サンズ、ラスベガスから撤退、アジア市場に集中

JaIR編集部

 大手IRオペレーターのラスベガス・サンズは、現地時間3日、同社が所有するラスベガス(アメリカ・ネバダ州)の施設と事業を62.5億ドル(約6,700億円)で売却することで合意したと発表した。売却にはベネチアン・リゾート・ラスベガスと、サンズ・エキスポ&コンベンションセンターが含まれる。

 ラスベガス・サンズの経営陣は、先日亡くなった創業者のシェルドン・アデルソン氏と彼の会社をゲーミング業界のトップに押し上げたベネチアンの売却は、ほろ苦いものとなるだろうが、会社が新たな成長の展望を追求する機会は十分にあると述べた。

 会長兼最高経営責任者(CEO)のロバート・ゴールドスタイン氏は、「当社は成長を重視しており、さまざまな面で有意義な機会があると考えている」、「アジアは引き続き当社のバックボーンであり、マカオとシンガポールでの展開に注目しています。私たちは常に自社の不動産とこれらのコミュニティに再投資する方法を探しています」と語った。続けて、「アメリカ国内にも潜在的な開発機会があり、多額の設備投資がこれらの地域に大きな利益をもたらすと同時に、当社に非常に高いリターンをもたらすと確信しています」とコメントした。

ラスベガス事業からは撤退、アジア市場に集中する
 

投資会社アポロ・グローバル・マネジメントの関連会社がラスベガス事業を買収

 同社の社長兼最高執行責任者(COO)であるパトリック・デュモン氏は、「アジア事業への再投資と株主への資本還元という当社の長年の戦略は、今回の買収によってさらに強化されるだろう。さらに、当社の業界は進化を続けており、特にデジタル市場に関連しているため、その可能性を追求することに力を注いでいます」と述べた。

 新型コロナウィルス流行以前のラスベガス・サンズの全体売上のうち、ラスベガス事業の割合は15%未満であった。今後は、売上規模が大きく、収益性も高いアジア市場に集中することとなる。また、今回の売却によって得た追加資金の行方にも注目が集まる。

 売却の交渉では、「Pioneer OpCo LLC」と呼ばれる事業体(投資会社アポロ・グローバル・マネジメントの関連会社が管理している特定ファンド向けの合同会社)が、ラスベガス・サンズのラスベガス事業の営業資産と負債を保有する子会社を買収する。ニューヨークを拠点とする投資会社のアポロ・グローバル・マネジメントは、これまでもカジノセクターへの投資を積極的に行っており、最近になってゲーミング業界への投資を引き上げた。

 買収の対価は、特定の決算後調整の対象を条件に現金約10.5億ドル(約1,124億円)、タームローン(一定期間にわたって定期的に返済される金銭的ローン)および担保契約による売主からの資金調達約12億ドル(約1,284億円)となる。

 処分プロセスの一環として、不動産投資信託(REIT)ビシ・プロパティーズの子会社が、ベネチアンを含むラスベガス事業の不動産および関連資産を保有するラスベガス・サンズの子会社を約40億(約4,281億円)ドルの現金で取得する。なお、ビシ・プロパティーズは、現在のシーザーズ・エンターテインメントが以前発表した情報によると、シーザーズ・カジノブランドの破産再編の一環として、同グループの元債権者の一部によって設立された不動産投資信託である。

 ラスベガス・サンズは、売却に関し、「ラスベガス売却の完了は、規制当局の承認を含む慣習的な完了条件に従うことになる」と報告している。ウォールストリートジャーナルによると、ラスベガス・サンズの広報担当者は、引き続き、本社をラスベガスに置く予定であると述べている。また、同社はニューヨークとテキサスでの事業拡大の機会を検討しており、オンラインギャンブルの機会も模索していく見込みだ。

 ヴェネチアン・リゾートは、新型コロナウィルスの感染拡大により、2020年3月から6月3日まで一時的に閉鎖していた。施設再開後も旅行者数は回復しておらず、稼働率が制限される中での売却となった。また、サンズのIRビジネスの肝とも言えるサンズ・エキスポ&コンベンションセンターも、2020年3月から一時的に閉鎖となり、10月になって試験的なイベントが実施され、再稼働し始めており、6月の大規模な展示会が発表された矢先の出来事だった。

 ウォールストリートジャーナルによると、会議やトレードショーのためのビジネス出張は今年の後半に増加すると予想されているが、パンデミック前のレベルに達するまでには数年かかるだろうと、ホスピタリティ業界の幹部は予測しているという。ラスベガスのネバダ大学のカジノ歴史家であるデビッド・シュワルツ氏によると、「この取引が地域経済にとってどのような意味を持つかは新しい所有者の物件に対する計画次第だ」 と述べている。

 現地の報道では、今回の買収に関わるアポロ社は、旅行者の増加やビジネスミーティングの再開に伴い、ラスベガスの施設の需要が回復していると見ていると述べる。アポロ社パートナーであるアレックス・ファン・ホーク氏は「今回の投資はまた、ワクチンが米国および世界中のレジャーと旅行の再開をもたらすことで、ラスベガスの力強い回復を確信している」と述べた。


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