさらに大きく、回収スピードもより速い計画を出していただきました。民間の投資意向も含め、県民の皆様に提供できるエビデンスと考えています。

玉置:民設・民営を前提として、和歌山県として考える経済効果についてどうお考えですか?

大石:当然、和歌山県という地域を活性化し、県民の生活を豊かにし、和歌山県の良さを引き継ぐための施策になります。ホテルやカジノなど統合型リゾートの来場者数だけでも、400万人/年、経済波及効果が3000億円/年という結果が出ています。この数字は和歌山県の観光客数、県内総生産額を約1割増やすことになります。雇用も島内だけで5000人、周辺含めると2万人増えることが見込まれます。

また、納付金や入場料の収入も見込まれるので、不十分だった少子化対策に手を打ち、人口減少に対して解決モデルを作れますし、観光施策に大きな投資ができます。誘致できれば、県民多くの方にとって大きなメリットになるという話は、なるべく身近な話として理解してもらえるように説明しています。

玉置:絵に描いた餅ではなく、シンガポールのような成功事例がありますからね。

大石:シンガポールは都市国家なので、もちろんそのまま比較はできませんが、年間約1500万人規模の観光客を誘致し、観光的にも見事に成功している例だと思います。最近は、日本人の多くがシンガポールと言うと、マーライオンではなく、マリーナベイサンズを思い出します。やっぱりこのアナウンス効果はすごいと思います。

玉置:統合型リゾートはインバウンドの量だけでではなく質にも大きな影響を与えます。

大石:量的なものは言わずもがなですが、期待しているのはやはり質の部分です。日本政府の目標でもありますが、お客様が消費してくれる単価が増えれば、定住人口に対する貢献も大きくなります。その意味では、ビジネスホテルを作るのではなく、富裕層に向けたラグジュアリーな宿泊施設が必要になると思っています。これまで和歌山に来てもらえなかったこうした人たちに向けてリーチできるというのが、統合型リゾート事業の大きなメリットになると思います。

経済波及効果が約3000億円という規模は、東京や大阪といった大都市だと小さいのですが、和歌山県の経済規模を考えれば「地域の在り方を変える」くらいのインパクトのある事業なんです。大都市圏と地方の人口を格差をどうするか? ゴールデンルート以外の観光客をどうやって増やすのか? 人口減少した中、国力をどのように維持していくか? などを考えると、われわれは統合型リゾートの誘致にチャレンジし、新しい産業を和歌山県に組み込んでいく必要があると考えています。(続く)