法制度まで進んだIR もっと積極的に発信すべき
玉置:そんな岡部さんから見て日本型IRやその課題とはなんでしょうか?
岡部:電通としては「日本版IR」と言っていたのですが、コロナ以前はインバウンドも好調だったし、日本の先進技術をIRに凝縮し、世界で一番のIRを造るというイメージでした。カジノの現場も今は紙幣が飛び交っていますが、将来日本にIRが開業する頃にはデジタル化が進み、キャッシュレスになるかもしれないと漠然とイメージしていました。
法制化で見れば、日本はカジノのみを対象とするのではなく、より広いIRで営まれる事業を対象とする世界で初めての規制になります。そういった規制も含めて、日本型IRというイメージが作られていったのでしょう。
玉置:結果的に、日本では多くのオペレーターが撤退を表明し、その背後では税制や規制が厳しいという理由があったと思うのですが、オペレーターの立場からどうですか?
岡部:はっきり申し上げますとIRのオペレーターにとって、税制は一番重要なポイント。これが今日時点でもまだ明確に決まったわけではありません。税制が決まらないと、投資計画を決められないのは、どのオペレーターにとっても共通の課題だと思います。
玉置:政府のIRに向けての姿勢はどうお考えですか?
岡部:今のこの時勢をピンチと捉えるか、チャンスと捉えるかで、次の時代への仕掛けは変わってきます。どんな時代であっても、IRなど新事業を始める前にはいろいろな壁が立ちはだかるし、逆風にもさらされます。でも、2018年にIR整備法が満を持して成立したのだから、今後日本でどのように具体的に実現させ、事業を定着させていくかみんなで考えていかなければいけません。
その点、自治体はともかく、最近政府のIRに関するコメントが少ないのがちょっと気になります。観光を主軸に置いているIR事業はある意味「平和を維持するための産業」と私は思っていますし、日本が取るべき最重要課題とも言えます。もっと発信力を強めていかないと、孤軍奮闘してきた自治体をはじめ、団体、企業なども寂しく感じると思います。
日本型IRは「規模」ではなく、もっと「品質」にふっていい
玉置:長らくIR業界を見てきた岡部さんから見て、日本型IRの要件についてはどうお考えですか?
岡部:そもそも、これからつくるIRって、こんなに巨大な施設要件のままでいいのか?という疑問はコロナ禍を経験している中で強くなってきました。もちろん、この段階でこれを言ってしまうと、実現可能性は確かに遠のくのですが。でも、世界中見回すと、やはりコロナ渦の影響は大きかったわけで、施設要件の緩和や法律の改正はコロナ禍の影響を鑑みると国民は理解すると思います。
日本のIRって当初から「世界最高水準」を目指してきた。だから、要素ごとに因数分解すると、どうしても大きさや規模の勝負になってしまう傾向にありますね。でも、地域によっては立派なMICE施設がすでにあるので、IRで同じ規模、あるいはそれ以上の施設をつくる必要性をどうしても考えてしまいます。さらにコロナ禍でオンライン化が格段に進んだので、全部のイベントがコロナ前の状態に戻ってくるとは思えない。だから、「規模や量」だけじゃなくて、もっと「内容や品質」にこだわっていいと思うんです。ですから地域の関係者との対話、コンセンサスが重要になるのです。
玉置:政府がIRに注力し始めたのって、インバウンドに加えて、MICEを盛り上げたいという理由が大きくあります。でも、そもそもコロナ禍でイベントや展示会が次々と中止になって、オンライン化するイベントが普通になってきました。IRにおけるMICE自体のあり方をどうするか根本的に問われている気がします。
岡部:アフターコロナは、以前には戻らない。でも、前に戻らないことって、悪いことではなくて、その次に新しいことが考えられる。もっとクリエイティブな思考が出てくるはず。シンガポールのIRが誕生してから約20年後に日本のIRが誕生するとすれば、それは一体どんな魅力と価値を提供できるのかが勝負ですね。
私も電通時代からいろいろなイベントを経験してきましたが、リアルのイベントで得られる臨場感はやはりワクワクしますし、重要です。しかしながら、あとえばリアルのコンベンションだとどうしても会場の限界があるし、来られない方もいっぱいいます。オンラインと組み合わせれば、もっと多くの人が参加できます。これはコロナ禍がもたらした新しい世界観ですよ。
玉置:テクノロジーの進化が大きいですよね。
岡部:今、多くの自治体で「スーパーシティ」という構想を進めているじゃないですか。IRって、そういったスーパーシティとも親和性が高い。海外や国内から多くの人たちがIRに集まってくる中、いかに快適に過ごしてもらえるか。こうした環境作りのために、AIなど最新テクノロジーを駆使してより効率的なIRの運営を実現可能とします。IRをテクノロジーの実験場として、使うことが可能になり、日本のお家芸を披露する場にもなります。