【日本型IRの夜明け】マカオを中心とした中華系オペレーターのプロフィール (2/2)

塚田正晃(タイトエンド)

 マカオのカジノライセンスは当初、最大3社とされていましたが、この3つのライセンスを分割しサブライセンスという形でそれぞれ1社ずつ、合計6社にライセンスが与えられることになりました。サブライセンスに関しては、「さらなる資本の流入を促進」、「健全な競争環境を整える」等々前向きな理由が掲げられていますが、付け焼き刃的な不透明な部分も指摘されていました。続いてサブライセンスを獲得した3社を見ていきましょう。

・MGMチャイナ
 SJMのサブライセンスを獲得したのは、前回のアメリカ編でご紹介したMGMが、中国資本と提携して設立した合弁会社です。中国側資本の代表はスタンレー・ホーの娘のパンジー・ホーで現在副会長に就任しています。資本比率は刻々と変化していますがやはりホー一族の意向が強く反映されるとともに、アメリカ資本のMGMも現地での活動がしやすくなっているとする見方もできるようです。宝石箱を積み重ねたようなMGMグランドマカオとMGMグランドコタイの2つの大型リゾートを中心に運営しています。アメリカ的な洗練された豪華さ、快適さを演出しています。日本での活動は本家のMGMが大阪に取り組んでいます。

MGMグランドマカオ

・メルコ・リゾーツ
 ウインのサブライセンスを獲得したのがメルコ・リゾーツです。若き総帥ローレンス・ホーはその名が示すようにスタンレー・ホーの息子です。スタンレー・ホーも経営に参加している時期がありましたが、SJMとの資本関係は否定しており、SJMのデイジー・ホー氏、MGMのパンジー・ホー氏とも距離を置いているとされています。とはいえ、マカオの6つのカジノライセンスの半分にホー一族に名を連ねる人物が関与している事実は、様々な憶測を呼んでいます。ちなみにスタンレー・ホーには4人の妻との間に17人の子供がいますが、この3人は全員2番目の奥様が産んでおり、次女(デイジー)、長女(パンジー)、末っ子で長男(ローレンス)という関係になります。

 参入当初はオーストラリアの大手オペレーターであるクラウン社と提携しており、メルコ・クラウンとして活動していました。クラウン社との提携解消後、一時はクラウン社の株の取得を検討していましたが、オーストラリアの行政側のルールに反した行動が指摘され撤退しています。

 映画の街ハリウッドをテーマにした「スタジオシティ」と、ラスベガスのシルク・ド・ソレイユの演目「O」などの美術監督を招聘して作り上げた人気コンテンツ『ハウスオブ・ダンシングウォーター』を上演する「シティ・オブ・ドリームズ」という、ファミリー層をターゲットとした2つの施設が人気です。さらに富裕層向けとして、日本の国立競技場の最初のデザインを担当したザハ・ハディド氏の特徴的なデザインによる「モーフィアス」を加えた合計3施設をマカオで運営し、フィリピンのマニラでも2施設を運営しています。

 日本IRでは横浜IRの最終2候補にまで残り、モックアップや具体的な展開案の提示まで行なっていましたが、横浜市側の撤退により、これらのアプローチも消滅してしまっています。

・サンズ・チャイナ
 アメリカのラスベガス・サンズの現地子会社です。マカオでは5つの施設を運営しており、旗艦となるサンズ・マカオのほか、ベネチアをテーマにした「ベネチアン・マカオ」、パリをテーマにした「パリジャン・マカオ」など特定のエリアのイメージをテーマにしたホテルが多いのが特徴です。やはりコロナ禍の中2021年にオープンした最新の「ロンドナー・マカオ」はデビッド・ベッカムをアンバサダーに迎え、ビッグ・ベンの風景を再現するなどイギリスのロンドンをテーマにした施設です。

夜のパリジャンマカオ

2022年のカジノライセンス更新を迎え、ルールはまた変わっていく

 現在マカオでカジノライセンスを持つ企業は以上の6社です。2002年に相次いで発行されたライセンスの有効期限は20年間でした。つまり今年、2022年でライセンスは失効します。発行日のずれにより多少のばらつきがありましたが、すべての有効期限が6月26日にいったん揃えられ、新たな法律の整備が追いつかないことを理由に、今年の12月31日まで延長されています。

 マカオ行政府は現状のカジノライセンスの更新ではなく、新たなルールに沿った形で再入札によって事業者を選定するとしています。今回の改定でサブライセンスは廃止され、最大6つのライセンスを上限としています。ライセンスの有効期限は10年(プラス3年のオプション付き)に短縮され、マカオの永住権保有者の出資比率も最低10%から15%に引き上げられる見通しです。ライセンスを希望するオペレーターは、ジャンケットの取り扱い、非ゲーム要素の内容、CSRに関する提案等々、新たなルールに則った企画案を盛り込んだ申請書の提出を求められています。

 2007年にラスベガスを抜いて世界一のゲーミングの街となったマカオは、コロナ前の2019年に2925億マカオパタカ(当時のレートで約4.8兆円)のGGR(ゲーミングによる総売上)を達成していました。コロナ渦に巻き込まれた最悪の状況から回復を見せているとはいえ、2022年最新予測では1300億マカオパタカ(現在のレートで2.2兆円)とまだ半分という状況ですが、大きな利権であることは変わりなく、6つのライセンスを巡って新規参入も含めた争奪戦が活発化しています。対立を深める米中間の駆け引き、ホー一族の動向、虎視眈々と新規参入勢力。さらに万が一ライセンスの確保ができなかった場合の既存施設の行方はどうするのかなど、当分マカオからは目が離せない状況にあります。

 次回はその他のエリアのオペレーターの状況を見ていきます。