海外のIR拠点と連携したスポーツを活用したPR活動
今までのIR事業者の事例で注目すべきは、スポーツを絡めて、ラスベガスと日本、大阪を結びつける立体的な活動をしていたMGMだ。少し前の話になるが、2019年3月に東京ドームで開催されたメジャーリーグベースボール(MLB)の試合で、日本MGMリゾーツは「MGM MLB 開幕戦」のメインスポンサーとなった。この試合はイチロー選手の引退試合ともなり、かなり話題になった。本社のMGMリゾーツ・インターナショナルが、メジャーリーグベースボール(MLB) 日米における新規包括的パートナーシップ契約を締結し、イチロー選手が所属していたシアトル・マリナーズが開幕試合を日本で開催するという絶好の機会に、最も効果的な形で実現した事例だろう。かつ、大阪IRでMGMが提携しているオリックスは、かつてイチロー選手が所属していたプロ野球球団を抱えており、直接的にIRについて明示しなくとも、大阪IRのストーリーに繋げられるプロモーションであった。
また、MGMリゾーツ・インターナショナルのラスベガスの施設では、ボクシングの試合が行われるが、日本人のプロボクサー村田諒太選手の支援などでも、日本とラスベガスを結び、自社ブランドをアピールしていた。
しかし、同社はコロナ以降、ラスベガスの回復が遅く、大阪IRの動きもトーンダウンしている。
●日本MGMリゾーツ、3/20,21に東京ドームで開催される 「MGM MLB 開幕戦」のメインスポンサーに(2019年2月26日)
関連サイト https://www.mgmresorts.co.jp/news/711/
●MGMリゾーツ・インターナショナルとメジャーリーグベースボール(MLB) 日米における新規包括的パートナーシップ契約を締結(2018年12月4日)
関連サイト https://www.mgmresorts.co.jp/news/687/
●MGMリゾーツが公式スポンサーを務めているプロボクサーの村田諒太選手
関連サイト https://www.mgmresorts.co.jp/news/701/
日本でもIRでのスポーツビジネスが成長するのか
今後、IR事業者のスポーツ支援どうなっていくのだろうか? 考えられるのは、選考から脱落した事業者は、(次の立候補を狙うなど別の目的が無い限り)現在の契約期間をもって、支援が終了してしまうだろうということだ。逆に、選考に残った場合、既にスポーツ支援している場合は継続していくことが前提となるだろう。ただし、コロナ以前からの支援だった場合、契約継続時に何かしらの交渉はあるかもしれない。スポーツチームにとっての引き続きIR事業者に支援してもらう場合、メリットとしては、資金面の充実はもちろん、IR開業後はイベントで新たな施設を活用することができ、集客面でも相乗効果が期待できることだろう。また海外事業者の力で、海外のスポーツチームとの交流なども可能性としてはあるかもしれない。IRがスポーツ教育の拠点としての役割を果たすことも考えられる。
デメリットとしては、これは企業とスポーツ側の双方に言えることだが、どちらかにスキャンダルが起きた場合の影響は大きい。また、日本では、スポーツベッティングは違法行為だが、スポーツファンや住民の中でも、ギャンブルとスポーツを近く結びつけることに対してアレルギー反応が全く無いわけではない。その点も考慮に入れるべきだ。
支援されるスポーツの種類は、今後広がっていくだろう。IRへの立候補段階では、あくまで企業の認知度アップのためのスポーツ支援という色が強かったため、サッカーやバスケットボールなどの従来からある人気スポーツに対しての支援が多かった。しかし、地域と事業者の組み合わせが確定し、実際にIRでおこなうスポーツイベントを考えた場合に、従来型の人気スポーツだけでなく、コンピュータゲームで対戦する「eスポーツ」、アクロバティックな「エクストリームスポーツ」、パリオリンピック大会で新競技として採用されたダンス等の新たなスポーツ分野への接近も考えられる。IR内でリーグや大会を開催する場合に、何かしらのスポンサードの可能性もあるだろう。あとは、対価に見合う価値をIRや地域にもたらすことができるのかによる。
IRのコンテンツとしてのスポーツは、プロスポーツを観戦するような「見るスポーツ」だけではない。身近なところではジョギングやサイクリング、リゾートと結びついたアクティビティのゴルフやダイビングなど、自分自身が体験して楽しむ「するスポーツ」まで広げるとスポーツ分野の裾野は広い。また、アメリカなどの海外では、スポーツを賭けの対象とするスポーツベッティングが急成長し、ランド型カジノ内にスポーツベッティングのエリアが設けられてもいる。また、IRのアリーナでは試合が行われ、スポーツは切っても切れない関係である。日本のIR実現に向けて、今は単純に協賛関係にとどまっているが、将来的に日本でもIRでのスポーツビジネスが成長するのか。長期的に追いかけていきたい。
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