【新型コロナのIRへの影響レポート】シンガポール 9月1日版 (2/2)

二上葉子

Withコロナの新しいIRを提案 「ステイケーション」「バーチャル会議」

 現在シンガポールでは、カジノを含めた観光施設とIRの宿泊施設が再開しているが、海外渡航制限が引き続き行われているため、シンガポール政府が、国内の「ステイケーション」需要を喚起するキャンペーンを実施している。「ステイケーション」とは、自宅近くで休暇を過ごすことを意味する造語で、ホテルなどで普段より贅沢に過ごすという意味で使用されることが多い。新型コロナウィルス感染拡大の影響により、移動制限で遠方に旅行できない状況が続いている現在、全世界的に近隣客の誘致が観光業回復のカギとなっている。都市国家であるシンガポールでは、国内旅行での長距離移動のリスクを考慮する必要が少ないとも言え、国内の宿泊施設利用を喚起する「ステイケーション」キャンペーンは有効である。

 シンガポール政府の「ステイケーション」に参加する宿泊施設は、8月21日時点で207か所。現在、すべてのホテルでステイケーションを受け付けているわけではなく、宿泊施設は、シンガポール政府観光局(STB)と、通商産業省(MTI)に承認を受ける必要があり、宿泊施設は施設検査(SGクリーン)の基準をクリアしているかチェックされる。キャンペーンでは、宿泊費用の20%〜45%が割引となり、オールインクルーシブパッケージ(旅行代金にホテル施設内の飲食、リラクゼーション施設やアクティビティ料金が含まれているサービス)、追加クーポンなど魅力的な滞在プランが用意されて話題になっている。キャンペーンは拡大しており、8月には登録施設が急増し、9月30日までとしていた受付期間を延長するホテルも見られる。シンガポール国内2か所のIRであるMBSやWRSもこのステイケーションの予約で人気を集めており、2020年下半期の業績回復の一助となることが期待される。

 このように、シンガポール政府による観光産業支援策が実施されているが、シンガポールの観光局長であるキース・タン氏はブルームバーグのインタビューで、国際的な訪問者が昨年は同国で「270億シンガポールドル(約2兆951億円)以上」を費やしていた事を参照し、観光サービスに対する国内需要(国内観光キャンペーン)は、国際需要に空いた、大規模な「穴」を埋めることができないと指摘している。

 また、ウィズコロナのIRの新しい試みとして、MBSは、8月17日に、「新しい時代」に対応するイベントを、対面での参加とオンラインでの参加者からの会話を組み合わせた開催で実施できるよう「ハイブリッド放送スタジオ」を提供すると発表した。このスタジオには最大50人が直接参加できるスペースがあり、質の良いライブストリーミングや、人物画像でのホログラムベースのプレゼンテーションを行う技術が提供される。

 プレスリリースによると、MBSではバーチャル会議に、仮想空間技術(VR、AR、XR)を組み込んだ技術を用意しており、3つのオプション「完全なバーチャルウェブキャスティング・ライブストリーミング、対面とオンラインの組み合わせ、ホログラフィック・テレプレゼンス(シンガポールのスタジオに登壇者を「ライブ」で転送)を使用する組み合わせ」でのイベントを提供する。

 MBSは、7月に、プロフェッショナル・コンベンション・マネジメント・アソシエーション(PCMA)と呼ばれる国際的なコンベンション団体とのコラボレーションにより、新しい放送スタジオのローンチを行った。リリースによると、30名以上のMBS従業員(営業およびMICEイベントに従事する従業員)が、PCMAの「デジタルイベントストラテジスト」認定スキームのトレーニングを受ける。ウィズコロナ時代の新しいMICEの在り方は、今後のIRのビジネスモデルに大きく影響を与えるだけに、新しい取り組みの行方が注目される。


マリーナベイ・サンズの最新式ハイブリッドイベント放送スタジオ
 

渡航制限解除の動きは?

 シンガポールでは、新型コロナウィルス感染が抑制されている地域との渡航制限解除の動きも始まった。シンガポールとマレーシア政府は、8月10日からビジネスや公務に関わる人の行き来と、それぞれの国で働いているシンガポール人、マレーシア人の短期帰国を認めている。中国からもビジネスに限り入国を認めている。「低リスク」であると判断したブルネイとニュージーランドの2か国についても、目的を問わない入国を認めると発表した。ブルネイとニュージーランドの入国を希望する観光客などは事前に申し込みをしたうえで、入国時のPCR検査で陰性が確認されれば、隔離期間が免除され、短期滞在が可能となる。受付開始は9月1日から。

 それ以外にもべトナム、中国など6つの国と地域もリスクが低い場所として、ビジネス以外でも徐々に緩和を進めていく見込みだ。9月1日からは「低リスク」と判断された国や地域、オーストラリア(ビクトリア州を除く)、マカオ、中国本土、台湾、ベトナム、マレーシアなどの国から入国する際の待機期間が、2週間から1週間に短縮された。

 日本との空路再開も発表された。シンガポール航空(SQ)グループのLCCスクートは2020年9月から、新型コロナウイルスの影響で運休していた日本路線を台北経由シンガポール行きの便を皮切りに順次再開する。日本航空(JAL)も、新型コロナの影響で減便・運休していた成田―シンガポール線の運航を7月3日に再開しているが、現状は限定的なビジネスや日本在住のシンガポール人の帰国などに限られた利用になる。9月より広くビジネス目的での緩和が見込まれる。

 観光目的の入国はまだ限定的ではあるが、空路の再開により、シンガポールのIRや観光業にとって最悪の時期は通り越したと見られる。


シンガポールの渡航制限は徐々に緩和へ


 また、シンガポール政府は、8月17日、企業支援策「ジョブサポートスキーム(JSS)」の2021年3月までの期限延長を新たに発表した。JSSは雇用主に賃金のサポートを提供し、経済が不安定なこの時期に地元の従業員(シンガポール市民および永住者)を維持できるよう支援する。JSSの下での賃金サポートは当初2020年8月までであったが、7か月間延長し、2021年3月まで支給するとした。業界ごとに政府負担率が異なるが、特に航空宇宙産業、航空(飛行機)、観光セクターでは雇用を維持するため、政府の負担率が高く設定され、雇用主に対し総賃金の50%を政府が提供するとあり、厳しい観光業界にとってはポジティブなニュースとなった。
 
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