IR、みどり、LGBTQ、留学生まで 大阪観光局 溝畑理事長に聞いた反転攻勢の戦略 (1/3)

大谷イビサ(JaIR編集部)

 コロナ禍で大きく傷ついた大阪を復活させるべく、元観光庁長官の溝畑宏氏率いる大阪観光局が次々と新しい手を打っている。大阪・関西万博やIRを見据え、観光だけでなく、MICE誘致、LGBTQ対応や留学生の受け入れなど、まさに全方位的に進めている反転攻勢について溝畑氏に話を聞いた。(以下、敬称略 インタビュアー JaIR編集委員 玉置泰紀)
 

IRは観光新時代の到来に向けた起爆剤


玉置:今回IRに限らず、幅広く大阪観光局の施策についてお聞きするのですが、とはいえIRのメディアということもあるので、まずは大阪のIRについての方向性をお聞かせください。

溝畑:他の自治体に比べ、大阪のIRは非常にうまく進んでいる印象を受けていますので、実現に向け今後もしっかりやっていきたいと考えております。私は観光庁長官の時代から、IRには従来の日本の観光にはなかったエキスが詰まっており、日本の観光を進化させる起爆剤だと主張してきました。

ただ、コロナ禍で先行き不透明な中、IR経営を舵取りしていかなければなりません。事業者とは条件交渉を進めていきながらも、「いいものを作る」という意味では、互いに信頼関係を築き、中長期的なビジョンをもって進めたいと考えております。

玉置:事業者とのコミュニケーションが重要と言うことですね。

溝畑:はい。IRのプロジェクトというのは、IRに限らず、鉄道の延伸や空港機能の強化など、都市のさまざまな再開発を誘発するからです。今まで大阪に足りなかった富裕層対策、日本に眠っていた観光資源の掘り起こしなども進み、観光新時代の到来に向けた起爆剤になると思っています。

IRに関しては、これからもいろいろな山と谷があると思いますが、大阪ではこれまで12年に渡って丁寧にIRのプロジェクトを進めてきており、反対意見も取り込んできました。これからもいろいろな意見を反映し、日本のIRを代表する施設として発展させ、全国のみなさんに送客していきたいと思います。
 

インバウンドの「ジャンプ」は2024年以降 復活には大きなビジョンが必要


玉置:コロナ禍で関西・大阪の観光は大きく傷つきました。こうした中、大阪の観光をどのように進めていくのでしょうか?

溝畑:まず国内観光に関しては、感染者が落ち着いていることもあり、安心・安全を基本としながら、しっかり伸ばしていきます。とはいえ、コロナ下の入国制限も長期的には緩和されてくるので、インバウンドの再開に向けた準備も必要です。ここで重要なのが、「量から質への転換」です。

来週は韓国、来月は台湾の観光事業者とミーティングを行ない、インバウンド再開に向けた摺り合わせを進めます。というのも、インバウンドと言っても、やはり入国と出国のバランスが重要になるからです。隣国の観光事業者も大変な状況なので、お互いに知恵を出し合い、絆を深めて乗り越えていかなければなりません。

玉置:今回のパンデミックは日本だけの問題ではないですからね。

溝畑:なにしろインバウンドは2年間ほぼ休眠状態です。観光業界に関わる多くのステークホルダーともきちんとコミュニケーションをとって、次に向けて準備してもらわなければなりません。明るい未来を展望していかないと、どんどん気持ちが下向きになってしまいますからね。

2022年はそのための助走の時期であり、2023年には2019年の水準に戻します。そして万博がある2025年に飛躍させ、2030年の来阪外国人客数2000万人へとジャンプを遂げていきたい。つねに出口を意識しながら、ロードマップをひき、明るい未来を展望し、モチベーションを上げていく。これがわれわれに求められていることです。

玉置:先日お伺いしたときに、「アジアNo.1の国際観光文化都市」という言葉をお聞きして、心がワクワクしたんですけど、そこを目指すということですよね。

溝畑:僕がJリーグを始めたとき、目指したのは日本一でした。その後は世界一に行くぞと思って仕掛けを作りました。大きな経済を動かす人・モノ・カネ・情報を集めるには、やはり大きなビジョン、夢が不可欠です。すなわち、ストーリー、テーマ、チャレンジ、イノベーションを語るリーダーが重要です。ビジョンや夢ができると、ロードマップができてくるんですよ。ロードマップができると、ステークホルダーといっしょに戦略が作ることが可能になります。

歴史的に見ても、1500年前に異国の文化をいち早く取り入れてきた大阪のミッションは、アジアの玄関口です。五代友厚は「大阪をアジアのマンチェスターにしたい」と言いましたが、「私が令和の五代友厚となって、大阪をアジア一、世界一にするんだ!」という決意で取り組んでいます。