【新型コロナのIRへの影響レポート】ラスベガスから始まるウィズコロナ時代の新たな潮流 (3/3)

二上葉子

アリーナやコンベンション施設の建設・開業

 コロナ禍の中でも、スタジアムやコンベンション等新施設の開業や工事、新たな都市計画が動いている。大型施設は都市のランドマークになるだけでなく、そこから新たなビジネスが生まれるとも言える。今年のラスベガスでの明るい話題の一つが、アレジアント・スタジアムの開業だろう。NFLチームがラスベガスに移転することで、現地での新たなスポーツビジネスが生まれ、後述するスポーツベッティングのビジネスとも関連し、新たな流れを生み出している。


●アレジアント・スタジアム開業
 アレジアント・スタジアムは、20億ドル(約2,108億円)をかけて建設され、約2年の建設期間を経て今年7月に正式オープン。愛称「デス・スター」(映画「スター・ウォーズ」にちなむ名前)と呼ばれる。9月21日には、NFLチーム「ラスベガス・レイダース」の初のホームゲームを無観客で行った。当日は無観客試合にも関わらず、会場外の各所にはファンが集まった。セレモニーでは、スタジアムのトーチの点火、ハーフタイムにはラスベガス出身のロック・バンド、ザ・キラーズ のライブが行われた。最新鋭の施設でのNFLデビュー戦では、レイダースは34-24でニューオーリンズ・セインツに勝利した。スタジアム内にはレイダースのオフィシャルチームストア「レイダー・イメージ」もオープンしている。


アレジアント・スタジアムのライブ映像より


●ラスベガス・コンベンションセンター西ホール拡張
 他に新たな施設完成の動きとしては、ラスベガス・コンベンションセンターが西ホール拡張工事がある。10月13日にメディアにお披露目された。完成は今年12月予定。ビルの3階にある屋外テラスはイベントでも2,000人を収容することができる。9億8,830万ドル(約1,041億円)の拡張工事は、来年1月のCES2021に間に合うように完成することが予想されていた(前述の通り、CES2021はオールデジタルでの開催に変更)。ラスベガス・コンベンション観光局(LVCVA)の社長兼CEOであるヒル氏によると、西ホールを使用する展示会は、健康と安全のガイドラインに基づいて実施されるため、2月下旬か3月まで開催されない予定。

●ラスベガスの新型地下交通システム
 ラスベガスコンベンションセンターに、現在5,250万ドル(約55億円)の地下交通システムの建設を進めるイーロン・マスク氏のボーリング社は、さらに市内の観光回廊へトンネルネットワークを拡張する許可を州に求めている。フレモント・ストリート・エクスペリエンスとサーカのガレージ・マハルからアレジアント・スタジアムと同じ程度南にある約50駅を結ぶと言われている。マッカラン国際空港ターミナルへの乗り入れも計画されており、ラスベガスの新時代の都市計画として注目される。
 
●MSGスフィアの建設
 ラスベガス・サンズとマディソン・スクエア・ガーデン社(MSG)による、ラスベガスでの新型アリーナ「MSGスフィア」の建設は新型コロナの影響で一時中断していたが、10月に敷地に鉄骨梁のリフトが完成した。特徴的な球体の支柱となる240トンの鋼製架台は、これまでのプロジェクトの中で最も重い資材リフトの一部であり、全長は17,500席の会場のステージの長さに相当し、13,000トンの鋼鉄ドーム状の屋根の重量に耐える部分になるという。MSGの建設担当はこの架台は「MSGスフィアにとって重要なマイルストーン」だとコメントした。完成は2023年になる見込み。

 

スポーツベッティングの拡大

 新型コロナ感染症で、現地に足を運んでプレイするランド型のカジノは閉鎖を余儀なくされたが、一方でオンラインベッティングを楽しむ人が増え、中でも特にスポーツベッティング分野が伸長している。アメリカでのスポーツに対する賭けは、2018年に米国最高裁判所が法的解釈を変え、スポーツベッティングの禁止を覆し、スポーツベッティングを合法とするか否かは各州の決定に委ねることとなった。それを受け、ネバダ州ではいち早く解禁となっている。

 新型コロナ影響以後、2020年7月の全米でのスポーツベッティング収入は6,900万ドル(約71.6億円)で、昨年より86.2%増加した。今年の1月から7月までの賭けの総額は、昨年比3.2%増の58.8億ドル(約6,198億円)であった。この成長の多くは、新たに各州で解禁になるなど、この1年間で9つの新しい市場がオープンしたことに起因する。10月に開催されるゲーミング業界イベント「G2E」(オンライン開催)のプログラムにも、スポーツベッティングをテーマとしたセミナーが用意され、ゲーミング業界のトレンドとなっている。

 各IRオペレーターは、スポーツベッティング企業との提携、買収を発表している。スポーツ・エンターテインメントを重要視しているMGMリゾーツは、GVC社との合弁会社であるBetMGMを設立、2020年3月にアプリをローンチした。BetMGMのアプリはスマホとPC両方からのアクセスが可能で、スポーツ・ベッティングを行うことができ、現在アメリカの7州でアクセス可能。2020年末までに11州の州法の下での稼働を予定している。9月にはBetMGMが、MGMリゾーツがシーズンゲームスポンサーを務めているNFLチーム「ラスベガス・レイダース」の公式スポーツベッティングパートナーになったことを発表。9月から俳優ジェイミー・フォックスを起用した広告キャンペーンも開始し、他社に先駆けて、スポーツベッティング事業を進めている。

 また、ウィン・リゾーツは10月に入り、ミシガン州においてインターネット・スポーツベッティングおよびインターネットカジノゲーミング事業のプラットフォーム企業としてGAN社と10年契約の締結したと発表した。規制当局の承認を前提として、ウイン・リゾーツ社は2020年11月にミシガン州でオンラインサービスを開始する予定、過渡期にあるスポーツベッティング分野に、州単位で早期参入し、ブランドを高めていく狙いがある。

 シーザーズ・エンターテインメントは、イギリスの大手ブックメーカーであるウィリアム・ヒルの買収に向けた交渉を行っている。シーザーズのウィリアム・ヒルに対する入札は29億ポンド(37億ドル、約3,904億円)の評価で、カジノオペレーター間で急速に拡大するアメリカのスポーツベッティング市場とオンラインビジネスを補完する取引である。すでにシーザーズはウィリアム・ヒルとの米国合弁事業の20%保有しており、同事業はシーザーズのカジノ施設でブランドを展開していることから、別会社が買収の場合には、これを終了する権利があることも述べた。

 シーザーズはまた、この取引の資金を調達するために、ウィリアム・ヒルの米国以外の事業を担保として20億ドル(約2,111億円)の新負債を調達すると述べた。シーザーズは、アメリカでのスポーツとオンラインゲーム事業の拡大により、2021年度には6億ドルから7億ドル(約633億円から約738億円)の純収入を生み出す可能性があることを説明している。

 なお、米国ゲーミング協会(AGA)の調査によると、アメリカの成人の約13%にあたる3,300万人以上が今年、NFLの試合に賭けることを計画している。オンラインによる賭けへのエンゲージメントは、NFLファンが(新型コロナ影響を受け無観客になるなど)今シーズンへの熱意が低下している報告を踏まえ、NFLにとっても重要となる。AGAの資料によると、アメリカの成人の10人に4人(42%)が、昨年よりもNFLの今シーズンへの関心が低いと答えており、その主な要因として、リーグ周辺の政治活動の活発化(36%)、スタジアムにファンがいないこと(19%)、友人と集まって試合を観戦できないこと(17%)を挙げている。リアルな観戦が難しい状況で、オンラインによるスポーツベッティングに新たな活路を見出そうとしている。

 ※注記:今回、ラスベガスを中心にスポーツベッティングの動きを追ったが、スポーツベッティング全体の動きという意味では、全米での先住民カジノも含め、俯瞰して見る必要があるため、稿を改めたい。


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